●米中両国は1月15日第1段階の合意に署名、主要7項目のうち米中貿易の大幅な拡大が柱に。
●ただ合意内容は昨年12月にUSTRが発表したものと相違なく、株式市場などには織り込み済み。
●米中貿易問題は材料としていったん消化、今後は企業業績や経済指標、米大統領選が焦点に。
米中両国は1月15日第1段階の合意に署名、主要7項目のうち米中貿易の大幅な拡大が柱に
米中両国は1月15日、これまでの貿易協議を通じた第1段階の合意として、経済貿易協定に正式に署名しました。米通商代表部(USTR)が公表した文書では、主な合意項目が示されています。具体的には、①知的財産、②技術移転、③食品・農産品の貿易取引、④金融サービス、⑤経済政策と為替問題および透明性、⑥貿易拡大、⑦相互評価と紛争解決、の7項目です(図表1)。
100ページ近い合意文書のうち、③食品・農産品の貿易取引が23ページ、⑥貿易拡大が28ページを占めており、今回の合意は、米中貿易の大幅な拡大が柱となっていることは明らかです。中国は今後2年間で、工業品を777億ドル、農畜産品を320億ドル、エネルギーを524億ドル、サービスを379億ドル、合計2,000億ドルを米国から輸入することになります(図表2)。
ただ合意内容は昨年12月にUSTRが発表したものと相違なく、株式市場などには織り込み済み
今回の合意内容は、USTRが2019年12月13日に発表したものに沿っており、1月15日の米国金融市場は比較的落ち着いた反応となりました。ダウ工業株30種平均などの主要株価指数は小幅に上昇、米10年国債利回りは3ベーシスポイント(bp、1bpは0.01%)程度低下し、ドル円は1ドル=109円台後半の推移で、目立った動きはありませんでした。1月16日の日経平均株価も、おおむね23,000円台後半での小動きとなりました。
米国は合意文書の署名を受け、2019年9月に発動した対中制裁関税第4弾(1,200億ドル分)の税率を、2月にも15%から7.5%に引き下げる見通しですが、これもすでに2019年12月13日に言及されており、市場には織り込み済みです。なお、トランプ米大統領は、第2段階の交渉について、第1段階の合意が発効次第、交渉を開始すると述べ、制裁関税は、第2段階の合意をまとめた時点で、全て引き下げる考えを示しました。
米中貿易問題は材料としていったん消化、今後は企業業績や経済指標、米大統領選が焦点に
市場は、現時点で米中がいったん休戦となったことを素直に評価すると思われます。ただ、市場の関心は、すでに第2段階の協議と、残りの制裁関税の取り扱いにあり、第2段階の協議には、中国の産業補助金など構造問題が含まれると推測されます。そのため、協議の難航や制裁関税の撤廃遅延が懸念されますが、株式市場などはこれもある程度想定済みで、ここから改めて地合いが悪化する可能性は低いと考えています。
以上より、米中貿易摩擦問題は、まだ解決した訳ではありませんが、目先の材料としては、いったん消化されたとみています。ここからは、企業業績や経済指標(特に企業の景況感や生産および設備投資関連)に焦点が移り、緩やかな持ち直しの動きが、株式などのリスク資産を支えると予想します。また、2月3日の米アイオワ州での党員集会を皮切りに、米大統領選挙に対する市場の注目度も徐々に高まっていくと思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「米中貿易協議」第1段階署名…今後の展開と市場への影響は?』を参照)。
(2020年1月16日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト