●トランプ大統領は演説で、報復攻撃には言及せず、問題解決に向けた対話をイランに呼びかけた。
●市場はリスクオンで反応、日経平均は75日線、ドル円は一目均衡表雲下限がいったんサポートに。
●最終的に米国とイランは再交渉のテーブルへ、ただ道のりは険しく、市場を脅かす火種は残るとみる。
トランプ大統領は演説で、報復攻撃には言及せず、問題解決に向けた対話をイランに呼びかけた
トランプ米大統領は日本時間の1月9日未明、ホワイトハウスで演説を行い、イランが米軍駐留拠点を攻撃したことを受け、イランに追加の経済措置を科すことを表明しました(図表1)。演説では、米国がイラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官を狙い、空爆を行ったことの正当性が強調され、イランが態度を変えるまで、強力な経済制裁は続くとの方針が示されました。
トランプ米大統領は、イランが対決姿勢を後退させている様子を評価し、米国の強大な軍事力を誇示しつつも、それは使いたくないとし、報復攻撃に言及することはありませんでした。また、演説の最後には、イラン国民と指導者に対し、米国はイランのすばらしい未来を望んでいるとのメッセージを送り、新たな核合意の締結など、問題解決に向けた話し合いを呼びかけました。
市場はリスクオンで反応、日経平均は75日線、ドル円は一目均衡表雲下限がいったんサポートに
トランプ米大統領の演説を受け、イランとの全面的な軍事衝突は回避されるとの見方から、1月8日の米国市場では、主要株価指数と米10年国債利回りが上昇し、日本円が対主要通貨で下落するなど、リスクオン(選好)の動きが顕著にみられました(図表2)。1月9日の日経平均株価も、前日比325円53銭(1.4%)高の、23,530円29銭で取引が始まりました。
テクニカル分析では、日経平均株価の75日移動平均線が、1月8日時点で22,912円50銭に位置していました。1月8日の安値が22,951円18銭でしたので、日経平均株価は75日移動平均線でいったんサポートされた格好になります。ドル円は、一目均衡表(日足)の雲下限を完全に下抜けて、ドル安・円高が進むことはなかったため、結果的に雲下限(1月8日時点で1ドル=108円11銭)がドルの下値支持線となりました(図表2)。
最終的に米国とイランは再交渉のテーブルへ、ただ道のりは険しく、市場を脅かす火種は残るとみる
トランプ米大統領のイランに対する要求は極めて明確です。具体的には、イランがウラン濃縮などの核兵器開発を停止することであり、まずは米国との対話に応じることです。また、トランプ米大統領は、軍事力を行使する意図はないことを明言し、イランが対話に応じて制裁解除となれば、経済的な繁栄が得られることを示唆しました。そのため、今回の演説後、ボールはいったんイラン側に投げられた形になりました。
米国の経済制裁に苦しむイランは、極力早期に原油輸出や金融決済を再開したいというのが本音と推測されます。そのため、最終的に米国(および英独仏中ロの5カ国)とイランは、再交渉のテーブルに着かざるを得ないとみています。ただ、そこに至るまでの道のりは険しく、相応に時間を要すると思われ、市場を一時的にでも脅かす火種は、しばらく残ると考えます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米イラン対立…全面衝突回避に「金融市場」はどう動くのか?』を参照)。
(2020年1月9日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト