昨日の世界の市場では、原油価格の下落や、国債、為替市場の落ち着きなど、イランと米国の関係悪化懸念が後退した印象でした。しかし、イランによる米軍駐留基地への攻撃を受け、日経平均などは一時大幅に下落しました。ただ、一連の動きを見ると、市場はやや落ち着きを取り戻した面も見られます。警戒感を保ちながら、事態の推移を見守る姿勢が必要と見ています。
イラン報復:イラクの米軍駐留基地2ヵ所にロケット弾で報復
イランはバグダッド時間2020年1月8日未明、米軍とイラク軍が共用するイラクの空軍基地2ヵ所に複数のロケット弾を発射しました。米国防総省の発表では、米軍のイラク駐留基地は十数発の弾道ミサイルの砲撃を受けたと伝えています。なお、2ヵ所の基地は、中西部アンバル州のアサド空軍基地と北部エルビルの基地と報道されています。
被害状況は現時点では確認中と報道されていますが、米報道機関の情報では、米国人の被害は不明との報道もある一方で、被害は確認されていないとの報道もあり、情報は錯綜している段階です。米軍によるイランの革命防衛隊精鋭部隊のソレイマニ司令官殺害に対する最初の報復と見られます。
どこに注目すべきか:報復、米軍駐留基地、葬儀、ツイート
昨日(1月7日)の世界の市場では、原油価格の下落や、国債、為替市場の落ち着きなど、イランと米国の関係悪化懸念が後退した印象でした。しかし、イランによるイラクの米軍駐留基地への攻撃を受け、日経平均などは一時大幅に下落しました。ただ、一連の動きを見ると、市場はやや落ち着きを取り戻した面も見られます。警戒感を保ちながら、事態の推移を見守る姿勢が必要と見ています。
まず、日本時間8日午前の市場では、円高が一時107円台まで進行、日経平均も一時前日比600円を超える下げとなりました。海外のショックを日本市場が最初に受ける不運(?)に見舞われた格好です。また、日本時間に取引された米10年国債利回りも一時1.70%近辺まで低下(価格は上昇)しています(図表参照)。全般的にイランに関連する地政学リスクへの楽観論に水を差された形です。
楽観論の背景にあったのは、トランプ大統領がソレイマニ司令官殺害後に、イランの体制変化や戦争は意図していないこと、米国内にイラン(場所はイラク)に対する攻撃に疑問がある中で、更なる行動の拡大は考えにくい点などが挙げられます。
しかし、判断が米国の情報に偏り、イランの反発をやや見過ごしていた可能性はあります。ソレイマニ司令官の葬儀には数百万人が参加、混雑のため人々が転倒し、50人以上が死亡するという不幸な事故も報道されています。イラン国民の反応を過小評価していたのかもしれません。イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は、同国が米国に対して13の報復シナリオを検討していると表明していましたが、タイミングも含め報復について過小評価していた面が、市場の反応の大きさとなったとも考えられます。
問題は今後の展開です。イランの情報に目を向けると、米国への報復後、イランのザリフ外相は国連憲章51条の下で自衛のための相応の対応を実行し、完遂したとツイートし、さらに「われわれはエスカレートや戦争を求めていないが、いかなる武力攻撃に対しても自衛する」と述べています。
外相のツイートの解釈にもあいまいさが残り、そもそもイラン全体の考えなのか全く不明です。そのうえ、イランに限らず中東の紛争では、国の管理から外れた組織が反米行動を起こす可能性もあり、安心材料とはならないでしょう。それでも戦争に反対する勢力がいることは確認できそうです。
同じツイートということで、攻撃後のトランプ大統領を見ると「全て問題ない。犠牲者と被害の状況を現在調査しているところだ」と、自分で仕掛けておきながら、という面はありますが、一応安心感を訴える内容となっています。また同ツイートで、米時間8日午前に声明を発表することも表明しています。目先はこの声明に注目しています。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『イラン、米軍駐留基地へ報復攻撃…市場は警戒しつつ落ち着きも』を参照)。
(2020年1月8日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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