タイ中銀、バーツ高抑制に向け資本流出規制をさらに緩和へ

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新興国の通貨を見渡すと、昨年8月にトランプ大統領が中国への追加関税を示唆した頃から新興国通貨安が全般に進行しました。チリやブラジルなどは為替介入で自国通貨を下支えしました。一方タイはほぼ一貫してバーツ高で、通貨安に苦しむ国からすれば、うらやましい状況にも見えますが、タイ当局の悩みも深いようです。

タイ中銀:タイバーツ高抑制に向け、資本流出規制をさらに緩和する方針を示唆

タイ銀行(中央銀行)のウィラタイ総裁は2020年1月8日のインタビューで、バーツ高の抑制に向け(図表1参照)、今後数カ月間で資本流出規制をさらに緩和していく方針を示唆しました。これを受け、バーツは下落しました。

 

日次、期間:2019年1月9日~2020年1月9日(日本時間正午) 出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表1]タイの政策金利とバーツ(対ドル)レートの推移 日次、期間:2019年1月9日~2020年1月9日(日本時間正午)
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

 ウィラタイ総裁によると、タイ銀行は輸出業者が海外で保有できる上限金額を引き上げるほか、外貨預金口座の規制を緩和し、保険会社に国外での投資を認めるための措置を講じていく計画を示唆しています。

どこに注目すべきか:バーツ高、米中貿易戦争、民政、外貨準備高

新興国の通貨を見渡すと、昨年8月にトランプ大統領が中国への追加関税を示唆した頃から新興国通貨安が全般に進行しました。チリやブラジルなどは為替介入で自国通貨を下支えしました。一方タイはほぼ一貫してバーツ高で、通貨安に苦しむ国からすれば、うらやましい状況にも見えますが、タイ当局の悩みも深いようです。

 

タイのプラユット首相は昨年12月にバーツ高を抑制するため「ドルでの支出を考える」とコメントしました。これが、どのような政策に結びつくのかは謎でした。ただ、コメントの中で、バーツ高の理由として、継続的な経常黒字、資本流入、外貨準備高の増加を挙げています(図表2参照)。

 

月次、期間: 2016年1月~2019年11月、外貨準備高は週次、19年末迄 出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表2]タイの外貨準備高と輸出(前年同月比)の推移 月次、期間: 2016年1月~2019年11月、外貨準備高は週次、19年末迄
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

資本流入を増加させた要因として、プラユット新政権を生み出した民生への復帰もあげられます。14年5月のクーデター後の軍事政権から、19年3月の総選挙を経てプラユット新政権が誕生しました。もっとも政権与党は19党連立と異例の体制です。それでも、試金石といわれた20年度予算を無難に消化、海外からの資金流入を助けたと見られます。

 

次に、バーツ高のマイナス面を見ると、貿易を主力産業とするタイで輸出が前年比でマイナスとなっていることです。原因は米中貿易戦争の余波という面が大きいのでしょうが、このような状況でのバーツ高は泣きっ面にハチといった印象です。結果としてタイのGDP(国内総生産)成長率は18年には前年比5%前後で推移していましたが、19年7-9月期成長率は前年比2.4%へと低下しました。またタイ中銀が年初に公表した金融政策レポートで20年の成長率予想は2.8%と、前回の3.3%から下方修正しています。

 

最後に、想定されるバーツ高対策を振り返ると、問題点も浮かび上がってきます。

 

まず、主要な政策である政策金利の引き下げです。19年は8月と11月に0.25%ずつ引き下げていました(図表1参照)。ただバーツ高を反転させるには至っていません。一方でタイ中銀は低すぎる政策金利にも警戒感を抱いている模様です。さらなる利下げ(次回金融政策決定会合は2月)も可能性はありますが、慎重姿勢も強まると見られます。

 

外貨準備高の水準が高いことから為替介入(先の南米とは反対の自国通貨安の介入)も選択肢です。ただ、タイの対米国経常黒字は200億ドル近辺と、為替操作国の規準に近づいており、こちらも慎重さが求められます。

 

伝統的な為替高対策(利下げや介入)は控えめにしつつ、他の政策手段を試行錯誤で繰り出す展開も想定されます。

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『タイ中銀、バーツ高抑制に向け資本流出規制をさらに緩和へ』を参照)。

 

 

(2020年1月9日)

 

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

 

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト 

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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