中国人民銀行は新年早々、預金準備率を一律引き下げる金融緩和を公表しました。ただ、昨年も同様の春節休暇(1~2月頃)を控え資金ニーズが高まるこの時期に預金準備率を引き下げ、必要と見られる資金の一部を供給しています。今回の預金準備率も景気対策としての側面がある一方で、流動性への対応の面も強いと見られます。
中国人民銀行:預金準備率を引き下げ、春節休暇前の資金ニーズ対
中国人民銀行(中央銀行)は2020年1月1日、預金準備率(市中銀行から強制的に預かる金額の預金残高に対する比率)を引き下げると発表しました。
人民銀の発表によると、預金準備率の引き下げ幅は0.5%一律で、実施は1月6日からです。別の声明によれば、金融機関への安定的な資金供給が目的で、今回の措置で約8000億元(約12.5兆円)の流動性供給が見込まれます。
どこに注目すべきか:預金準備率、地方商業銀行、春節、PMI
中国人民銀行は新年早々、預金準備率を一律引き下げる金融緩和を公表しました(図表1参照)。ただ、昨年も同様の春節休暇を控え資金ニーズが高まるこの時期に預金準備率を引き下げ、必要と見られる資金の一部を供給しています。今回の預金準備率の引き下げも景気対策としての側面がある一方で、流動性への対応の面も強いと見られます。
まず、中国の主な預金準備率の動向を過去1年(19年1月~20年1月)で振り返ると、「一律(主要銀行から中小銀行までを対象)」に引き下げられたのは、19年1月、9月、20年1月の3回でした。
一方、19年5月は地方商業銀行(農村部の共同組織金融機関が改組してできた銀行)で条件(総資産100億元以下)に見合う銀行に対象を絞り、預金準備率を引き下げました。資金繰りが苦しい銀行に的を絞った資金供給に対する、下支えの色合いが濃い政策と見られます。
なお、19年9月は一律に預金準備率の引き下げを行いつつ、条件付きで追加の緩和策を実施しました。
今回の預金準備率の引き下げは、報道では8000億元程度の流動性が供給される見込みです。ただこの規模では春節の資金ニーズを全てカバーできるわけではなく、結局は他のオペレーションにより流動性不足の不安は打ち消されると思われます。金融緩和で積極的に新規資金ニーズを掘り起こすには、今回だけでは力不足と思われます。今回の引き下げの効果は、当局が流動性について配慮してくれるという安心感の面が強いように思われます。
中国経済の動向を、最近公表された製造業並びにサービス業(非製造業)購買担当者景気指数(PMI)で確認すると、製造業PMIは政府系、財新共に50(景気の拡大・縮小の目安)を越えてはいますが、改善に頭打ちも見られます。非製造業は概ね横ばいながら下支えをする構図と見られます。
景気回復が鈍い中、人民銀行が、本格的な金融緩和にやや消極的な背景は、不動産市場の過熱を懸念していること、人民元安誘導とみなされる恐れがあること、債務削減の方針は不変であることなどが考えられます。また足元では、豚肉価格の上昇という、一時的要因と思われますが、インフレ率が上昇傾向であることも気になるところです。もっとも、豚肉価格の急上昇によるインフレ率の上昇は20年半ばには落ち着きを見せると見られ、昨年と同様の時期に的を絞った金融緩和を行う可能性は残されると思われますが、金融緩和姿勢は緩やかなものに留まる可能性もあると見ています。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国人民銀行、預金準備率一律引き下げ…流動性の対応も考慮か』を参照)。
(2020年1月7日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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