イランの対米「報復行動」も…市場への影響は限定的か?

1月8日未明(現地時間)、イラン革命防衛隊は、米軍とイラク軍が共用するイラク空軍の基地2ヵ所、アルアサド、エルビル両基地を攻撃した。これを受け、株式市場は軒並み下落、安全資産の価格上昇が起こるなど、市場は即座に反応を示している。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bankの長谷川建一CIOが解説する。

イランが米軍へミサイル攻撃、被害規模に注目集まる

1月8日未明(現地時間)、イラン革命防衛隊は、米軍とイラク軍が共用するイラク空軍の基地2ヵ所、アルアサド、エルビル両基地をミサイル攻撃した。イラン革命防衛隊はイラン国営テレビで、米軍への攻撃は、ソレイマニ司令官に対する米軍の攻撃への対応だと明言し、今回の作戦を「殉教者ソレイマニ作戦」と名付けたと発表した。ソレイマニ司令官の葬儀に参列した革命防衛隊のサラミ司令官は、米国が支援する場所を炎上させると警告していたが、それが現実のものとなった。

 

米国防総省は、イランがイラクに駐留する米軍および有志連合の軍隊を標的に十数発の弾道ミサイルを発射したこと、被害の初期評価を行っていることを認めた。ホワイトハウスのグリシャム報道官は、イラクの米国施設が攻撃を受けたことを承知しているとし、トランプ大統領はすでに説明を受け状況を分析、国家安全保障チームと協議を進めていると述べた。

 

発表にもあるとおり、イランにとって今回の攻撃は、米軍によるイラン精鋭部隊のソレイマニ司令官殺害に対する報復である。しかし、米国から見れば、ソレイマニ司令官への攻撃は、過去のイランによる米国関連施設への攻撃に対する報復だ。そのため、今回のイランのミサイル発射を「新たな攻撃」と解釈する可能性がある。

 

中東でのイランによるものと推測される過去の攻撃では、米国民の死者は出ず、トランプ大統領は報復を自制してきた。今後の米国の対応は、今回のイランの攻撃による損害の程度や、米国人死傷者の有無に大きく左右されるのではないだろうか。

 

米国防総省は、このところの緊張激化を受けて、在イラクの各米軍基地は警戒態勢に入ったと説明しており、損害の程度が気になるところである。「目には目を、歯には歯を」という言葉は、報復を正当化するというより、「報復は同程度にせよ」という意味が強いのだが、米国側がどう判断するのか注目される。

 

被害状況で米国は次なる攻撃を判断か
被害状況で米国は次なる攻撃を判断か

株式市場は軒並み下落も…まずは慎重な判断を

一方のイランは、中東で最も短距離弾道ミサイルの保有数が多い国と推定されている。イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は、米国に対して13もの報復シナリオを検討していると表明しているが、中東地域にある米軍施設や米国の外交関連施設が報復の標的にされれば、軍事的な対立がエスカレートする可能性は否定できない。

 

イランによる攻撃の報道を受け、アジアの株式市場は軒並み下落し、東証株価指数(TOPIX)は2%強値を下げた。米株式指数のS&P500種も夜間取引で1.5%安水準まで下げた。一方の安全資産は上昇、金のスポット相場は2013年以来初めて1オンス=1600ドルを超えた。また、ニューヨーク原油先物も4%程度急騰した。暗号資産のビットコインも一時8000ドルを突破した(数字はいずれも1月8日12時香港時間時点)。

 

ある程度の緊張状態は織り込まれていたとはいえ、イランがミサイル攻撃にまで踏み込んだことで、市場参加者は、いったんリスク回避の動きを先行せざるを得ないだろう。利益確定の行動も出やすくなる局面だ。短期的には、ディフェンシブなスタンスにシフトすることが考えられる。

 

中期的には、大規模で広範囲な軍事衝突が展開するようになれば、世界経済への影響は免れない。しかし、軍事行動が中東地域に限定されるのであれば、それほど経済的な負の影響の拡大は想定されず、米国や日本などの主要企業にとっては、業績の深刻な悪化につながらないのではないか。

 

中東地域での軍事行動ということで、原油価格には反応が出ている。原油の価格が、上昇し続けるのであれば、製造業の生産コストも上がって生産が圧迫されたり、ガソリン価格や電気料金の上昇が消費行動に悪影響を与えたりすることが懸念される。

 

しかし、原油の供給体制は、米国がシェールオイルの生産により産油国に転じているなど、中東の存在感も低下してきている。むしろ、シナリオとして懸念されるほどの原油価格の上昇は起こらず、限定的な影響にとどまる可能性を考えておきたい。やや冷静に考えて行動するべきだと考える。

 

為替市場でも、米ドルが対円では109円から107円台まで売られた。金やスイスフランといった安全資産も買われており、円買いで市場が反応することは理解できる。ただ、上述のように、軍事衝突の規模や地域が限定されるとすれば、深追いはすべきではないだろう。

 

それに、原油価格上昇にフォローするのであれば産油国通貨であるカナダドルやノルウェークローネなどの通貨のほうが妙味があるのではないか。円が買われ続けるには、全面的な「リスクオフ」シナリオの台頭が必要だろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧