迫る「台湾総統選」、再選目指す蔡英文総統がリード
台湾総統選の投票が1月11日と目前に迫っている。3人の候補による選挙戦も終盤となり、現時点では、再選を目指す与党・民進党の蔡英文総統が、最大野党・国民党の韓国瑜高雄市長と、野党・親民党の宋楚瑜党首を大きくリードする情勢と伝えられている。実質的には、蔡、韓両氏の一騎打ちと予想されてきたが、蔡氏が若年層を中心に支持を集めているのに対し、韓氏は地盤であるはずの保守層からの支持も伸び悩み、苦戦しているようだ。
現職の総統でもある蔡氏は選挙戦での再選のため、2016年の政権発足から進めてきた公務員の年金制度改革や脱原発の推進、同性婚の実現といった成果を強調してきた。また「今回の総統選は対岸(中国)との戦い」であるとして、香港情勢や「一国二制度」への世論の反応を追い風にしている。昨年5月に関連法が成立した同性婚の制度化は、若年リベラル層の支持を固める要因にもなっている。
また、若者を集めた集会も多く開催し、「1期目に着手した政策を深化させるために、もう4年の任期をください」と訴えてきた。選挙終盤の12月31日には、立法院で、中国から政治的影響が及ぶことを阻止するための「反浸透法案」を可決させることにも成功し、台湾の民主主義を守るため、対岸(中国)への姿勢を鮮明にした。
対する韓氏は「民進党を政権から引きずり下ろす」と主張し、昨年前半までは支持率で蔡氏を上回っていた。しかし、訪問先の香港で中国政府の出先機関トップと会談し、「親中派」の印象が濃くなってしまったうえに、香港情勢の長期化で中国と距離を置きたいと考える世論が強まるなか、勢いを失ってしまった。また「庶民派」イメージで戦う選挙戦略も、高級マンションを家族が売買していたことが明るみに出て以降、空振り気味で、支持率はじり貧である。
宋氏については、韓氏を快く思わない保守層や国民党支持者、無党派層の受け皿になろうとしたようだが、風は起きていない。
国民党は、1990年頃から「一中各表」を掲げ、中台間の貿易を増大させてきた。これにより経済的に台湾が発展を遂げてきたことは確かだろう。そのため、国民党が政権を奪還した場合は、台湾の中国化を進めるのではないかという懸念が根強い。
一方民進党は、理想主義的な傾向があり、政権運営では経験が浅く、政策面でも成果が見えにくいという評価が定着している。蔡氏は、信念や人柄に優れているとの評価は高く、同性婚を認める法案を成立させたことは大きな訴求ポイントだが、産業振興や外交では目立った成果を上げられていない。また、中国の脅威からどう台湾を守るのかについては、明確な答えを示せていない。
「対中国」という図式で急接近する米国と台湾
中国共産党にとっては、台湾統一が悲願であり、香港と同様に「一国二制度」を土台に統一しようと繰り返し呼びかけてきた。一方で、台湾人の多数は、いつの間にか台湾が中国に取り込まれてしまうことを恐れている。
国民党が進めてきた、経済的な結びつきを深める政策が続けば、台湾が自然と中国に取り込まれてしまう、と恐れを抱くことも無理はない。香港情勢の長期化も加わり、最近の世論調査では、一国二制度の受入れを拒絶する意見は多数を占める。少なくとも、一国二制度がうまく機能していないとの懸念は、台湾の人々の判断をより慎重にする。
今回は、米中通商摩擦が激しくなっていることも影響している。対中国という図式で、米国と台湾は急接近している。それに反発するように、中国は台湾との国交を断絶、台湾と国交のあった国々に働きかけを強め、自国と国交を結ばせ台湾の孤立化を進めてきた。これには、民進党のみならず、台湾世論にも強い反発がある。
蔡氏が優勢、立法委員選挙で民進党は多数維持できるか
1990年代以降、民進党と国民党は選挙のたびに、僅差で勝敗を決してきた。国民党は2015年の総統選では、民進党に敗北を喫したが、2018年の統一地方選挙では大勝している。
米中摩擦や香港問題が顕在化していなかった昨年初めには、蔡総統は候補者にもなれないといわれるほど支持率が低かったが、最近の世論調査では、蔡総統の再選はかなり確度が高まった状況といえるだろう。同時に行われる立法院委員の選挙(国会議員の選挙にあたる)で、民進党が多数を維持できるかも含め、台湾の選挙にもぜひ、注目しておきたい。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO