米大統領選の年は為替の変動大…2020年の市場をどう見るか?

世界の金融都市「香港」に日系の銀行(日本ウエルス銀行、Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank)を創業、現在はCIOとして活躍する長谷川建一氏が、2020年の市場を解説する。2019年、巷では米国経済の衰退をトリガーとする「世界経済の破滅シナリオ」まで囁かれていたが、結局は長谷川氏の予測通り稀有に終わった。2020年はどのような展開になるのか? 長谷川氏の予想を見ていこう。

2019年を振り返る…FRBの転換で市場の悲観論が崩壊

まず、2019年を振り返ってみたい。米トランプ政権の政策スタンスが、特に貿易政策に関して不透明な中、年初から市場には悲観的な見方が大勢を占め、世界経済の成長に対する悲観論が先行した。新年明けの1月は、株価が20%近くも調整するという波乱の幕開けとなった。その後、相場は持ち直すも、5月に入るとそれまで順調な交渉の進展が伝えられていた米中通商協議が決裂して、双方が関税を賦課し合うに至り、リスクオフの流れが一気に強まった。

 

ところが、貿易量の急減から、世界経済全般の先行きリスクを嗅ぎ取ったFRBが金融政策を転換し、予防的な措置として利下げに踏み切ったことをきっかけに、市場の悲観論は解れ始めた。年初、タカ派だと見られていたFRBの柔軟な姿勢への転換は、市場の予想を覆した格好となった。

 

その後、関税措置が実体経済にも影響を及ぼすと、政策的にも経済成長を重視せざるを得ないことから、米中双方に歩み寄りの兆しが見え始めると、潮目は再びリスク選考へと傾いた。

 

また、稀に見るほどの低失業率を背景とした旺盛な消費が下支えする米国経済の堅調ぶりが確認されると、株式市場も堅調さを取り戻し、米中交渉の段階的合意も伝えられる中、史上最高値を更新する展開となって年末を迎えた。

 

結局、米国経済の後退入りと、それを引き金とする世界経済の破滅というシナリオは、不当に誇張され過ぎたものだったといえよう。

 

株式市場も堅調さを取り戻している
株式市場も堅調さを取り戻している

2020年の見通し…緩やかで着実な世界経済の成長

さて、2020年は、米中通商交渉が継続されることや各地に観測される地政学的なリスクの高まりなどを見れば、世界全体での経済成長を明確にイメージするには、不透明であることは確かである。

 

しかし、米国経済の底堅さや世界経済の回復力は、一定の確からしさがあると見るのが妥当で、2020年を通じては、底入れから緩やかで着実な世界経済の成長を見込むべきだと筆者は考えている。

 

設備投資や製造業のデータは、強いというほど回復してきているわけではないが、底入れを確認する動きを見せている。製造業部門のPMIは2019年後半は弱い推移を見せていたが、米国をはじめ、欧州や中国でも底離れを予見させる動きが出てきている。消費も、収入の伸びが見られる米国やアジアを中心に、安定的な推移が予想され、世界的な成長を下支えして、貢献するだろう。

 

新興国では、米FRBの金融緩和をきっかけとして、通貨価値の反転や中央銀行による金融緩和の余地が生まれ、金利の低下が経済を下支えする効果を発揮してくるだろう。2019年は、期待に反して先進国にアンダーパフォームした新興国市場だったが、IMFの世界経済予測でも指摘されている通り2020年は新興国の成長が、世界経済の成長ドライバーのひとつとなる可能性が高いと考えている。

2020年の市場動向は?…前半はリスク選好度が高まる

市場への影響では、不透明要因の多さは相変わらずである。しかし、米中通商交渉は一旦落ち着きを見せ、米中双方に事態を悪化させるよりも、軟着陸させることを選択するインセンティブが大きいことや、英国のEU離脱に関して最悪の事態が免れそうであること、昨年のような根拠に乏しい米国経済の腰折れ懸念を一度経験して一定の安心感があることは、市場にとってはプラスに働くだろう。

 

金融政策が、緩和に転じたことも大きな支援材料である。既に市場では、先取りするような動きも見られるが、2020年前半は、リスク選好度が高まると予想する。したがって、米国株式市場では最高値を一気に力強くというわけではないが、じりじりと更新を続ける動きを続けるのではないだろうか。

 

金融政策は、成長率が芳しいとはいえない一方で、インフレ指標にも目だった動きが見られないことから、2020年は動きがないものと考えられる。そのため、金利の動きは、限られると予想している。むしろ、ドル金利は、利回り曲線の正常化に見られるように、景気の緩やかな再拡大にしたがって、やや上昇することも想定すべきだろう。

 

為替市場では、2019年は米ドルの低下に伴って、米ドルを売る圧力が高まった時期もあったが結局は米ドルに回帰せざるを得なかった。2020年も、先進国通貨の中での、米ドル選好は不変であると予想している。

 

また、新興国については、世界経済の再拡大のドライバーのひとつが新興国経済の加速であるとの前提に立てば、投資対象としての妙味は大きいと見るべきだろう。特に、アジアを中心とする新興国での投資機会は、魅力を増すと考えている。

2020年の投資に死角はないか?

一方で、手放しで見ていられるほど甘い見通しが持てる市場ではないことを思い知らされそうな不透明要因も多々ある。

 

世界を見通すと、多数の国の間で顕在化している貿易問題への政策スタンスは明確ではなく、地政学的なリスクや、一部の国での内政・社会不安といった不確実性は否定できない存在である。これらは、市場のボラティリティを高める要因となるだろう。

 

米国で大統領選挙が実施されることも、大きな変動要因である。ちなみに、大統領選の年は、為替市場での変動は比較的大きい。また、今回2020年の大統領選挙では、前回以上に米国を分断するような対立の構図ができあがる可能性がある。米国の政治的リスクは、増幅すると考えておいたほうがよいだろう。年後半にかけては、ボラティリティの高まりで荒い値動きもあり得るのではないか。

 

また、長期的に、世界各国で財政状況が悪化の一途を辿っており、ソブリン債務の増加が明確なトレンドになってきていることも気がかりである。特に、2019年には大統領選挙や総選挙などを目前に、ばら撒き型の政策が取られ、財政規律は二の次にされた感がある。この問題が、アルゼンチンのように噴出するかどうかを言い当てることは難しいが、顕在化すると経済にとっては、調整圧力が高まり、強い逆風になる。

 

現在、クレジット市場では、低格付けの債券に対するリスクプレミアムが歴史的に見て低い水準にあり、市場規模も大きく膨れ上がっている。経済成長が大きく見込める間は、クレジット市場はより大きな投資収益を与えてくれるが、成長が見込めなくなると、厳しい調整を受ける市場である。サイクル的には、調整の可能性の高いリスクシナリオと考えられる。ハイイールド投資には注意が必要だろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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