鮮明な金融緩和姿勢、狙いは中小企業の借入コスト減
あけましておめでとうございます。
預金準備率の引き下げは、2018年初めから数えると8回目で、この間の中国の経済成長率が低下していることに符合する。ちなみに、中国では、新暦の新年はあまり意味がなく、1日限りの休日に過ぎない。旧正月(今回は1月25-30日)を新年として祝う。
昨年12月23日には、李克強首相は、中小企業の全体的な借入コスト引き下げを狙い、市中銀行の預金準備率を段階的に引き下げる考えを示していた。実際、人民銀行は、預金準備率の引き下げにより1200億人民元が中小の金融機関に回ることにわざわざ言及し、資金が地方の中小企業に融資されることを強調している。
なお、李首相は、預金準備率の引き下げ継続のほかに、再貸付・再割引の枠を拡大する措置を実施するなどして、借入コストをさらに引き下げる意向を表明しており、金融緩和姿勢を鮮明にしている点も注目されよう。
もともと旧正月前には、春節連休を控えた資金需要の増加が見込まれており、地方債発行の増加や資金流動性の逼迫(ひっぱく)を抑制するため、1月には中国人民銀行が金融システムへの資金供給を増やすことが予見されてきた。
長期的には、経済成長率の低下による債務不履行の増加と中小銀行の経営問題もあり、金融システムの脆弱性が試されるような不要な資金需給の逼迫を回避したいという意図も人民銀行の決定には影響を与えただろう。
経済成長率の低下を見越して、中国政府や中国人民銀行(中央銀行)は、昨年末から段階的に金融政策を緩和してきた。しかし、米中通商交渉が難航し、関税措置が発動されたことで貿易量は急減し景気減速が鮮明となる中、金融緩和の程度は大胆な緩和というよりは穏当な形で実行されてきた。
背景には、過度の金融緩和期待が、人民元相場を不安定にすることへの懸念など金融市場への負の影響を考慮したと推定される。人民元は、中国経済の減速観測が強まり、2019年8月には、市場が注目していた1ドル=7.0元の心理的な支持ラインを越えて下落したが、中国人民銀行は、人為的には介入せず、自然体で対応した。また、元安は、米国による追加関税引き上げからの経済的な負の影響を相殺し得る手段との考えもあっただろう。
金融緩和よりも「関税措置の緩和」が待たれる中国経済
2019年を通して、中国当局は経済の底割れというリスクには対応する姿勢を打ち出しながらも、過去に引き起こした不動産価格の急騰や高リスク融資の急増といったバブル的な現象の再発を警戒して金融システムを流動性であふれさせることはしないとの方針を採ってきた。そのため、アクセルは踏むものの、金融緩和政策は小刻みで規模が小さめだったり、対象が絞られたりするものだった。
しかし、1年物貸出基準金利は2015年から4%台に据え置かれており、米国や欧州・日本に比べれば、金利水準でも中国の金融政策の余地はあるといえるだろう。米FRBが金融政策を緩和に転換したことも元安圧力を和らげる材料となっていることや、米中通商協議で第1段階の合意が形成されたことも、中国政府の政策対応への背中を押す材料となるのではないか。
そうだとすれば、今後の中国の金融政策も、米中通商協議の合意が具体的に何処まですりあっているものなのか、そして米中合意形成というポジティブなニュースが一時的な政治の妥協ではなく、中国にとって経済的な打撃すなわち関税措置の緩和に繋がるものかどうかに尽きるのではないだろうか?
一時的で、段階的な合意であれば、実施されている関税措置だけでも中国経済を蝕み続け、中国への圧力はそれほど軽減されないという厳しい分析も散見される。トランプ大統領は、1月31日にワシントンで署名する見通しだとツイートしたものの、中国側の反応はなく、日程さえ確認されていない状況では、米中通商協議、そして米中関係は、それほど楽観視できるものではないかもしれない。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO