●ドル円相場の年間の値幅は縮小傾向にあり、2020年も比較的狭いレンジで推移するとみている。
●米中協議進展と米経済堅調なら110円~115円、いずれも低調なら105円~110円の推移か。
●協議決裂で再度関税引き上げなら100円~105円、ただ米中とも国内事情でその判断は困難。
ドル円相場の年間の値幅は縮小傾向にあり、2020年も比較的狭いレンジで推移するとみている
2020年のドル円相場は、2019年に引き続き、比較的狭いレンジで推移するとみています(図表1)。ドル円の年間の値幅は縮小傾向にあり、2019年は12月20日時点で約7円94銭と、過去46年間で最小だった2018年の約9円99銭を更新する見通しです。値幅縮小の背景には、主に3つの要因があると考えられますが(図表2)、いずれも構造的なものであるため、2020年も縮小傾向が続く可能性は高いと思われます。
なお、日米の金融政策について、弊社は米連邦準備制度理事会(FRB)と日銀は当面、現状の政策金利水準を維持すると予想しています。ただ、政策判断上、FRBは海外情勢や物価動向を注視し、日銀は物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれの有無に警戒しています。そのため、日米の経済や物価見通しに強い影響を及ぼすイベントには、ドル円相場が大きく反応する公算が大きく、注意が必要です。
米中協議進展と米経済堅調なら110円~115円、いずれも低調なら105円~110円の推移か
日米の経済や物価見通しに強い影響を及ぼすイベントとして、具体例を挙げるとすれば、やはり米中貿易協議ということになります。この先、第1段階の合意文書への署名や第2段階の交渉開始など、協議が徐々に進展し、かつ、米国経済の底堅さが経済指標で確認される状況となれば、米国を中心に長期金利の緩やかな水準切り上げと、株価の底堅い推移が見込まれます。この場合、ドル円は徐々に1ドル=110円~115円のレンジに向かうと考えます。
一方、第1段階の合意文書への署名が遅れ、第2段階の交渉開始も見通しが立たないなど、米中貿易協議に進展がみられず、かつ、米国経済にそれほど力強さはないことが経済指標で確認される状況となれば、米国を中心に長期金利は低位での推移が続き、株価も上値の重さが意識されやすくなることが想定されます。この場合、ドル円は105円~110円のレンジ推移が続くとみています。
協議決裂で再度関税引き上げなら100円~105円、ただ米中とも国内事情でその判断は困難
仮に、米中貿易協議が決裂し、関税引き上げ合戦が再開される展開となれば、ドル円のレンジは100円~105円に切り下がる恐れがあります。ただ、米国では2020年に大統領選挙を控え、中国でも2021年に共産党創立100周年を控えているため、国内経済に影響の大きい関税引き上げの再開は、米中とも政治的に難しい判断です。そのため、ドル円が100円方向に近づくような展開は、現時点でリスクシナリオと考えています。
また、2019年5月以降、主要17カ国・地域が金融緩和に踏み切っており、世界の金融環境は極めて緩和的です。2020年はこの環境が円高リスクをある程度、抑制するとみています。なお、米大統領選挙について、まだ市場の関心はそれほど高まっていませんが、2020年11月3日の選挙日が近づくにつれ、大統領候補の政策が市場の焦点となると思われます。ドル円相場にも影響が及ぶとみられ、今後、米大統領選挙の動向は見守る必要があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「ドル円相場」年間値幅最小更新へ…2020年の見通しは?』を参照)。
(2019年12月23日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト