創業者(個人名義)から「同族会社」へ建物・不動産などを遺贈する際、個人が相続した場合と比較して、税負担が大きくなる可能性があることをご存じでしょうか。本記事では、同族会社への遺贈をする場合、どのような課税がなされるのかを詳しく見ていきます。※本記事は西藤友美子税理士事務所・西藤友美子氏による書き下ろしです。

相続人である5人の子どもたちが「揉めそう」な予感

Aさんは都内の人気エリアで、昭和の中頃、金型製造業を行うG社を創業し、長年、経営を続けてきました。後継者として息子さんが大手金型メーカーを退職し、Aさんの後を継いでくれることになりました。

 

Aさんとしても、愛着のある会社を息子さんに渡すことができ、自分の亡き後も末永くこの会社を盛り立ててもらいたいと思っていました。

 

一方で、その明るい未来に影を落としかねない懸案事項がありました。

 

実はこのG社の本社兼工場の土地建物がAさんの個人名義だったのです。Aさんの奥さんが亡くなったとき、相続人である5人の子どもたちの間で遺産分割について、かなり揉めました。Aさんが亡くなった際に、その相続争いはもっと激化することが予想されます。そうなるとG社が使用しているAさんの土地建物も、後継者以外の相続人の手に渡ってしまうかもしれません……。

 

困ったAさんは、弁護士に相談し、「公正証書遺言」を書くことにしました。

Aさんが書いた「遺言書」の内容とは…!?

5人の相続人たちは、その遺言書の内容をAさんが亡くなってから知ることになりました。それは、「G社の本社兼工場の敷地と建物をG社に遺贈する」というものでした。

 

Aさんとしては、5人の相続人はみんなかわいい子どもたちです。財産は平等に分けてほしく、後継者の息子さんのみに特定の財産を渡すことはしたくありません。その一方で、わが子同様にかわいいG社の経営基盤も安定させたい、という苦渋の選択だったのでしょう。民法上は何の問題もありません。

 

ところが、Aさんのこの選択が、後に多額の税金を発生させてしまうのです。

遺贈された「本社兼工場」の末路…

個人が遺言書で同族会社に財産を遺贈する、という行為はどのような課税になるのか、税金の面から整理してみましょう。

 

この場合、財産をもらったG社(法人税)とあげたAさん(譲渡所得税)の両方に課税される可能性があります。同族会社の場合には、さらに株主に相続税がかかることがあります。

 

1.同族会社の課税の取扱い

 

Aさんの土地建物はG社が受贈することになり、G社には、もらった土地建物のAさんが亡くなったときの時価相当額を固定資産受贈益として収益計上する必要があります(法人税法第22条2項)。

 

これは売上などと同じように他の事業収益と合算されますので、法人税だけではなく法人住民税や法人事業税の対象になります。もちろん法人税法上の繰越欠損金があれば、その受贈益のうち繰越欠損金に相当する金額はこれらの税金は課税されません。

 

2.被相続人Aさんの課税の取扱い

 

Aさんは遺言書によりG社にタダで土地建物をあげたのですが、所得税法上は「みなし譲渡所得」といって、AさんがG社に土地建物を亡くなったときの時価で売却した、とみなされます(所得税法第59条1項1号)。

 

タダであげたのになぜ譲渡所得税が課税されるのかといえば、これは例えば法人を利用した税金逃れを防止するために、財産が移転するときに値上がり益がある場合は、それに対して課税します、という所得税法上の考え方に起因します。

 

土地建物に値上がり益がなければ譲渡所得税はかからないのですが、運がいいのか悪いのか、今回の土地建物は23区でも人気エリアでした。バブルの前に購入した土地は、亡くなった時点での時価と比べるとかなりの値上がり益があったのです。

 

亡くなった人の所得税の申告と納付の期限は相続があった日から4ヵ月以内。この譲渡所得税はだれが払うかというと、Aさんは亡くなっているので、5人の相続人が法定相続分に応じて負担することになります。

 

なお、これに似たケースとして、財産を遺言により遺贈された法人が、国税庁長官の承認を受けた公益法人等である場合は、寄付として扱われるため遺贈した被相続人に譲渡所得税はかかりません(租税特別措置法第40条)。

 

3.同族会社の株主の課税の取扱い

 

G社の株は既に生前後継者である息子さんへすべて贈与していたため、亡くなった時点でAさんが所有していた株はなかったのですが、この遺言書によってG社の保有する土地建物が増えたため、1株当たりの価値が増加しました。そのため、その株の価値増加額に相当する金額をAさんから後継者である息子さんがもらったものとして、株主である息子さんに相続税がかかります(相続税基本通達9-2)。

 

遺言で同族会社へ遺贈する場合と、被相続人から個人へ相続する場合の税負担を比較すると、今回の税負担はなんと5倍強となりました。

 

もし、遺言書でこの土地建物をG社ではなく後継者である息子さんに遺贈する、とされていたならば、息子さんには相続税しかかからず、手持ちの現預金で払える範囲内でした。今回、この遺言による遺贈を実行することによって、息子さんは現在の本社兼工場の売却、郊外への移転を余儀なくされることとなりました。これは本当にAさんの遺志だったのでしょうか?

 

実のところ、遺言で同族会社に財産を遺贈しても、メリットと思われるものはあまりありません。もし、同族会社に自分の財産を遺贈したいという考えの創業者の方がいらっしゃいましたら、遺言書を書く前に個人と法人合わせての税負担がどうなるか、顧問税理士にご確認ください。

 

 

西藤 友美子

西藤友美子税理士事務所

税理士・事務所所長

 

 

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