交通利便性で見るなら、「下北沢」が突出
「新宿」と神奈川県の「小田原」を結ぶ、小田急小田原線。途中、東京メトロ千代田線が乗り入れる「代々木上原」、京王電鉄井の頭線との接続駅である「下北沢」、百貨店などの集積が進む「町田」など、人気のエリアが点在する。新宿近郊で勤務している場合、小田急小田原線沿いは、有力な居住地候補になるだろう。
そこで、今回は、小田急小田原線の各駅の平均家賃から、沿線の「住みやすい街」を考えていく。
今回想定するのは、都内勤務の30代、単身の男性会社員。厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の30代会社員の平均給与は[図表1]のとおりである。企業規模によって平均給与は異なるが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額は、10~99人の会社規模勤務なら30代前半で20.1万円、30代後半で22.2万円、100人~999人規模の企業規模なら30代前半で21.5万円、30代後半で23.6万円、企業規模1000人以上なら30代前半で25.0万円、30代後半で27.8万円となる。
また手取り月収の1/3以内を適正家賃と考えると、都内勤務、単身の30代男性会社員の場合、6.7万~9.2万円が家賃の目安となる。この範囲で、小田急小田原線沿線の各駅の平均家賃を見ていく。
最寄り駅から徒歩10分圏内の1K・1DKの平均家賃は、[図表2]の通り。対象となる物件がない、または少なく数値の正確性が劣る駅は、初めから除外した。「新宿」駅を出発して、平均家賃が9.2万円を最初に下回るのは「下北沢」駅で8.07万円。以降の駅はすべてこの水準を下回る。
次に交通面をみていこう。通勤時間帯である平日8時台、途中乗り換えなしで「新宿」まで20分以内の駅を見ていく。快速急行などの速達列車を利用する場合、ボーダーとなるのは「向ヶ丘遊園」で20分。次の停車駅「新百合ヶ丘」になると、所要時間は28分になる。次に各駅停車のみ停まる駅を見てみると、ボーダーは「豪徳寺」で17分。次の各駅停車駅は「千歳船橋」で22分となる。
単身の30代男性会社員が小田急線沿線で家を探す際、平均家賃と「新宿」までの所要時間から考えると、「下北沢」「世田谷代田」「梅ヶ丘」「豪徳寺」「経堂」「登戸」「向ヶ丘遊園」の7駅が、候補駅となる。
さらに交通の利便性で考えると、通勤時間帯の列車本数も重要だろう。平日8時台の「新宿」行きの列車本数を見ていくと、各駅停車しか停まらない「世田谷代田」「梅ヶ丘」「豪徳寺」は、1時間に6、7本で、駅での待ち時間は最大10分ほど。一方、快速急行が停まる「下北沢」「登戸」は、1時間に20本前後で、駅での待ち時間は3~4分ほど。「新宿」までの所要時間と、列車の待ち時間を考慮すると、アクセス面では「下北沢」が最も優位だといえそうだ。
日常の買い物なら「経堂」、飲食なら「下北沢」
次に生活利便性を見ていこう。男性の一人暮らしのライフスタイルを考え、駅から10分以内にある①コンビニエンスストア ②スーパー ③ドラッグストア ④ファストフード・ファミリーレストランの数をカウントした(図表3)。
一つひとつの駅を見ていこう。
「下北沢」は、古着、演劇、音楽など、サブカルチャーの街として知られるが、京王電鉄井の頭線と接続し、「渋谷」や「吉祥寺」といった人気エリアにもアクセスでき、交通利便性でも魅力的なエリアだ。個性的な店が集積する一方で、一人暮らしを支えてくれる店も多数点在し、生活利便性も抜群。また現在、小田急小田原線「下北沢」駅の地下化に伴い再開発が進行中で、商業施設や宿泊施設が開業する予定だ。“シモキタらしさ”を残しながら、さらなる発展が期待されている。
「世田谷代田」駅の周辺は基本的に住宅地で、目立った店舗の集積はない。しかし隣の「下北沢」まで徒歩10分。エリアによっては、「下北沢」のほうが日常使いの駅になるだろう。
「梅ヶ丘」は、梅で有名な羽根木公園の最寄り駅で、シーズンには多くの観光客でにぎわう。駅前には23時まで営業の「OdakyuOX 梅ヶ丘店」や、24時間営業の「ワイズマート 梅ヶ丘店」のほか、小規模な商店街があり、生活利便性を兼ね備えた落ち着いた住環境が人気だ。
「豪徳寺」は、東急電鉄世田谷線「山下」駅と乗り換え可能で、「下高井戸」や「三軒茶屋」にアクセスができる。駅を挟み南北に小規模な商店街が形成され、コンビニやスーパー、ファストフード店等も、比較的、駅周辺に集積している。
周辺に教育機関が多く点在する「経堂」。駅前は再開発で大きく印象が変わり、商業施設「経堂コルティ」には、スーパーマーケット「Odakyu OX」など約50店舗が入る。また多くの商店街が点在し、特に380mほどの通りに飲食店など150店ほどが並ぶ「経堂農大通り商店街」は、多くの学生が行きかい、常に活気に満ちている。一方で、喧騒から一歩外れると閑静な住宅街が広がり、活気と落ち着きが同居するエリアとして、近年人気が高まっている。
多摩川を渡り、神奈川県に入った最初の駅である「登戸」。多摩川沿いに「立川」と「川崎」を結ぶ、JR南武線と接続する。駅北エリアは長らく雑多な雰囲気だったが、長年、停滞していた区画整理が進みだしている。いまは更地が広がっているが、5年ほどで新たな街並みが形成される予定だ。隣の「向ヶ丘遊園」は徒歩8分ほどの近さで、その周辺は店舗の集積が進んでいる。普段の買い物は「向ヶ丘遊園」のほうが便利だろう。
2000年代前半まで近隣に遊園地があった「向ヶ丘遊園」は、専修大学や明治大学の生田キャンパスが近く、駅周辺には、学生をターゲットにしたリーズナブルな店が多く点在する。また広大な緑が広がり生田緑地には、「藤子・F・不二雄ミュージアム」や「岡本太郎美術館」などの施設もあり、最近は、外国人観光客の姿も目立ち始めている。
生活利便性で見ていくと、「日常の買い物」の面では、駅前に比較的大きな商業施設があり、スーパーマーケットの多い「経堂」が優位だが、「食」の面では「下北沢」が優位だといえるだろう。ただどの駅の周辺にも、単身者が住むには十分な店が揃っているので、「生活が不便」ということにはならないだろう。
交通と生活、双方の利便性を兼ね備えたエリアは?
以上のように、7駅を見てきたが、交通と生活の利便性から、おすすめしたい、ふたつのエリアが見えてきた。
まず、「世田谷代田」の東側の地域。「下北沢」の交通、生活双方の利便性を享受できるうえ、平均家賃6.66万円とリーズナブルなエリアだから、同じ予算でも、ワンランク上の物件を選択できる可能性が高い。
もう1つが、「向ヶ丘遊園」の東側の地域。日常使いの駅は、交通利便性の高い「登戸」を利用し、普段の買い物は「向ヶ丘遊園」周辺で済ませる。平均家賃は「登戸」6.24万円より安い5.81万円なので、ここでもワンランク上の物件を選択できる可能性が高い。
「梅ヶ丘」「豪徳寺」「経堂」は、朝の通勤時間帯で「待ち時間10分」が、交通利便性を優先する傾向の強い単身者には、少々ネックだといえる。この点を気にしなければ、特に「経堂」は駅周辺に飲食店をはじめ店舗が多く、平日も休日も、充実したものになるだろう。