税制改正…「海外不動産節税」封じ込めへの対策案を最速解説

税制改正…「海外不動産節税」封じ込めへの対策案を最速解説

会計検査院が「日本の減価償却の特例を海外不動産へ用いるのは不適当」と指摘してから3年。12月12日に与党が発表し、同月20日閣議決定された「税制改正大綱」では、海外不動産節税の封じ込めともいえる内容が明らかとなった。今回の改正は「所得税の損益通算」がポイントとなっているため、法人を活用する手立てが早々に指摘されているが、そのほかにも対策は考えられる。税理士法人アーク&パートナーズの内藤克氏が解説する。

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2020年は「海外不動産」所有者にとって勝負の年

12月12日に与党が発表し、同月20日閣議決定された「税制改正大綱」によると、海外不動産の減価償却で生じた損失について給与所得などとの損益通算ができなくなったため、これから物件を購入しようとした投資家ばかりでなく、現在所有している投資家も対策を講じなければならなくなった。

 

改正の内容は、過去記事『税制改正大綱発表、海外不動産節税スキームへの影響を最速解説』記述した。本記事では、海外不動産のなかでも、多くの日本人が所有しているハワイ不動産について、損益通算ができなくなる2021年までの1年間、具体的に何をすべきか考察する。

1:せっかく購入したのだからそのまま保有する

改正前に駆け込みで購入した場合(耐用年数の改正が推測されていたため、改正の発表前に購入された方も多かった)は1年間だけ節税できるが、その後は減価償却目当てで購入する投資家がいなくなるため、海外不動産全般の売却が難しくなると考えられている。

 

しかしハワイ不動産に関しては、日本のみならず、世界中の投資マネーが集中している。日本人が売りモードになったからといって、そのプレミアム分だけ価格が下がるだけであり、さほど心配しなくてもいいという考え方もある(投資家も改正リスクは織込み済み)。

 

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そのまま保有していた場合は、2021年分から損益通算はできないが、多額の減価償却費によって家賃収入は課税されずに手元に残る。しかも、切り捨てられた減価償却費は譲渡所得を計算するときに経費化できるため、含み益が出ている物件であれば、所有していても問題はない(この場合は5年超の所有であればさらに税率は下がる)。

 

もし切り捨てられた減価償却費が譲渡時に経費化できないという改正であったなら、即座に譲渡しなければならないところであったのだが、今回の改正は「節税策を講じない状態に戻るだけ」であるので、慌てる必要はないかもしれない。

2:値下がりが始まる前、「2020年中」に譲渡する

ハワイ不動産は、価格的に今がピークともいわれている。「改正によって買い手がつかなくなり、ジリジリと値下がりするはずだ」と考え、2020年の償却効果を待たず、譲渡する投資家もいることだろう。

 

この場合、保有して5年(譲渡の年の1月1日現在で)経過していれば税率も低い。しかし、ハワイ不動産ブームの到来が2015年前後であったことを考えると、多くの保有者はまだ長期譲渡に至っていないだろう。そのため譲渡にあたっては、最低いくらで売却しなければならないか、ボーダーライン(損益分岐点)を計算しておく必要がある。

 

計算要素としては、「① 今までの節税額」「② 値上がり額-譲渡所得税」「③ 賃料収入-管理費」「④ 為替レート」、これらを総合的に判断して譲渡価額を設定、売り抜けることになる。

 

「なるべく損益通算により所得税の節税をしたい」「なるべく長期譲渡にして譲渡所得税を減らしたい」という保有者の心理を考えると、譲渡のタイミングは2021年前半に集中すると考えられる。

3:資産管理法人名義に変更しつつ保有する

外資系のコンサルタントや金融マンなどの給与所得者には無理な話で申し訳ないが、オーナー経営者であり、気に入った物件を手放したくないのなら、自らの法人所有に変更することも一手だろう。

 

今回の改正は所得税の損益通算の改正であるため、法人所有には関係ない。法人であれば、今までどおり簡便法の中古耐用年数による減価償却が可能となっているため「所得税の節税」から「法人税の節税」に切り替えて保有することができる。

 

ただ、損金性の高い生命保険がそうであったように、法人所有となると結局は課税の繰延べ(節税した分、売却時に課税されてしまう)に過ぎないため、退職金の支給をはじめとした出口戦略を考えておかなければならない。

 

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この場合の法人は、「すでに存在する事業法人」「このために日本で設立する資産管理法人」「ハワイで設立する現地法人」といろいろ考えられるが、相続時のプロベートを考えると、日本法人で所有し、出資持分を生前贈与する方法がおすすめである。法人名義といっても個人から法人への譲渡となるため、譲渡益課税の問題は生ずるが、これは日本の不動産を法人名義にする場合と同じで、適正時価にてしっかり決済してさえいれば、問題はない。

 

米国非居住者が譲渡する場合においては、ハワイで非居住者源泉所得税(FIRPTAやHARPTA)を徴収されることになるものの、あらかじめ免除申請ができる場合もある。また、ハワイ法人に現物出資するという方法もある。しかし、ハワイで源泉所得税の問題はクリアできても、日本では譲渡益課税(交付を受けた株式を対価とした課税)が生じてしまう。さらに相続時にハワイ法人の出資金がプロベート対象となってしまうため、あまりおすすめしない。

4:追加で利回りのいい築浅物件を購入する

今回の改正は「赤字はなかったこととみなす」というものであるが、「追加の海外不動産を所有している場合は、その所得を控除した上で算出された赤字が対象」と規定されているため、例のように、ほかの海外不動産から生じた所得(黒字)との内部通算はできるのである。

 

[例]

A物件:ハワイの木造中古タウンハウスの減価償却により1,000万円の赤字

B物件:ハワイの築浅コンドミニアムを購入により600万円の黒字

600万円-1,000万円=△400万円→切捨て

 

築浅コンドミニアムのみの購入であれば600万円の所得が生じてしまうところ、木造タウンハウスの減価償却によりこの部分は節税できるため、改正を逆手にとって攻める投資もアリなのかもしれない。

 

ほかにもいろいろな考え方があるが、いずれにしても、様々な角度から分析し、自分に合った対策を講じなければならなくなった。今まで以上に高度なアドバイスが求められることから、所得税、法人税、相続税そして海外不動産の税務を知りつくした専門家に相談する必要が生じてきたといえよう。

 

 

内藤 克

税理士法人アーク&パートナーズ 代表社員/税理士

ハワイ相続プロジェクト・代表

著書に『残念な相続』(日本経済新聞社)など

 

 

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本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2019年8月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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