未成年の子がいる場合親権が決まらないと離婚できない
◆親権・監護権とは
子どもをもつ夫婦が離婚をする際に最優先で考えなければいけないことが、「子どもをどちらが引き取るか」という「親権」「監護権」の問題です。
親権とは、成年に達してない子どもを監護・養育する権利です。つまり、一緒に住んで、教育やしつけをし、財産を管理し、その子どもの代理人として法律行為を行うことです。本来は父母が共同して親権を行使しますが、離婚するとそれができなくなるため、父母のいずれかを親権者として決めなければなりません。
親権には、「身上監護権(居所指定権、懲戒権、職業許可権など)」と「財産管理権」が含まれます。このうち、親が子どもを監護し教育する権利・義務である「身上監護権」のことを個別に「監護権」と呼んでいます。
監護権とは、親が親権をもつうち(子どもが成人に達するまで)は子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする親の権利・義務、わかりやすくいえば、子どもが一人前になるまで同居して身の回りの世話をする権利・義務といってもよいでしょう。
◆親・子ども双方の事情を考慮して決める
夫婦に成年に達しない子どもがいる場合、夫婦のどちらが親権をもつかを決めないと離婚届が受理できないようになっています。協議離婚の場合は、話合いにより夫婦のどちらか片方を親権者と決めます。しかし、親権をめぐって折り合いがつかない場合には、家庭裁判所による調停をもとに親権者を決めることになります。調停でもむずかしい場合には、裁判所の判断にゆだねることになります。
家庭裁判所が親権者にふさわしいかどうかを判断するにあたっては、父母側、子ども側双方の事情を考慮します。父母側の事情としては、父母の年齢、性格、健康状態、これまでの監護養育状況や今後の監護意欲、生活状況(職業、資産や収入、生活態度など)、生活環境(住宅、居住地域、学校など)などがあります。
他方、子ども側の事情としては、子どもの年齢、性別、心身の発育状況、生活環境の変化への適応性、子どもの意思、父母・きょうだい(兄弟姉妹のこと)との関係性などがあります。家庭裁判所においては、このような双方の事情をふまえて親権者にふさわしいかどうかを判断しています。
「親権取得」において何が優先・尊重されるのか
親権は、離婚に際して決定しなければならない事項で、夫婦の両方が親権を主張すると、なかなか話合いでは解決しないことが多い問題でもあります。話合いで解決しない場合、裁判所の判決(または審判)によって決定されることになります。裁判所による親権者の適格性判断基準として、「母親(母性)優先」「現状の尊重(継続性)」「子の意思の尊重」「きょうだい不分離」などがあるとされています。
① 母親(母性)優先
乳幼児の心身の健全な育成にとっては、母親の愛情と養育が重要であり、母親による監護養育が望ましいという考え方です。もっとも、生物学上の「母」という存在ではなく、母親的役割つまり「母性」という役割が重要として、母性優先ともいいます。そのため、父親が子育てに深くかかわり母性的役割を果たしている状況があれば、その他の事情にもよりますが、父親が親権者とされることもあります。
② 現状の尊重(継続性)
監護者の変更は、監護する親や学校や友人など、子どものそれまでの生活環境を一変させ、子どもに大きな精神的負担を与える可能性があるため、現在の子どもの監護養育環境が安定しており特段問題がないのであれば、現状の監護養育を継続することが子どもの福祉にとっては望ましいという考え方です。
ただし、親権者・監護権者を決定する前に監護していた者が有利となると、子どもを無理矢理連れ去るなどの違法行為を助長することにもなるため、違法な連れ去り行為は、親権者の適格性判断において、不利な事情として考慮されることになります。
③ 子の意思の尊重
親権者・監護権者は、子どものために決定するものである以上、子どもの意思を尊重するという考え方です。子どもが15歳以上の場合は、裁判所が調停や裁判をするにあたり、子どもの意見を聴取する必要があり、それ以下の年齢の子ども(10歳程度が目安とされています)でも、子どもの意思を把握するよう努め、年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮する必要があることが法律上求められています。
ア 子どもが15歳以上の場合
子どもが15歳以上の場合は、子ども自身が親権者を父母のどちらにしたいかを判断できると考えられることから、裁判所は子どもの意見を聴き取り、子どもの意思が尊重されます。そのため、虐待などで子どもの意思が抑圧されているなどの特別な事情がある場合は別として、子どもが父母どちらを親権者にしたいかと考えるかが非常に重要になります。つまり、今までの子どもとの接し方や家庭環境などが重要になってきます。離婚を考え出してから、子どもに、自分を親権者に選ぶように圧力を加えるなどは行うべきではありません。
イ 子どもが15歳未満~10歳前後の場合
子どもが15歳未満でも、10歳程度になると、自分自身で考え判断できると考えられ、子どもの意思がある程度尊重されるようになります。もっとも、どの程度子どもの意思が尊重されるかは、子どもの発育状況や周囲からの影響の程度など、さまざまな事情を考慮して判断されることになります。そのため、子どもの意思以外の事情もある程度考慮されると考えられますので、養育環境を整える、これまでの養育環境の証拠保全をするなどをしておくべきです。たとえば、
●自分の両親(子どもにとっての祖父母)や親族に子どもの養育への協力を要請しておく、または、協力を開始してもらう。
●(すでに別居中であれば)相手からの面会交流の希望にはできるかぎり応じる。
●学校の担任教諭やかかりつけ医、習い事の先生など子どもの状況を知っている第三者に事情を話して、これまで自分が積極的かつ適切に養育・監護を行ってきたこと、一方で、相手はかかわりが薄い(ない)ことなどについて、それぞれの立場から客観的事実を証言してもらえるように協力を要請しておく。
●子どもの意思決定に不当に介入しないように気をつけ、かつ、子どもの精神状態等に配慮しながら、子どもと話合いをする。
などが考えられます。
相手との同居を解消し、転居を考えている場合は、転居の際に、母子手帳や子どもの成長の記録や日記などの養育の記録を持ち出すのを忘れないようにしましょう。また、転居先については、なるべく子どもの生活環境を変えないように、転校などが不要な場所とすることも検討すべきでしょう。
ウ 子どもが10歳前後未満の場合
この場合は、子どもの発育状況などにもよりますが、あまり子どもの意思が尊重されないことが多く、それまでの養育環境や今後の養育環境が重要になってきますので、「イ」と同様の対応(子どもとの話合いを除く)をとることになります。
④ きょうだい不分離
きょうだいは、心理的なつながりが強く、共同生活により得られる経験が心身の健全な育成に役立つことが期待できるため、同じ環境で同一人により監護養育されることが望ましいという考え方です。ただ、この基準はほかの基準にくらべそれほど重要なものとはされておらず、親や子どもの意思などから、親権者を分離することもあります。
⑤ その他
専業主婦の方や生活保護受給者などが親権を希望する場合に問題となるのが経済状況ですが、公的援助や養育費などで最低限の生活は保証されることから、あまり大きな問題とはなりません。これに対し、子どもの成長に必要なものとされる面会交流が実施されるかは、親権者の適格性判断において一定程度考慮されることになります。
子どもの親権について争うことになった場合には、①経済状況を示す資料として源泉徴収票、確定申告書、給与明細書等、②自分の健康状態を示す資料として診断書、③住居の状況を示すものとして間取り図、④子どもの心身の発育状況、健康状態を示す資料として母子手帳、診断書、⑤現在の通園・通学先における状況を示す資料として保育園・幼稚園の連絡帳、学校通知表などの提出を求められることがあります。
西村 隆志
西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士