いつの時代にも尽きない「離婚トラブル」。特に、夫婦どちらかが家事を担い、職業に就いていなかった場合、「年金」が大きな問題になっていました。そこで本記事では西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋し、熟年離婚における年金の取扱い方について解説します。

熟年離婚では「専業主婦」の年金がネックになっていた

◆年金分割制度について

 

●「熟年離婚」の公平を期すために導入

 

会社員や公務員である夫とその妻が離婚する場合、年金を受け取る権利を夫婦で分割できる制度を「年金分割制度」といいます。これを理解するためには、まず年金制度のことを知っておかなければなりません。

 

日本の年金制度は「3階建て」と呼ばれており、「1階部分」は国民全員が加入する国民年金制度です。「2階部分」は、会社員や公務員の「厚生年金」で報酬に比例して増えるものです。また、「2階部分」には、自営業者などが加入する国民年金基金も当てはまります。「3階部分」は、厚生年金基金や確定拠出年金(企業型)など、いわゆる企業年金や公務員の年払退職給付などが当てはまります。

 

年金分割制度は、特に熟年夫婦が離婚した場合の夫婦間の公平を実現するために、2007年4月1日以降に離婚したケースから利用できるようになりました。たとえば、一方が会社員として働いて収入を得て、他方が家事を行っていた場合、夫婦のいずれか片方のみが厚生年金を全額受給できることは不公平だとの判断からです。

 

年金分割の対象となるのは、「2階部分」の「厚生年金」にかぎられています。たとえば、配偶者の仕事が婚姻中ずっと自営業で厚生年金に加入していないという場合には、年金分割の対象となる年金はありません。

 

公務員の場合、2015年9月30日までは「2階部分」の共済年金と「3階部分」の共済年金職域加算について年金分割の対象となっていました。2015年10月1日からは、いわゆる年金一元化により、共済年金制度は厚生年金制度に統一されたため、離婚時の年金分割は当事者が婚姻期間中に加入したすべての厚生年金の標準報酬等を合算して行うことになりました。

 

すなわち、2015年10月1日以降、年金分割の請求をする場合に年金分割の対象となるのは、会社員と公務員の「厚生年金」の部分のみです[図表]。

 

[図表]離婚と年金
[図表]離婚と年金

 

●受取額ではなく、納付実績を分割する

 

年金分割制度は、あくまでも結婚をしていた間の保険料納付実績を分割する制度であるため「婚姻前の期間」の分は反映されません。年金給付を受ける本人が原則として、保険料納付済期間、保険料免除期間、及び合算対象期間の合計が25年以上にない場合には年金受給資格が発生せず、せっかく年金分割をしても年金が受け取れません。

 

年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。

 

・合意分割……夫婦間の合意または裁判所の決定による厚生年金の分割。

・3号分割……第3号被保険者であるサラリーマンや公務員の妻(専業主婦等)が利用できる。

 

2008年4月1日から始まった「3号分割」は夫の合意は不要で、サラリーマンや公務員の妻で国民年金の「第3号被保険者」であれば、2008年4月1日以降の婚姻期間については自動的に一律50%分を受ける権利が認められます。3号分割の場合は、夫婦間の話合いの必要はありません。

 

合意分割は、2007年4月1日以降に離婚した夫婦が、夫婦間の合意に基づいて、婚姻期間に応じてその期間の厚生年金の標準報酬を最大50%まで分割できる制度です。合意分割の場合は、夫婦の話合いで決めるか、話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判で決めることになります。

 

請求には日本年金機構の事務所に「標準報酬改定請求書」を提出します。自動的に権利が認められる3号分割においても手続が必要です。手続の際には、年金手帳、離婚届、戸籍謄本が必要です。合意分割の場合は年金を何割ずつに分けることに決まったかを示す公正証書や調停調書、確定判決などを持参します。年金分割の請求期限は、離婚成立の翌日から2年以内です。2年を過ぎてしまうと、合意分割も3号分割も請求できなくなります。

慰謝料請求では「原因となった行為・損害」を明確に

「慰謝」を辞書で調べると「済まないと思ってなぐさめること」という意味のことが書かれています。相手の責任によって離婚した場合、これによって精神的に苦痛を受けたことに対して損害の賠償を求め、支払を受けるものが「慰謝料」です。

 

婚姻費用や養育費とは異なり、慰謝料には算定表のようなものはないため、さまざまな要素を総合的に判断して決めていきます。

 

具体的には、婚姻期間、離婚の原因、収入、未成年の子の有無などが考慮に入れられます。夫婦間の話合い、もしくは調停でもまとまらない場合は、訴訟を起こすことになります。訴訟になった場合の慰謝料もさまざまな要素を判断して決めますが、相場は100万円~300万円ほどです。

 

裁判所の判断にあたっては、まず「破綻原因」を特定します。不貞行為(浮気)や暴力、性交渉がないこと、生活費の不払など、破綻が何によって引き起こされたかをまず調べます。たとえば、不貞行為の場合、配偶者以外との肉体関係がいつからいつまで、どのように続けられたのかを特定する必要があります。ただし、こうした関係は外にはなかなかわかりにくいのが実態であり、写真や音声データ、ホテルの領収書やクレジットカードの明細書などの証拠が役に立ちます。

 

暴力行為については、暴力が一時的なもので、そのときに病院に行っていれば特定が容易です。ただ、暴力が継続的に行われている場合、その恐怖から病院に通っていないケースもあります。その場合、なぜ行くことができなかったか、暴力行為があったかどうかを調べることになります。

 

次に、「因果関係」を特定します。不貞行為や暴力行為があってから円満だった夫婦関係がいかに破綻していったかその経緯を立証します。突然離婚を切り出されるケースもあれば、性生活が拒否されるようになった、外泊が増え家に帰らなくなったといった例がこれにあたります。

 

結婚が破綻した経緯についてもどの時点で破綻したかを判断することはむずかしいため、身体的な苦痛については本人が書いた日記などにより立証することもあります。これによって破綻原因をつくった行為がいかに夫婦関係を破綻させたのかその経緯を明らかにします。

 

さらに、その行為によって受けた苦痛がどのようなものか、「損害」を明らかにしていきます。ここでは、どれほどの精神的・身体的苦痛を受けたのかを示します。不貞行為の場合、自殺未遂、うつが発症したことなどもそれにあたりますし、暴力行為の場合は体についた傷がそれを物語ります。そのような場合、診断書をとることによって立証することもできます。

 

どれだけひどいことをされていても、裁判では証拠がなければその事実があったと認定することができません。つまり、慰謝料がとれなくなる可能性が高くなるわけです。ですから証拠集めはとても大切なのです。

 

以上のことに加え、結婚していた期間の長さ、結婚生活の内容、当事者の年齢や収入、資産、子どもの数、財産分与や養育費の支払など離婚後の生活などを総合的に考えて慰謝料は決められます。

 

その他、「性格の不一致」を理由に慰謝料が発生する事例では、それが原因で婚姻関係が破綻したという重大な事由が認められた場合のみ、慰謝料が認められることもありますが、仮に認められたとしても、不貞行為や暴力行為の場合よりも、慰謝料の金額はかなり低額になります。なぜなら、性格の不一致は夫婦のどちらかの責任ということを証拠により証明することがむずかしいからです。

 

 

西村隆志

西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士

 

本連載で紹介する事例はフィクションです(実際の裁判例は除く)。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在の人物のものとは関係ありません。また、本連載は2019年8月5日刊行の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)の一部を抜粋・再編集した記事です。最新の法令等には対応していない場合もございますので、予めご了承ください。

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

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西村隆志、山岡慎二、福光真紀、畝岡遼太郎

東邦出版

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