いつの時代にも尽きない「離婚トラブル」。離婚を決心するだけでも大変なのに、相手が非を認めない、なかなか合意してくれない、条件が折り合わない…など、その先にはさまざまな壁が立ちはだかります。本連載では、西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋し、実際の事例を紹介しながら、対処法を解説します。

親権を取るために裁判でどんな主張をすればよいのか

訴訟においては、① 生活状況、② 経済状況、③ 子の状況、④ 子と相手(夫または妻)との交流の状況、⑤ 今後の養育方針や計画、非親権者と子との交流についての意向、⑥ 自身が親権者としてふさわしく、一方、相手が親権者としてはふさわしくないと考える理由などを具体的に裁判所に書面(陳述書など)で主張することになります。

 

① 生活状況

自分の経歴、就労状況、健康状態、平日及び休日の生活スケジュール、同居の家族の詳細、住居の状況などを具体的に記載します。

 

② 経済状況

自身の収入や一緒に居住している人の収入などを具体的に記載します。

 

③ 子の状況

子どもの育成歴、(別居前の)監護の状況、子どもの健康状態や性格、現在の生活状況(生活スケジュールや幼稚園や学校での生活状況も含む)などを具体的に記載します。

 

④ 子と相手(夫または妻)との交流の状況

別居後に面会交流などを任意で行っていたのであれば、その状況などを具体的に記載します。

 

⑤ 今後の養育方針や計画、非親権者と子との交流についての意向

監護養育補助者の有無、いる場合はその人の詳細とその補助の内容も含め、具体的に記載し、養育・教育の方針を具体的に記載します。

 

⑥ 自身が親権者としてふさわしく、一方、相手が親権者としてはふさわしくないと考える理由

子どもと接している時間の長短、子どもへの愛情、お互いの性格、お互いの生活環境、具体的なエピソードなど、さまざまなことを具体的にかつ簡潔に記載します。

親権を勝ち取るための証拠の収集方法

自分の生活状況及び経済状況については、家の間取り図や同居者の住民票、収入証明など、裁判となった後からでも取得は比較的容易といえます。

 

子の状況については、母子手帳、おくすり手帳、幼稚園または保育園の連絡帳、学校の通知表、習い事の連絡帳などを証拠として提出することになりますので、別居する際の転居などで紛失したり捨てたりしないように気をつける必要があります。

 

別居後、任意に面会交流をしていた場合には、写真や日記などで面会交流実施日がわかるようにしておき、面会交流に問題があった場合は、文書で抗議をしたり、子どもの状況によっては医師の診察を受け、状況を説明し、カルテに残しておいてもらうなどの対応が必要になる場合も考えられます。

 

このほかに、多くの場合、家庭裁判所の調査官が、夫婦の状況や子どもの状況などを調査し、報告書を裁判所に提出します。調査対象は、本人や子ども、同居の家族、保育園や幼稚園、学校、かかりつけ医などさまざまで、自宅訪問も行われます。

 

調査官は、訴訟におけるそれぞれの主張をふまえて調査を行い、調査結果と調査官の意見を裁判所に提出することになり、この調査官の報告書は、裁判所の判断に大きな影響を与えることになります。

 

また、調査官調査では、それまでの生活状況や子どもの監護養育状況があらわになってしまうことになりますので、家庭において、子どもにとって生活しやすい環境づくりを心がける、子どもの安全や健康に気を配り、体調面については適切なタイミングで医師の診察を受ける、日頃から親として保育園・幼稚園や学校などとのかかわりを積極的にもつ、担任の先生ともよい関係をつくっておく、など継続的に適切な監護養育を行っておく必要があります。

 

監護養育を補助してくれる親族などがいる場合には、日頃から積極的にかかわってもらっておき、現実に補助が受けられていることを示すことも有用でしょう。相手から子どもへの虐待を疑われている場合には、事前に子どもの体に虐待痕がないことを医師に確認してもらい、カルテや診断書等書面にしておいてもらうことも考える必要があります。

離婚後も親子が交流する権利・面会交流

離婚後は親権者が子どもを引き取って育てるのが原則です。ただ、「親権者」とならなかった側の親にとって子どもと会いたいと思うのは自然なことです。このように、子どもと離れて暮らしている親が、子どもと会って話をしたり、一緒に買い物や遊びに出かけるなど親子が交流をする権利を「面会交流権」といいます。

 

面会交流についての取決めは、離婚後に話し合う機会があるとはかぎらないので、離婚時に決めておいたほうがいいでしょう。面会交流の取決め内容は、まず面会交流ができるかどうか、その方法、回数、日時、場所などです。うやむやにならないように内容は書面に残しておくことをおすすめします。

 

当事者間で話合いによる解決がむずかしい場合には、家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てます。

 

調停でもまとまらない場合には審判にゆだね、裁判所に判断してもらうことになります。この場合、家庭裁判所調査官による調査(調査官調査)や試行的面接を行うことがあります。調査官調査では、子どもが面会交流についてどのように思っているのか、面会交流をすることで子どもや監護する親に与える影響などを調べます。

 

試行的面接は、子どもと非監護親が接する様子を表情や態度で見極めるためにテストとして行われる面会交流のことです。裁判所内に絵本やおもちゃが置いてある専用の部屋が用意され、普段養育していない側の親(非監護親)、子どもがそれぞれどのような態度をとるか、交流状況について子どもを養育している側の親(監護親)が確認することができます。

 

調停で決められる面会交流の内容については、非監護親と子どもとが監護親を交えることなく直接面会し、日帰りで行われるのがもっとも多く見られるケースです。回数については、「毎月第○土曜日に」といったように月1回とすることが多いですが、もちろん、毎週、月2回といった頻度もありますし、子どもが長期休暇時に非監護親の家に泊まることもあります。

 

親同士の対立が激しい場合で、円滑な面会交流が当事者間だけでは行えないような状態であれば、弁護士や公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC〈全国各地〉)、特定非営利活動法人安心とつながりのコミュニティーづくりネットワーク(FLC〈大阪〉)などの、面会交流の援助を行う第三者の関与を定めて面会交流を行うことも、有効なものと考えられます。

面会交流が認められないケースも

面会交流は非監護親の権利ですが、「子の利益をもっとも優先して考慮しなければならない」と定められており、面会交流を認めることが「子どもの福祉」にとって望ましくないと裁判官が判断した場合、審判では認められないこともあります。

 

典型的なものとしては、非監護親による子どもの連れ去りのおそれ、非監護親による子どもへの虐待のおそれ、非監護親の監護親への暴力等、非監護親に酒乱、薬物使用などの問題行為・違法行為が存在する場合などです。判断能力のある子どもが非監護親に対して、明確に恐怖、嫌悪、拒否等の感情を示し、面会交流を拒否している場合にも、否定されることが多いと考えられます。

 

両親間の対立が激しい場合、特に監護親が面会交流に強く反対している場合には、子どもの心身の成長状況などさまざまな事情を考慮します。そのままの状態で面会交流を実施するとかえって子どもへ悪影響を及ぼす場合には、面会交流が認められない場合があるといえます。とはいえ、親権等の争いのある事案では、両親間で対立があるのが多いと考えられることから、常に面会交流が否定されることにはなりません。

 

その他、監護親の監護教育方針に問題があるわけではないのに、その方針に介入をし続け、監護親による監護教育に支障が生じ、子どもの精神的安定を害するおそれが強いなどの場合にも、面会交流が否定されることがあるといえます。

 

なお、非監護親による養育費の不払と面会交流の実施とは、性質の異なる問題であり、関連するものとして考えることは原則できません。しかし、非監護親にとって不利な事情になると考えられます。

 

このように、面会交流が裁判所に認められるかどうかは、さまざまな個別事情を総合的に考慮して、子どもにとって面会交流を行うことが本当に適切かどうかという視点から判断されることになるといえます。

 

 

西村 隆志

西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士

 

本連載で紹介する事例はフィクションです(実際の裁判例は除く)。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在の人物のものとは関係ありません。また、本連載は2019年8月5日刊行の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)の一部を抜粋・再編集した記事です。最新の法令等には対応していない場合もございますので、予めご了承ください。

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

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