いつの時代にも尽きない「離婚トラブル」。離婚を決心するだけでも大変なのに、相手が非を認めない、なかなか合意してくれない、条件が折り合わない…など、その先にはさまざまな壁が立ちはだかります。本連載では、西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋し、実際の事例を紹介しながら、対処法を解説します。本記事のテーマは「養育費」。

養育費は自らの生活水準を落としてでも払う必要がある

◆非監護親と同様の生活水準を保障する義務

 

離婚した後、親権者となったほうの親には、子どもが社会人として自立するまで育てていくための金銭的な負担がかかってきます。離婚する夫婦の間に未成年の子どもがいる場合、子どもを引き取って育てていく親(監護親)は、もう一方の親(非監護親)に対してその費用を請求することができます。この費用が「養育費」です。

 

養育費の支払義務は、子どもが最低限の生活ができるための「扶養義務」ではなく、それ以上の内容を含む「生活保持義務」となります。非監護親と同様の生活水準を保てるように支払っていくべきものという意味で、非監護親だけが贅沢(ぜいたく)をして暮らすことは許されません。自らの生活水準を落としてでも払う必要があるお金が養育費なのです。

 

離婚の際に、養育費について相手と取決めをしておくのが一般的ですが、それができなかった場合、相手に支払を求める調停をします(いきなり審判を求めることもできますが、調停から始めるのが一般的です)。

 

養育費を請求しないとの合意が、夫婦間でできている場合、その合意は夫婦の間では有効と考えられますが、「扶養を受ける権利は、処分することができない」とされていますから、この合意によっても、子どもが親に扶養を求める権利まで放棄したことにはなりません。つまり、子ども自身が養育費の支払を請求することが可能なのです。

 

ただし、養育費不請求の合意の存在は、養育費の金額を定める際の考慮要素になり、不請求の合意をしたときから状況に変化がない場合には、養育費の支払が認められない場合もあります。

 

◆額は養育費算定表を目安に

 

実際の養育費の金額については、夫婦(代理人)間で話合いをし、話合いで決まらなければ離婚調停において金額や支払方法を協議します。

 

もし、調停で話合いをしても決着がつかないときは、審判で(離婚請求と同時であれば離婚審判ないし離婚訴訟の中で)裁判官に決めてもらうことになります。金額については、支払う側(義務者)・もらう側(権利者)の収入、負担能力などを考えて決めていきますが、そのためには多くの資料をそろえる必要があり、算定に時間がかかります。そこで、多くの場合、義務者・権利者の収入、子どもの人数、年齢に応じて標準的な養育費を算出できるようにした「養育費算定表」を使うことになります(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/)。話合いで合意ができれば、養育費算定表の金額以上をもらえることもできます。

 

養育費は、原則として別居後請求した時点以降からもらうことができ、それより過去にさかのぼって請求することはできません。

 

また、養育費が請求できるのは原則として子どもが20歳になるまでですが、個別に両親の学歴などの家庭環境や資力を考慮して定めることもでき、たとえば、大学卒業までと考えるのであれば「未成年者が満22歳に達した後の最初の3月まで」などのように定めることもできます。

 

養育費の支払は、月払が原則ですが、当事者間の合意があれば、一括払とすることもできます。ただ、一括払とした場合、贈与税が課される場合もありますので、事前に税理士等への相談が必要な場合もあるでしょう。

 

養育費が支払われない場合、家庭裁判所から支払をするよう相手に勧告・命令をしてもらうことができますが、強制力はありません。

 

相手が任意に支払をしてくれない場合は強制執行を行う必要があります。調停や審判等で取り決めた場合はもちろん、養育費について執行認諾文言付きの公正証書を取り交わしている場合には、別途裁判をすることなく強制執行をすることができます。

 

非監護親だけが贅沢をして暮らすことは許されないが…
非監護親だけが贅沢をして暮らすことは許されないが…

養育費を「増額・減額」する場合は裁判所に申し立てる

養育費の取決めがされていても、離婚から月日が経つと事情が変わり、養育費の増額・減額などの必要性が出てくることがあります。その場合は、当事者間での話合いで決めたり、家庭裁判所に養育費増額・減額請求をします。

 

典型的なものは、会社でリストラにあうなどして収入が減ったので養育費の減額をしてほしい、あるいは、養育をしていない相手が転職して高収入を得ているので、養育費を増額してほしいといったものです。この請求は、家庭裁判所に対して調停の申立てを行い、調停での協議が整わなければ裁判所による審判で決定されることになります。

 

審判で増額・減額を認めてもらうためには「事情の変更」が必要となります。また、この「事情の変更」もある程度重要なものである必要があり、かつ、変更前の養育費決定の場面で前提とはされていなかった事情でなければなりません。「事情の変更」の具体例としては、それぞれの再婚のほかに、それぞれの収入の変化が典型的なものとして考えられます。

 

子どもの教育費については、子どもが就学し、学費がかかるようになったことを理由に増額を求めた事案について、そもそも子どもの学費が多少増加する程度のことは養育費決定に際して十分に考慮されているとして、増額請求を認められなかったものもあります。

 

養育費を増減額すべき事情の変更があるかどうかは、個別具体的な事情を考慮して判断されることになります。なお、自己都合退職によって収入が減少したような場合は、減額が認められないこともあります。

 

◆再婚と養育費について

 

●養育費を受け取っている妻が再婚した場合

 

妻が再婚した場合、養育費を支払っている夫から、養育費を支払わない、または減額するといわれることがあります。妻の再婚相手が、子どもと養子縁組をすると、当然その再婚相手は、養子にした子どもを扶養する義務を負い、現に養育する再婚相手が全面的に子どもを養育することになるため、原則として、養育費を支払っていた前の夫(実親)は、養育費を支払う必要がなくなります。

 

しかし、養子縁組がされた後も、実親が子どもの親であるという点に変わりはないため、妻の再婚相手に十分な収入がないなど、再婚相手では十分に子どもを養育できない場合には、実親は引き続き養育費を支払う必要があります。

 

次に、妻の再婚相手が子どもと養子縁組をしていない場合、再婚相手には、妻の子どもの扶養義務は発生せず、引き続き、実親である前の夫が養育費を支払っていくことになります。

 

そして、養育費の計算方法は、権利者である妻の収入が基準となるため、再婚相手に十分な収入があっても、形式的にはその再婚相手の収入は考慮されません。しかし、妻の再婚相手に十分な経済力があることは、事情変更の有無の判断にあたって考慮される一つの要素になるとは考えられます。

 

●養育費を支払っている夫が再婚した場合

 

養育費を支払っている元夫が再婚し、新たに扶養するべき家族ができたため、これまでどおりの養育費は支払えない、といわれることもあります。この場合、たとえば、元夫の不倫が原因で離婚することになったのに、その不倫相手との子どもを養育しなければならないから、養育費を今までどおり支払っていると生活ができない、養育費を減額してほしいといわれても、元妻の立場からすると到底納得できるものではないと思います。

 

しかし、養育費と離婚原因とは切り離して考えられるため、新たな扶養を考慮してもなお変更前の養育費が正当な額といえるなどの事情がなければ、養育費の減額が認められることが多いと考えられます。

 

ただ、養育費を定める際に、すでに夫が不倫相手と結婚、連れ子と養子縁組をすることが決まっている、または不倫相手がすでに夫との子を妊娠しているなど、離婚後、夫に新たな養育義務が発生することが予定されている/あるいは十分に予想でき、この状況を前提に養育費を定めたと考えられる場合には、実際に、新たな家族の養育によって、元夫の支出が増えたとしても、そのことは、養育費を定める際に十分に考慮に入れて金額が決定されているため、そのほかに事情の変更がないのであれば、養育費の減額をするべき「事情の変更」がないとして、養育費の減額が認められないと考える余地はあると思われます。

 

 

西村隆志

西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士

 

本連載で紹介する事例はフィクションです(実際の裁判例は除く)。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在の人物のものとは関係ありません。また、本連載は2019年8月5日刊行の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)の一部を抜粋・再編集した記事です。最新の法令等には対応していない場合もございますので、予めご了承ください。

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

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西村隆志、山岡慎二、福光真紀、畝岡遼太郎

東邦出版

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