●今回の経済対策は、財政支出13.2兆円、事業規模26兆円で、前回に匹敵する大型の対策に。
●効果は数年度にわたり顕在化、2020年度と2021年度の実質GDP成長率見通しを上方修正。
●経済対策は株式相場を一定程度支えると思われるが、全体を強く押し上げるにはやや力不足か。
今回の経済対策は、財政支出13.2兆円、事業規模26兆円で、前回に匹敵する大型の対策に
安倍政権は12月5日、「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」を閣議決定しました。今回の経済対策は、①「災害からの復旧・復興と安全・安心の確保」、②「経済の下振れリスクを乗り越えようとする者への重点支援」、③「未来への投資と東京オリンピック・パラリンピック後も見据えた経済活力の維持・向上」を3つの柱とし、持続的な経済成長の実現を目指すものです。
経済対策の規模をみると、財政支出が13.2兆円で、民間の支出も加えた事業規模は26兆円に達します(図表1)。これは、前回(2016年8月、財政支出13.5兆円、事業規模28.1兆円)に匹敵する大型の経済対策です。なお、財政支出の13.2兆円について、内訳は国と地方による支出が9.4兆円(うち国費は7.6兆円)、財政投融資経由での支出が3.8兆円となっています。
効果は数年度にわたり顕在化、2020年度と2021年度の実質GDP成長率見通しを上方修正
経済対策の効果を見る上では、GDPに直接影響を与える「真水」の部分が重要となります。前述の通り、国と地方による支出が9.4兆円です。日本の年間実質GDPを550兆円とすれば、9.4兆円は1.7%程度に相当します。なお、政府は実質GDPの押し上げ効果を1.4%程度と試算していますので、これに基づけば、9.4兆円のうち、公共投資にかかわる用地取得費などを除く7.7兆円が、追加的な需要押し上げにつながると考えられます。
ただ、経済対策の柱である公共投資は、建設業の人手不足を背景に、執行に時間を要する見込みであることなどから、実際の政策効果は、複数年度にわたって顕在化していくと思われます。この点を踏まえ、弊社は日本の実質GDP成長率の見通しについて、2019年度は前年度比+0.7%を維持するものの、2020年度は同+0.5%から+0.7%へ、2021年度は同+0.7%から+0.8%へ、それぞれ上方修正しました。
経済対策は株式相場を一定程度支えると思われるが、全体を強く押し上げるにはやや力不足か
日本株への影響については、経済対策に関連する業種に注目が集まりやすいとみています。例えば、災害復旧に関連するところでは、建設業、鉄鋼、ガラス・土石製品などが、また、経済対策には、5Gや人工知能(AI)など成長分野への投資、訪日外国人の増加に向けた基盤整備などが盛り込まれていることから、電気機器、情報・通信業、空運業、陸運業、小売業なども、物色の対象業種になりやすいと思われます。
しかしながら、これらの業種が全て足元で好パフォーマンスを示している訳ではありません(図表2)。そもそも、インフラ整備、5G、インバウンドなどは、すでに目新しい材料ではなく、また、いずれも政策効果が業績に反映されるまで相応の時間を要するため、期待だけでは買い進めにくい面もあると推測されます。経済対策には、株式相場を一定程度、支える効果はあると思われますが、内需株の恩恵が相対的に大きいことから、相場全体を強く押し上げるには、やや力不足とみられます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『安倍政権の経済対策が「景気」と「株価」に与える影響は?』を参照)。
(2019年12月9日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト