いつの時代にも尽きない「男女トラブル」。別れを決心するだけでも大変なのに、相手が非を認めない、なかなか合意してくれない…など、その先にはさまざまな壁が立ちはだかります。本連載では、西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋し、その対処法を解説します。

DVから身を守るための「5つの保護命令」

「DV(ドメスティック・バイオレンス)」とは、配偶者や恋人など親密な関係にある、または、あった者からの身体的・精神的・性的な暴力などのことです。DVを受けた場合、まず警察や配偶者暴力相談支援センターに連絡をとるなどして身の安全を図り、避難することが大事です。

 

別居しても夫に居場所を突き止められたというような場合などにDV防止法(正式名称:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)では裁判所による保護命令を定めています。保護命令には、次の5種類があります。

 

① 接近禁止命令

6か月間、被害者の身辺に付きまとったり、被害者の住居(同居する住居は除く)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令。

 

② 退去命令

夫婦等が同居している場合で、被害者が同居する住居から引っ越しの準備等のために、加害者に対して、2か月間、住居から出ていくことを命じ、住居付近をうろつくことを禁止する命令。

 

③ 子への接近禁止命令

加害者が子に接近することにより、被害者が加害者に会わざるを得なくなる状況を防ぐために必要があると認められるときに、6か月間、被害者と同居している子の身辺に付きまとったり、住居や学校等その通常いる場所の付近をうろつくことを禁止する命令。

 

④ 親族等への接近禁止命令

加害者が、被害者と密接な関係にある親族等の住居に押しかけて暴れるなど被害者が加害者に会わざるを得なくなる状況を防ぐために必要があると認められるときに、6か月間、その親族等の身辺に付きまとったり、住居(その親族等が加害者と同居する住居等は除く)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令。

 

⑤ 電話等禁止命令

6か月間、加害者が被害者に対する面会の要求、電話やFAX、メールなど一定の行為を禁止する命令。

 

なお、保護命令の効力期間が終了してしまうと身体的暴力を振るわれるおそれが大きい場合、前回保護命令を求める根拠となった暴力等を原因として、再度の保護命令(接近禁止命令、子への接近禁止命令、親族等への接近禁止命令、電話等禁止命令)の申立てをすることができます。ただし、延長や更新とは違い、新たな事件として審理されますので、再度の申立ての段階で今後の身体的暴力のおそれが大きいことを証明することが必要です。

強制力はないが、保護命令は「再犯」の抑止効果あり

裁判所は保護命令の申立てを受けた後、2週間ほどで発令することが多いようです。ただし、DV防止法の「被害者」は、配偶者等からの暴力を受けている人、また、離婚後も暴力を受け続けている人にかぎられ、ここで定める「暴力」には、性的・精神的暴力は含まれません。

 

保護命令を獲得しておくことは、暴力を振るう配偶者等を遠ざけるという点では大きな意味をもちますが、残念ながら強制的に遠ざけることはできません。

 

ただし、加害者が保護命令に違反した場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科され、立派な犯罪行為となります。さらに保護違反の行為をやめない場合は、警察が逮捕することもあり得ます。ですから、保護命令を獲得しておくことは一定の抑止力となるのです。

保護命令申立ての注意点「必ず秘密裏に進めること」

保護命令の申立てにあたっては、事前に配偶者暴力相談支援センターか警察に相談、または援助・保護を求めておきましょう。なぜなら、保護命令の申立てがなされると、裁判所が配偶者暴力相談支援センターまたは警察に対し、書面の提出や説明を求めるからです。

 

配偶者暴力相談支援センターとは、DV防止法により各都道府県に設置されたもので、施設の名称は各自治体によって異なります。

 

配偶者暴力相談支援センターの職員または警察職員への相談、保護の求め等の事実がない場合には、公証人が認証した宣誓供述書を添付しなければなりません。認証に要する手数料が1万1000円かかることや、公証役場で公証人の予定に合わせて予約をするなど、時間も手間もかかることから、配偶者暴力相談支援センターまたは警察へ相談に行くほうが簡便であるといえるでしょう。

 

保護命令の申立ては、① 相手の住所の所在地、② 申立人の住所または居所の所在地、③ 当該申立てに係る配偶者等からの暴力・脅迫が行われた地のいずれかを管轄する地方裁判所に申し立てます。保護命令の申立てには、戸籍謄本、住民票、暴力に関する証拠(診断書・写真等)、申立人作成の陳述書などが必要です。

 

また、保護命令申立書には、次の事項を記載する必要があります。

 

① 配偶者等から身体に対する暴力または生命等に対する脅迫を受けた状況

② 配偶者等からの暴力または生命等に対する脅迫により生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいという事情

③ 被害者の子への接近禁止命令の申立てをする場合、被害者がその子に関して配偶者等と面会することを余儀なくされることを防止するために子への接近禁止命令を発する必要があると認めるに足りる事情

④ 被害者の親族等への接近禁止命令の申立てをする場合、被害者がその親族等に関して配偶者等と面会することを余儀なくされることを防止するために親族等への接近禁止命令を発令する必要があると認めるに足りる事情

⑤ 配偶者暴力相談支援センターの職員または警察職員に対し、①~④までの事項について相談したり、援助もしくは保護を求めたことがあれば、次の事項

(イ)配偶者暴力相談支援センターの職員または警察職員の所属官署の名称

(ロ)相談、援助、保護を求めた日時と場所

(ハ)相談または求めた援助もしくは保護の内容

(ニ)相談または申立人の求めに対してとられた措置の内容

 

申立人の面接後、通常は約1週間ほどで相手の意見聴取のための審尋(しんじん)期日が設けられます。裁判所は、相手の言い分もふまえたうえで、証拠に照らして保護命令を発令するかどうかを決めます。

 

保護命令に違反すると刑罰(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)が科されることから、裁判所は保護命令の発令には慎重です。ですから、確実に保護命令を出してもらうためには、証拠が非常に重要となります。

 

なお、申立ての準備や申立てをしたことが相手に知られると、相手がそのときだけ態度を変えたり、逆上することも考えられますので、秘密裏に進めたほうがよいでしょう。また、保護命令の申立書は相手に送られるので、所在を知られたくないのであれば、相手とともに生活していた際の住所を記載するなど、気をつけてください。

 

申立てに理由があると認められると、保護命令が発令され、相手には決定書の送達または相手が出頭した審尋の期日などにおける言渡しがなされ、効力を生じます。裁判所は、保護命令の発令と同時にその内容を、申立人が生活する地域の警察に通知します。その結果、事実上しばらくの間、警察から相手に対し毎日電話し、実効性が確保された例もあります。

 

なお、申立てを却下する決定が出る場合、裁判所から事前に取下げをすすめる連絡がくることがあります。保護命令の申立てを却下する決定が出ると、相手に対し、自己の行為がDVではないとの裁判所のお墨付きを与えられたとの誤解を生じさせ、その後ますます暴力行為がエスカレートする場合があるので、却下が予想される場合には取り下げたほうがよいでしょう。

 

相手からの暴力等の危険がある場合には、ただちに逃げてください。そして、弁護士や警察・配偶者暴力相談支援センターなどに相談するようにしてください。

 

配偶者暴力等に関する保護命令手続の流れ
配偶者暴力等に関する保護命令手続の流れ

 

 

西村 隆志

西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士

 

本連載で紹介する事例はフィクションです(実際の裁判例は除く)。登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在の人物のものとは関係ありません。また、本連載は2019年8月5日刊行の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)の一部を抜粋・再編集した記事です。最新の法令等には対応していない場合もございますので、予めご了承ください。

財産分与・慰謝料・親権に強い弁護士が明かす キッチリけりがつく離婚術

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東邦出版

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