常磐線×東武アーバンパークラインの結節点
前回(関連記事:「西の渋谷」の実態は…「町田」に襲いかかる人口減少の波)、「西の渋谷」と例えられる「町田」を取り上げたが、西があれば東もある。「東の渋谷」と例えられるのは、「渋谷」駅から北東に30km強の「柏」だ。そのように形容されたのは90年代後半、当時流行していたギャル文化を発信する店が「柏」駅周辺にオープンし、街の雰囲気が「小さな渋谷」のようだったからだという。
柏が位置するのは、千葉県の北西部で、人口は40万人を超える。その中心である「柏」駅周辺は、もともと何もない農村地帯であったが、1896年に常磐線が開通し「柏」駅が開業し、1923年には北総鉄道(現東武野田線)が開業すると、二つの路線の結節点として、市街地が形成されるようになった。
1954年、東葛市から改称して柏市が誕生。高度成長期を迎えると、東京のベッドタウンとして人口が急増し、1985年には30万人を、2010年には40万人を突破した。
また2005年には、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス(TX)の開通に伴い、市北部の「柏の葉キャンパス」を中心に、産学連携施設を中心とした文教地区が形成され、さらにショッピングモールやマンションなどの開発も活発化。TX沿線は東京都心へのアクセスの良さもあり、最近では「住みたい街」として各種ランキングに顔を出すことも珍しくない。一方で目立った開発計画のない市南部は、TX沿線の北部との格差が顕著になっており、「柏の南北問題」と議論されている。
そんな柏の中心となるのが、前述の「柏」駅周辺で、JR常磐線、JR常磐快速線(上野東京ライン)、東武鉄道野田線(東武アーバンパークライン)の3路線が乗り入れている。快速を利用すれば、「上野」まで30分、「東京」まで40分、「品川」まで50分でアクセスできる。乗降者数は約40万人/日で、TXの利便性向上に伴い、利用客が分散したとはいえ、日本屈指のターミナル駅であることに変わりはない。
駅周辺は商業集積地であり、東口にはビッグカメラが入る「SKY PLAZA」、「ファミリかしわ」、「柏マルイ」、「イトーヨーカドー 柏店」、西口には駅直結の「柏高島屋ステーションモール」や「柏高島屋」などの大型商業施設が点在。東口のデッキを降りると、正面に「柏駅東口駅前通り商店街」、その右手にはアーケードがある「柏二番街商店会」が続き、多くの飲食店や雑貨・服飾店などが並ぶ。
昼夜問わず、ターミナル駅にふさわしい賑わいを見せているが、懸念材料となっているのが、2016年に閉店した「そごう柏店」の跡地。駅東口直結という立地に関わらず、まだ正式な跡地利用案は示されていない。第一駐車場跡地には、タワーマンションの建設が始まったが、店舗跡地でも再開発の早期着工が待たれている。
TX沿いが人気だが「柏」駅周辺でも人口増加を予測
ターミナル駅として存在感を示す「柏」を不動産投資の観点から見ていこう。まず直近の国勢調査(図表1)によると、柏市の人口は約41万人。人口増加が鈍化している千葉県のなかでも、人口増加率2.5%と、安定した成長をみせている。年齢構成(図表2)をみてみると、若干、65歳未満の割合が多いが、千葉県の平均と同じような人口構造を示している。
次に世帯の状況をみていこう(図表3)。柏市の単身者世帯率は33%、高齢者層を除くと25%と、東京23区と比べると15%程度低くなっており、その分、家族層から支持されているエリアだということがわかる。まさに東京のベッドタウンとしての柏の姿を表しているといえるだろう。
次に住宅事情をみてみよう。柏市の賃貸住宅における空室率(図表4)は8.0%と、千葉県の平均6.7%を上回る。これは柏で空き家が目立つというわけではなく、地方よりも賃貸向け住宅が多いことの表れだと推測される。次に賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみると、2010年以降の物件が多いのが特徴だ。これは、近年、宅地化が急速に進んでいるTX沿線が中心となり、多くの住宅が供給されているためだと考えられる。
駅周辺に絞って見ていこう。柏市では1世帯あたりの人数が2.4人に対して、「柏」駅周辺では1.9人(図表6)。常磐線利用で都心にダイレクトにアクセスできる利便性から、駅周辺は単身者層にも支持されている傾向にあるようだ。「柏」駅徒歩10分圏内の1Kの平均家賃は5.33万円で、常磐線の隣駅「松戸」の4.66万円と比較すると高くなるが、同じ沿線で都内の「北千住」6.3万円と比較すると、非常にリーズナブルだ(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ11月6日時点)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。平均取引価格は2,238万円。平均平米数は62.1㎡。駅徒歩圏内の中古マンションは家族向けの物件が主力で、平均平米数を押し上げている。「柏」駅周辺で不動産投資を検討するなら、家族層をターゲットにして長く住んでもらえることを基準に物件を選定することが、成敗のカギとなるだろう。
柏市の将来人口の推計をみていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測では、柏市では2025年425,045人をピークに人口減少するとしているが、下落率はゆるやかだろう。2015年の人口を100とすると2040年はちょうど100%(図表8)という水準だ。さらに黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表す将来人口推移のメッシュ分析(図表9)で「柏」駅周辺を見てみると、一部人口減少を示す地域もみられるが、安定的な人口増加が想定されるエリアだと推測されている。柏では「柏の葉キャンパス」など、TX沿いの市北部が注目されがちだが、市の中心である「柏」駅周辺の人気は、20年後でも安泰のようだ。
前回、「町田」駅周辺について分析をしたが、「西の渋谷」の20年後は、人口減少が予測されていた。一方、「東の渋谷」は全国的に人口が減少するといわれているなかでも、安定的に人口が増加すると予測され、東西渋谷対決は、明暗が分かれる結果となった。