相鉄・東急直通線で期待値があがる「綱島」
11月30日、相鉄・JR直通線が開業した。それまで相鉄線ユーザーが東京方面に向かうには、いったん「横浜」を経由しなければならなかったが、直通線の開業により、ダイレクトに「大崎」「渋谷」「新宿」方面へとアクセスできるようになった。
しかし、直通運転は、朝ラッシュ時で10~20分間隔、デイタイムには約30分間隔となっていて、利便性が向上したと、大々的にいえる状況にはない。もちろん、これで終わりではなく、2022年下半期には、相鉄・東急の直通運転が始まる。朝ラッシュ時間帯で毎時10本~14本程度、その他の時間帯は毎時4~6本程度運行される予定で、「二俣川」~「目黒」は16分短縮され約38分でアクセスが可能になる。さらに渋谷方面から新幹線駅である「新横浜」に向かうには、途中「菊名」での乗り換えが必要だったが、相鉄・東急の直通運転が始まれば、乗り換えなしでアクセスできるようになる。
今から開業が待たれるが、予定されている沿線では、地価の上昇も始まっている。今回は注目されるエリアのなかから「綱島」をピックアップし、投資対象としての可能性を見ていこう。
「綱島」は、東急電鉄東横線の駅で、通勤時間帯は「渋谷」まで25分強、デイタイムは20分強でアクセスできる。東横線は「渋谷」から東京メトロ副都心線に乗り入れているため、「新宿三丁目」「池袋」方面にも乗り換えなしでリーチできる。また「横浜」には10分、「みなとみらい」には15分と、横浜方面のアクセスも抜群だ。
2022年に開業する相鉄・東急直通線は「綱島」駅には乗り入れせず、駅東口から100mほどのところに「新綱島」駅を新設する。地下駅であり、その上には240戸のマンションと商業施設、区民文化センターからなる28階建てのビルが建設中で、合わせて道路やバスターミナル、自転車置き場が整備される予定だ。
新駅開業により、地域住民は2駅の利用が可能になるが、渋谷方面は新駅を利用しても「日吉」で東急東横線に乗り入れるので、現状と状況はあまり変わらない。しかし新駅を利用することで「新横浜」に乗り換えなしでリーチできるようになり、新幹線利用が格段に楽になる。
実は「東京の奥座敷」と呼ばれる時代があった
そもそも「綱島」一帯には海が広がり、現在の高台には船着場(=「津」)があったことから、「津の島」から「綱島」になったといわれている(ほかにも諸説あり)。
さらに1926年に開業した時の駅名が「綱島温泉」だったことからもわかるとおり、かつてこの地には約80軒もの宿泊施設が並ぶ温泉街があり、「東京の奥座敷」と呼ばれていた(駅名は、1944年に「綱島」に改称)。交通網が発達し、熱海や箱根、伊豆などへ日帰りで行けるようになったことで衰退し宿泊施設はなくなったが、銭湯温泉の「富士乃湯」や「太平館」は現存し、昔の名残を垣間見ることができる。
「綱島」駅周辺には、7つの商店会、新旧約400店が展開する商業集積地で、各商店会で「綱島商店街連合会」を形成。また西口には「イトーヨーカドー 綱島店」や、24時間営業の「Hanamasa Plus+(ハナマサプラス)」があり、最寄り品は駅周辺でひと通り揃えることができる。一方でかつての温泉歓楽街の名残りで、風俗店が少なからず存在している点は、子育て世代には気になるところかもしれない。
人口増加が続く「綱島」周辺だが、洪水の心配も
「綱島」を不動産投資の観点から見ていこう。まず直近の国勢調査によると(図表1)、「綱島」駅のある横浜市港北区の人口は、約34万人。人口増加率は、横浜市全体で1%なのに対し4.5%と高い水準を示しており、横浜市の人口増加を牽引している存在だ。年齢構成(図表2)をみてみると、横浜市平均と比べて、高齢化率が低く、現役世代の比率が高くなっている。東急東横線はファミリー層から人気の高いエリアであり、また「渋谷」まで急行利用で20分ほどでアクセスできることから、現役世代に選ばれる地域であることが推測される。
次に世帯数(図表3)を見ていこう。横浜は東京のベッドタウン的要素も大きいので、東京都心と比較すると10~15%程度、単身者比率は低くなるが、そのなかでも港北区は単身者比率は高め。高齢者を除く単身者世帯の割合は、市全体の平均を10%ほど上回る。
次に住宅事情を見てみよう。港北区の賃貸住宅における空室率(図表4)は7.3%と、横浜市全体を上回る。賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみてみると、港北区では横浜市平均と比べて、2000年以降の割合が多い。これは、横浜市営地下鉄4号線「日吉」~「中山」が2008年に開業するなどして、交通利便性の低かった港北区内で宅地化が進み、マンション等が増加したことによるものと推測される。また空室率の高まりは、近年賃貸物件が増加したことによるものと考えられる。
駅周辺に絞って見ていこう。港北区では1世帯あたりの人数が2.4人に対して、「綱島」駅周辺では2.1人(図表6)と、通勤の便利なロケーションから、単身者に選ばれるエリアだということだろう。
「綱島」駅10分圏内のワンルームの平均家賃は、6.34万円。隣駅の「日吉」は5.81万円、「大倉山」は4.95万円と、家賃は高めだが、急行停車駅という交通の利便性、駅周辺に約400店が集積するという生活の利便性を考えると、納得の価格だろう(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ12月10日時点)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。平均取引価格は3,162円で、平均平米数は55㎡と、家族向けのマンションの取り引きの多いエリアである。この地域で不動産投資を考えるなら、ファミリー層に長く住んでもらえる物件かどうかを見極めることで、長期的に安定した賃貸経営が実現するだろう。
港北区の将来人口の推計を見ていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測(図表8)では、港北区は横浜市のなかでも人口増加が続くエリアで、2040年376,636人をピークに、人口減少が始まると推測されている。2015年を100とすると、2040年は109.4という水準なので、将来的にも有力な投資先候補になるだろう。
さらに「綱島」駅周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていく(図表9)。黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表すが、全体的に暖色系、つまり人口増加が見込まれる地域であると予測されている。特に新駅のできる駅東側は高い人口増加が見込まれている。新駅開業による再開発、それにより新規物件の供給が活発になり、人口増加が期待されているのだろう。
このように見ていくと、「綱島」周辺は、投資対象として非常に魅力的だということがわかった。ひとつ懸念をあげるとすれば、駅の南側に流れる「鶴見川」の存在だ。横浜市が発表している洪水のハザードマップを見ると、「綱島」周辺は、鶴見川が氾濫した際、「0.5m~3mの浸水」にさらされる可能性があるとしている。このエリアで浸水が免れるのは、高台となっている綱島台や、綱島西1丁目付近だけだという。
このようなリスクを許容できるかどうかも、不動産投資において大切な判断基準である。