中小企業が「ブルーオーシャン戦略」で大失敗してしまう理由

企業が既存市場で競合他社との競争を勝ち抜くのではなく、競争が存在しない「新たな市場」の開拓を目指すのが「ブルーオーシャン戦略」です。新しい市場を創造しようする戦略は、中小企業の勝ち残りに有効な姿勢だと思われますが、実際はどうなのでしょう? 本記事では、公認会計士の久禮義継氏が、中小企業が「ブルーオーシャン戦略」を取り入れる際の留意点について解説します。

ネットの力でブルーオーシャンが一瞬で消える時代に…

今回は、夏も本番ということで海に関連したテーマ、ビジネスで比較的耳にする用語(特に経営者周辺)、「ブルーオーシャン戦略(※)」について話を進めたいと思います。

※ 既存市場で競合他社との競争を勝ち抜くのではなく、競争が存在しない新たな市場を開拓しようとする戦略です。つまり、既存の常識の枠内で製品・サービスを考えるのではなく、これまでになかった製品・サービスを提供することで新たな市場を開拓しようとすることを指します。ちなみに、この戦略は、自社製品・サービスに対して、何かを「取り除く」・「減らす」・「増やす」・「付け加える」という活動を通じて、差別化戦略と低コスト戦略を同時に実現して、新規市場を開拓することを目指します。

 

「◯◯◯事業はまだブルーオーシャンだから狙い目です」、なんて感じで使われていますよね。

 

しかしながら、この意味を誤って捉えると、ブルーオーシャン戦略は中小企業にとって悪魔の囁きとなりかねないのです。中小企業は顧客開発の余裕が乏しい場合が多いですよね。経営資源が豊富な大企業なら失敗しても体力があるので挽回できますが、中小企業ではそうはいきません。

 

連載1回目でもお話いたしましたが、「中小企業にとってブルーオーシャン戦略を採用した時点で負けが確定」といっても過言でないのです(関連記事『没落国・日本で中小企業が生き残るための「逆説的」戦略とは?』参照)。

 

では、早速中小企業とブルーオーシャン戦略との関係について順を追ってみていきましょう。

 

ブルーオーシャン戦略にはさまざまなメリットがあることから幅広く利用されています。しかしながら、本連載では文脈の都合上、同戦略に内在する落とし穴についてのみ整理してみましょう。

 

中小企業に限らず、ブルーオーシャン戦略を実行する場合に陥りがちな罠は次の通りです。

 

1.実はブラックオーシャンだった

 

ブルーオーシャンだと信じ、顧客開拓を行ったものの、残念ながらそこにはそもそも市場が存在しなかったというパターンです。この場合、そのような会社は残念ながら漆黒の闇に消えていってしまうかもしれません。

 

2.綺麗な海には大勢の人が押し寄せる

 

つまり、ブルーオーシャンは継続すると過信してしまうことです。綺麗な海(ブルーオーシャン)であるならば、みんなこぞってその海に入りたいと思いますよね。情報に溢れ、ネットの力で瞬時に伝わるこの時代にブルーオーシャンは継続的に存在せず、一瞬で消え去ることが多いと思った方が安全です。

 

3.確かにブルーではあるが、プライベートビーチで中に入れなかった

 

新たな市場は存在するものの、特段の事情があるため結果的にブルーオーシャンとなっている状況にあるというものです。

 

ある特定の企業が独自の強み(例.長年の信用、特殊な技術、特許などの知的財産…等)を活かしてその市場を独占に近い状態を作り上げているため、既存のプレイヤーに太刀打ちできず海底に沈められてしまうのです。

 

上記に加えて、中小企業の場合はいくつか独特の課題があります。

 

4.綺麗な海に入ることが許されない(パワーの問題)

 

中小企業であるため、その市場に入っていこうにも端っこに追いやられたり、そもそもその海に入ることが許されないかもしれません(大企業や有力企業を中心としたゲームに参加できない)。

 

5.目の前のブルーオーシャンに気づかない(リソースの問題)

 

ブルーオーシャン戦略を有効活用するためには、正しい方向にしっかりとアンテナを立てておく必要があります。中小企業の場合には経営資源にそこまでの余裕がなく、結果としてビジネスチャンスに気づいていないことがままあります。

 

6.綺麗な海であっても泳げない(スキルの問題)

 

実はそもそも中小企業にブルーオーシャン戦略はあまり馴染まないという意見があります。

 

顧客や市場を開拓できたとしても、売る力がないと意味がないのです。つまり、マーケティングやプロモーション活動を行なって、最終的にしっかり販売まで結び付けないと宝の持ち腐れとなります。

「海を泳ぐ」ために中小企業が取り得る方策2つ

それでは、中小企業はどうすればいいのでしょうか? ブルーオーシャン戦略をなんとかうまく活用すべきなのでしょうか? それとも、忘れるべきなのでしょうか?

 

そこで、顧客開発の余裕が乏しいことを前提に、中小企業が取り得る方策を2つ提案してみましょう。

 

A.局地的ブルーオーシャン戦略

 

特に奇をてらったものではありません。泳ぐ海(地域、顧客層など)を思い切り限定するということです。

 

本島のビーチだと人が賑わっているので海の家が乱立しています。無人島だと商売どころの話ではなく月日が経てば生命の危機となってしまいます。しかし、ある程度近場の離島であればまだまだ勝機があります。離島のビーチでは結構泳いでいる人はいても海の家がなかったり、あったとしてもひとつしかないですよね。

 

中小企業は経営資源が限定的ですが、焦点を精一杯絞って、取り除いたり、減らしたり、増やしたり、付け加えたりしながら、大企業や競合他社が絶対入ってこない(これない)ようなスーパーニッチを作り出すのはどうでしょうか?

 

B.半ばブルーオーシャン戦略を諦める(コバンザメに徹する)

 

中小企業に有効な戦略として「コバンザメ戦略」も選択肢のひとつとなりえます。簡単にいえば、ブルーオーシャンを探す苦労を大企業に任せたらいい、という戦略です。大企業の動きをしっかりストーキングし、彼らが市場を抑えに行くところをつまみ食いするだけでも中小企業レベルでは割りがいいビジネスである場合が十分にあります。

 

なお、消極的なメリットではありますが、自社で顧客開発をする必要がなくなるため余計な手間(コスト)を省くことにつながります。

 

以上を総まとめすると、次の図の通りになります。

 

[図表1]
[図表1]

 

 

経営戦略にまつわる用語にはいろいろな種類がありますが、確かに「ブルーオーシャン」はクールでとびきり素敵な用語だと思います。

 

だから、カッコいいなとビジネスの現場で思わず使ってみたくなるという気持ちもよくわかります。

 

しかしながら、上に述べたようにそれを使いこなすためにはいろいろと気をつける必要があることがお分かりいただいたでしょうか。何ごとも簡単には進みません。是非皆さん、「チャンス」と思しき「ブルーオーシャン」が目の前に現れたとしても、決して熱くならずに冷静にモノゴトをすすめるようにしましょう。

 

 

久禮 義継

株式会社H2 オーケストレーターCEO/公認会計士久禮義継事務所 代表

株式会社H2オーケストレーター・CEO
一般社団法人M&Aテック協会・代表理事
公認会計士久禮義継事務所・代表
 

1995年、同志社大学経済学部を卒業後、中央監査法人に入所。1998年、日本興業銀行ストラクチャード・ファイナンス部へ出向。2000年、同法人金融部に配属。2001年、ドイツ証券投資銀行本部に転じる。2006年、ミシガン大学ビジネススクールを卒業後、The Bridgeford Group(ニューヨーク)にて勤務。2007年に帰国し、JPモルガン証券投資銀行本部、みずほ証券グローバル投資銀行部門など数社を渡り歩く。2013年、NEC経営企画本部に転じ、2019年独立。これまで、退職給付信託(国内初案件)の開発、民事再生法下のプレパッケージ型事業再生スキーム(国内初案件)におけるM&Aアドバイザー、事業法人グローバルIPOにおけるジョイント・グローバル・コーディネーター(2002年度国内最大案件)、特殊法人の民営化関連アドバイザー等、投資銀行業務における重要案件を幅広く担当した経験を有する。NECでは、上級役員の参謀役として経営の中枢に携わり、中長期戦略・グローバル戦略の立案・実行部隊として、ダボス会議事務局、グローバルアライアンス推進などに従事。公認会計士・米国公認会計士有資格者。著書に『流動化・証券化の会計と税務』(中央経済社)等。「スモールM&Aの教科書(仮題)」(中央経済社)を今夏出版予定。

著者紹介

連載令和時代に生き残る!中小企業のための新しい経営戦略

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