「一見不合理であるが実は良い」アイデアとは?
前回、「スタートアップ思考」のさわりとして、いくつかのポイントをあげました(関連記事『中小企業と大企業のM&A…統合プロセスで見落しがちな注意点』参照)。
では、このスタートアップ思考は、具体的にどのように役に立つのでしょうか? これらを参考にして、事業が好転したり、新規事業が加速するのであれば、どんどん取り組んでいくべきです。
今回からスタートアップ思考のうち、中小企業に参考になりそうなものをピックアップして、考察していきたいと思います。「アイデア」編、「プロダクト」編、「戦略」前編、「戦略」後編、「組織」編、「運」編の6回に分けて、解説していきたいと思います。
今回の「アイデア」編は、以下の赤囲みの部分が対象です。
<スタートアップ思考その1>
「一見不合理であるが、実はよいアイデアを探す」
【概要】
合理的なアイデアは競争過多となり、リソースの勝負となるため、大企業に負けてしまいます。大企業が実行しない不合理なアイデアや、狂ったようなアイデア(だけれども実は良いアイデア)で勝負することで抜け駆けすることを目論むのです。
ただ、一見不合理なアイデアが実際そのとおり悪いアイデアであったということがほとんどであるのも事実で、「いうは易し行うは難し」といえましょう。ちなみに、アイデアに対する評価は固定的なものではありません。過去悪かったアイデアが、現在では良いアイデアとなっている可能性があります。
【考察】
「一見不合理であるが実は良い」というアイデアを探り当てるのは、顧客のことをよく知っていないと難しいと思います。中小企業であるならば、例えば地場の顧客のニーズについて誰よりも精通している可能性があります。また、大企業はニッチな地域まで洞察深く進出してくる可能性は高くないでしょう。
ただそういった構造は今に始まったことではないので、ここでのキモはいかに既存のプロダクトの殻を破って新たなアイデアをいかに提供できるかどうかにかかってきます。
大企業と比較して中小企業は経営資源が乏しいが…
<スタートアップ思考その2>
「シンプルであるが、分かりにくいアイデアが望ましい」
【概要】
アイデアはシンプルであることはとても重要です。なぜなら、シンプルでないと顧客には伝わらないからです。ただ、スタートアップが生み出すアイデアはもう一歩先を行くべきなのです。表面上はシンプルであっても、その意味する内容はわかりづらいというようなアイデアの発案を目指すのです※1。
なぜなら、スタートアップは、市場がなかったり、商品カテゴリが存在しなかったり、そもそも試行錯誤・暗中模索状態で自分自身もきちんと理解をできていないというような新奇性が著しく高いビジネスを目指すものであるからです。
※1 シンプルさと分かりにくさは両立しうるものです。「バカげたアイデア」、「趣味の延長線上にあるようなアイデア」、「周囲からコンセンサスが得られなさそうなアイデア」などの場合、シンプルさと分かりにくさが両立したアイデアとなる可能性が高くなります。実例としてはAir BnBやUberなどが挙げられるでしょう。
【考察】
シンプルなアイデアは難解なものを思いつくより簡単です。これは企業規模とは関係なく、普遍的に適用できることでしょう。そして、「わかりづらいアイデア」(例.市場がそもそもないような新奇性の高いアイデア)を思いつくのも、中小企業でも、大企業でも、さほど変わらないかもしれません。
つまり、中小企業は大企業と比較して経営資源が乏しいですが、このようなアイデアにおいては、ある程度チャンスが与えられています。もう少し踏み込むと、大企業には「イノベーションのジレンマ」※2が存在するので、状況によってはむしろ中小企業の方が有利な場合があります。ただ、スタートアップとの比較で考えてみると、中小企業の場合、思考が硬直的となりがちであるため、上記したような突拍子のないアイデアが出てくる可能性は高くないかもしれません。
※2 イノベーションのジレンマとは、大企業の場合、既存商品の改良のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない場合があります。新興の事業や技術は、当初は規模が小さいため魅力的に映らないだけでなく、これまで育ててきた既存の事業を破壊する可能性があるためです。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興市場への参入に大きく後れを取ってしまう現象を指します。
<スタートアップ思考その3>
「難解な課題に取り組む方が実は簡単」
【概要】
難解な課題にチャレンジすると、その姿に賛同したサポーターが現れる場合があります。スタートアップの場合、大企業、優れた技術者、賛同して新たにジョインする従業員、投資家、いろんなパターンが考えられるでしょう。また、難解な課題であるがゆえ、競争が生まれにくいともいえます。ただ、周囲を巻き込むには、大胆でありながらも実現可能と思わせるアイデアであることが必要です。そのボーダーラインの見極めは慎重に行う必要があるでしょう。
【考察】
スタートアップでなく普通の中小企業であっても、新しいことに挑戦することはと目につきやすく、近隣の同業他社などを勇気付け、新たなエコシステムが出来上がったりすることもあります※3。また、(これはスタートアップでも同じですが)行政機関は、中小企業が新奇性の高い事業にチャレンジすることに対して、様々な助成金や補助金を提供しています。
※3 「がんばる中小企業・小規模事業者」(中小企業庁)参照。こちらに膨大な数の革新的取り組みを行っている中小企業の実例が詳細まで記載されています(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/monozukuri300sha/index2014.htm)。
以上、スタートアップ思考のうちの「アイデア」について考察しました。その結果、全体をまとめてみると次のようなことが言えるのではないかと思います。
参考資料:「逆説のスタートアップ思考」(馬田隆明:中公新書ラクレ578)