買い物でストレスを発散する妻が「閃いた」
【浪費を繰り返す妻。離婚したいが相手は拒否。どうしたらよいでしょうか】
順一さん(34)が結婚した6年前。順一さんの手取年収は300万円ほどでした。妻は働いておらず、子どもはいません。
つい最近のことです。ある日、順一さんが貯金残高を確認したところ、500万円あったはずの貯金がわずか2万円しかありませんでした。慌てて妻を問いただすと驚くべき事実がわかったのです。
以前から、買い物でストレスを発散することが多かった妻は、自分の自由になるお金がない生活にイライラを募らせていたといいます。そこで、自分の欲しいものを購入できないかと考えた妻は、禁断の手法を思いつきます。順一さん名義のクレジットカードで値の張る家電製品を分割払で購入し、すぐにネットで売却して手もとにより多くの現金を残すというものです。
スマートフォンやタブレットで味を占めた妻は、パソコン、お掃除ロボット、スマートスピーカーというようにどんどん買い物を増やしていったそうです。換金したお金は、洋服やアクセサリーにつぎ込んでいました。
しかし、それで利益が出るわけでもなく、どこかで破綻するのは目に見えていました。なにより貯金残高がみるみる減っていき、妻はそれを取り繕うためにFXに手を出しました。順一さんに内緒で減った残高を取り戻すべく運用益を狙いましたが、素人の妻にはハードルが高すぎました。あっという間に、貯金が底をついてしまったのです。
この驚愕の事実が発覚し、妻は平謝り。そこで、夫婦で一度話し合って、再出発を図ることにしたのですが、妻は相変わらず、買い物をやめることをしなかったため、順一さんの怒りは頂点に達しました。順一さんは離婚を申し出るも妻は「心を入れ替えるから」と離婚を拒否しています。順一さんは離婚訴訟を起こすつもりですが、妻の浪費を理由に離婚できるか心配です。
弁護士が解説!離婚のポイント「悪意の遺棄(いき)」
◆「浪費」は離婚理由になるか
ひと言に浪費といっても、その概念は、夫婦の資産、収入、価値観などとの相関関係によって決せられる相対的なものです。しかし、配偶者に無断で不必要な借金を重ねたり、遊興に使ったりして、家計を困窮に陥らせたというような場合は、夫婦の協力・扶助義務に違反する行為として、「悪意の遺棄(いき)」に該当し、離婚請求が認められます。
そこまでに至らないとしても、一方の借金によって、健全な家計の維持を困難にし、家庭生活が経済的に破綻し、夫または妻に対する信頼と愛情が失われれば、「婚姻を継続しがたい重要な事由があるとき」に該当し、離婚請求が認められます。
つまり、借入れの目的・使途・金額、夫婦の収入、財産の状態、家計の状態、配偶者の了承の有無等の諸事情から判断して不相当な行為であり、そのことによって夫婦の信頼関係が失われているか否かによって判断されると考えられます。
◆どのような証拠を収集すべきか
浪費の概念は相対的なものですので、浪費や借金によってどのような不利益があったかがわかる資料が必要と考えられます。
配偶者の浪費が発覚した場合、請求書や支払明細書など、借入額や借入目的・使途がわかる資料、所得(課税)証明書や源泉徴収票など、その当時のお互いの収入状況がわかる資料、預貯金通帳など当時の財産状況がわかる資料、家計簿など当時の家計収支がわかる資料、借入れや浪費をしたことが発覚した後の互いのやり取りの内容(LINEやメール、録音など)の証拠が必要になります。
◆事例に対するコメント
順一さんの事例と類似の裁判で、裁判所は、「夫は必ずしも収入は高給とは認めがたい状況の中で、妻は性格が派手で支出が多く、家計費が足りなくなったときは、夫には内緒で代金支払の目算がたたないのに月賦販売制度を利用し、頭金のみを支払い、商品等を購入しては売却処分等を繰り返していた。その後、夫との話合いのうえ、再出発した生活においても以前同様の生活態度を続けていたため、婚姻関係を継続しがたい重要な事由であると認めるのが相当である」として、夫の離婚請求を認めました。
話し合って再出発をした生活においても浪費を続けたという事情も離婚を認める方向に大きく作用したのではないかと思われます。そのため、順一さんが離婚訴訟を起こせば認められる可能性は高いと思われます。
西村 隆志
西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士