定年後も勤めた会社から「給料を返せ」の一言、断ったら解雇に

人生100年時代といわれ久しい昨今、定年後も働き続けるのが一般的となりつつある。定年まで勤め上げた会社に残るという選択をする人も多いが、不当な給与の引下げや、思わぬタイミングでの雇止めにあうことも。本記事では、法律事務所に寄せられた、定年後の不当解雇にまつわる事例を紹介する。

定年後4年目の終わり頃、会社から突然の知らせ

定年をむかえたAさんは、その後も今まで勤め上げた会社で働き続けることを選択しました。定年後2年間は支店長の役職を任せられ、その後1年間は支店長を教育する役職として、支店長時代と同様の額の給与を支払われていました。

 

しかし、定年後4年目の終わり頃に、会社から突然の知らせが。今まで払っていた支店長時代の給料は過払いだった、本来は事務職程度の給与であるべきだったので給料を返せというのです。

 

会社から「給料を返せ」の一言
会社から「給料を返せ」の一言

 

これに対しAさんは、事務職に役職が変わったという説明は受けていない、給与の返還にも応じられないと反論しました。すると、Aさんが給与変更を納得しなかったこと、および期間満了を理由に、会社を退職させられました。そこで、不当解雇を理由として、労働審判の申立てを行いました。

 

労働審判における会社側の反論は、期間の定めのある雇用において期間が満了したにすぎないとのことでした。当方は、Aさんが役職変更に伴う給与の過払いを知らなかった事実から、更新手続きが行われていなかったこと、4年目終了時点での「雇止め」は有効でないと主張しました。

 

雇止めとは、有期労働契約において、使用者が(労働者の意思いかんにかかわらず)期間満了をもって雇用関係を終了させることをいいます。しかし、労働者保護の観点から、雇止めには一定の規制がされています(雇止めの法理)。

 

雇止めの法理は、有期労働契約であっても、その期間を超えて、ある程度の継続雇用が期待されている場合には、当該契約期間の満了によって雇止めをするには、解雇権濫用法理を類推適用して、一定の規制を及ぼすものです。ちなみに、解雇権濫用法理とは、簡単に労働者を解雇してはいけないというルールです。

 

雇止めの法理は最高裁判所が確立したものですが、その後、雇い止めの法理を反映した法律(労働契約法19条)が国会で制定され、以下の要件を満たした場合に、有期雇用契約が期間満了時に更新されたものとみなされることになりました。

 

①過去に反復更新された有期労働契約について雇い止めすることが、無期労働契約の労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められること(1号)

 

例えば、無期雇用の正社員と有期雇用の労働者の区別がなく、これまでに期間満了時に更新の手続きが取られたことがないまま自動的に再雇用されてきたなどの事情があると、この要件は認められやすくなります。

 

もしくは、有期労働契約の期間満了時に労働者が契約更新を期待することについて合理的理由が認められること(2号)

 

例えば、無期雇用の正社員と有期雇用の労働者の区別はあるが、契約の更新が繰り返され、さらなる更新への期待が客観的に認められる場合は、この要件が認められやすくなります。

 

②労働者が有期労働契約の期間満了時までに契約更新の申し込みをするか、または、期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結申し込みをすること

 

③使用者の②に対する申込拒絶が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと

 

労働契約法19条における上記①の要件の充足の有無を考えるにあたっては、雇止めの法理の適用を認めた裁判例の考え方が参考になります。

 

すなわち、①雇用の臨時性・常用性(仕事の内容が臨時的・補助的か、基幹的か)、②更新の回数、③雇用の通算期間、④契約期間管理の状況(契約書を毎回締結しているか、手続きが形式的になっていないか)、⑤雇用継続の期待をもたせる使用者の言動や制度の有無などを総合考慮して、有期契約が無期契約と同視できる状態になっているといえるかどうか、または、有期契約の更新に対する合理的な期待があるかどうかを判断していくことになります(平成24年8月10日基発(労働基準局長名通達のことです)0810第2号の第5の5(2)ウ)。

 

また例えば、これまでに契約の更新をしたことがない労働者であっても、当初の契約の際に更新が予定されていたような場合について、解雇権濫用法理の類推適用を認めた裁判例(龍神タクシー事件・大阪高等裁判所平成3年1月16日判決)がありますので、過去に更新の無かった労働者にも、契約更新への期待を認めるべきと主張できる可能性はあります。

 

平成25年に労働契約法が改正され、有期契約であっても契約更新がされることで会社と契約している期間が5年を超えるような場合は、有期契約を無期契約に転換できる権利が労働者に認められるようになりました。

 

この法改正を受けて、企業のなかには、労働者の契約期間が5年を超えないようにするため、労働者との間で、契約期間が5年を超えるような契約更新をしないとする「不更新条項」を結ぶような企業も出てきました。

 

この「不更新条項」を会社との間で結んでしまうと、労働者の契約更新に対する期待が保護されず、雇止め法理の適用が認められない可能性が出てきます。

 

「不更新条項」の問題に関しては、裁判例がいくつか出ており、説明会などで雇止めの経緯や理由等について労働者が会社から十分な説明を受けたか、不更新条項に関する労働者の意思表示が明確であったか(異議を示したか、署名押印をしたか等)、退職届を提出したかなどが重要な要素になっています。

 

そのため、例えば、会社から「不更新条項」について説明を受けて、労働者が異議を述べたが、会社から「不更新条項」を外すことを拒否されて、不本意ながら「不更新条項」を契約に入れることを了承した、というような事情を証明することができれば、雇止めの法理が適用されて、契約の更新が認められるかもしれません。

会社側が提出した更新契約書にはAさんの印が…

本件では、会社側から役職変更を示す更新契約書が提出されましたが、当方はその存在を把握していないと主張しました。しかし、その更新契約書に押された印鑑がシャチハタ印ではなく、Aさんの机のなかに保管されていたものであるということを理由に、更新契約書はAさんが作成したものとの認定がなされました。

 

しかし他方で、給与減額の説明がなされないまま、4年間支店長在職時の給与が支払われ続けていた事実から、Aさんには5年目も同様の賃金で雇ってもらえるという期待権が発生していたとの認定もなされました。それにより、裁判所から、6ヵ月分の給与(174万円)と、昨年夏と同額の賞与(6万円)の支払いによる和解が勧められました。

 

会社側は、そのような和解はAさんに5年目の雇用を認めるのと同じであるとして和解案に納得せず、減額を要求しました。

 

当方としても、裁判所の理屈に疑問(訴訟になった場合に覆る可能性)を感じたため、会社の減額要求に応じ、70万円で和解することとなりました。

 

グリーンリーフ法律事務所 弁護士

昭和55年 早稲田大学法学部卒
昭和59年 弁護士登録
著書に「決定版原状回復 その考え方とトラブル対処法」(にじゅういち出版)、「誰にもわかる借地借家の手引」(新日本法規出版、共著)など。論文に「相続税の負担減少を目的とした養子縁組の効力とその対応策」(月刊税理)、「相続が発生した場合の預貯金の取扱い」(月刊不動産フォーラム21)など。

著者紹介

連載トラブル事例から法律問題の最新事情まで!法律事務所こぼれ話&耳より情報

本連載は、「弁護士法人グリーンリーフ法律事務所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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