東横線で「家賃7万〜8.1万円」で住める街は4駅
11月1日、「渋谷スクランブルスクエア」(東棟)が開業した。2012年に「渋谷ヒカリエ」、2017年に「渋谷キャスト」、2018年に「渋谷ストリーム」、今年3月には「渋谷ソラスタ」と、渋谷では大規模な開発プロジェクトが進められてきた。この後も12月5日には2015年に閉館した東急プラザ渋谷の跡地に「渋谷フクラス」、2023年には桜丘地区、2024年には渋谷2丁目17地区、2027年には2020年をもって閉館となる東急百貨店東横店の跡地に「渋谷スクランブルスクエア」中央棟、西棟が完成を予定しており、渋谷は100年に一度の再開発が進行中である。
大規模な開発プロジェクトが完了するたびに、渋谷ではオフィスが増加している。前述の渋谷スクランブルスクエアのオフィスフロアは、73,000㎡のハイグレードオフィスだ。つまりいま、渋谷勤務の会社員が大幅に増加中であるといえる。
そんな渋谷勤務の会社員が、通勤にも住むにも便利な街はどこなのだろうか。渋谷であれば、いくつか候補の路線があるが、今回は東急東横線に絞り、20代後半の女性を想定して考察していく。
2018年「賃金構造基本統計調査」によると、東京都の企業に勤務する25〜29歳女性の平均給与は、10〜99名の会社規模で27.1万円、100〜999人規模で29.03万円、1000人以上の規模で32.09万円となっている(税引前、残業代等込)。住民税や所得税などを差し引いた手取り額は、額面27万円だと20.8万円、額面29万円だと22.2万円、額面32万円だと24.3万円となる。
家賃は手取り月収の1/3以内と推奨されることが多いので、1K、1DKで7万〜8.1万円。物件は最寄り駅から10分圏内、女性なので防犯的な観点で、二階以上でオートロックを条件に、各駅の平均家賃を見ていこう(図表1)。
平均家賃でクリアしたのは、「新丸子」7.88万円、「元住吉」7.81万円、「日吉」8.1万円、「大倉山」8.01万円の4駅。「菊名」「妙蓮寺」「白楽」も平均家賃は下回ったが、物件数が少なかったので、以降、検討からは外していく。
各駅の通勤時間を見ていこう。朝8時台の通勤時間帯の「渋谷」までの所要時間は、各駅停車しか止まらない「新丸子」で22分、「元住吉」で27分、「大倉山」で36分となる(途中、急行等へ乗り換えをしないこととする)。「新丸子」は「自由が丘」、「元住吉」は「武蔵小杉」、「大倉山」は「日吉」で、急行や通勤特急に乗り換え可能だ。また「日吉」では通勤特急利用で最短22分(急行利用で24分)となる。
それぞれの駅の平日8時台の電車本数を見ていくと、各駅停車しか止まらない「新丸子」「元住吉」「大倉山」で16本、急行や通勤特急も止まる「日吉」で23本と、3〜4分待てば電車に乗れる計算である。
交通の利便性を見ると「新丸子」と「日吉」が「渋谷」まで22分と同レベルだった。しかし「日吉」で平日8時台の急行、通勤特急は8本であり、それに対して「新丸子」は16本どの電車に乗っても22分で「渋谷」に行ける。このように考えると、交通の利便性では「新丸子」が頭一つ抜け出ている印象だ。
東急東横線各駅は商店街充実し、生活利便性が高い
次に生活利便性を見ていこう。駅から10分以内にある①コンビニエンスストア ②スーパー ③ドラッグストア の数をカウントした(図表2)。
「新丸子」駅の西口には「医大通り商栄会商店街」「ウィズモール商店会」、東口には「新丸子東栄会」と商店街が発展。一人暮らしに必須の店も点在し、生活利便性の高い駅である。また隣の「武蔵小杉」駅も徒歩6分と近く、「武蔵小杉東急スクエア」や「ららテラス 武蔵小杉」といった大型商業施設も生活圏内で、最寄り品はもちろん、買回り品も揃う。
西に「ブレーメン商店街」、東に「オズ通り商店街」と、2つの有名商店街が駅を挟んで結ばれている「元住吉」駅。どこか下町の雰囲気が漂う商店会は、夕方や休日は多くの買い物客で賑わっている。ここだけの有名店も多くあり、一人暮らしをより彩ってくれるだろう。
「日吉」駅といえば、東口に広がる慶應義塾大学日吉キャンパス。西口にある「日吉商店街」には、学生をターゲットにした飲食店も充実している。駅上にある専門店ビル「日吉東急avenue」1階の食品フロアでは多彩な惣菜やスイーツが揃い、一人暮らしをサポートしてくれるだろう。
「大倉山」駅周辺には「エルム通」、「レモンロード」、「オリーブ通」、「つつみ通」の4つの商店街で構成される「大倉山商店街」が広がる。特に目を惹くのが、ギリシャ アテネ市のエルム通りと姉妹関係を結んでいる「エルム通り」で、建物はギリシャ風の白い建築デザインで統一されている。前出の3駅に比べると、駅周辺の賑わいはコンパクトにまとまっている印象だ。
安全面を見ていく(図表3)。「新丸子」と「元住吉」は川崎市中原区、「日吉」と「大倉山」は横浜市港北に位置するが、この2つのエリアの犯罪認知件数を比較した。中原区は、「新丸子」や「元住吉」のほか、タワーマンションが林立する「武蔵小杉」や、JR南武線の「武蔵新城」〜「平間」あたりのエリアである。 一方、港北区は、「日吉」や「大倉山」のほか、東急東横線の「綱島」や「菊名」、JR横浜線の「新横浜」などを含むエリアだ。
殺人罪などを含む「凶悪犯」、傷害罪や暴行罪などを含む「粗暴犯」、詐欺罪などを含む「知能犯」のほか、「窃盗犯」「風俗犯」などの合計が、中原区は725件、港北区が1093件となっている。
人口1人当たりで換算すると、中原区は0.27件、港北区は0.31件となり、中原区のほうが若干、人口当たりの犯罪の遭遇率が低いといえる。しかし1K㎡当たりで換算すると、中原区は49.3件、港北区は34.8件となり、中原区のほうが面積当たりの犯罪遭遇率は高くなる。
今回、候補とした4駅は閑静な住宅地として知られているエリアであるので、繁華街で多く発生する「粗暴犯」との遭遇率は低いだろう。しかし「窃盗」は住宅地エリアで気をつけたい犯罪である。物件選びの際には、2階以上でオートロック付きの物件にしたり、狭い路地に入る物件は避けるなど、自衛を意識していただきたい。
交通と生活の利便性を中心に、東急東横線の4駅を見てきた。交通利便性で選ぶなら、通勤時間30分圏内(最寄り駅までの時間を含む)が実現し、電車本数も多い「新丸子」の存在が際立つ。また生活利便性では、商店街充実し駅周辺が賑わう「元住吉」が第一候補となるが、「武蔵小杉」も生活圏内となる「新丸子」も有力な候補となるだろう。
もちろん「中目黒」や「自由が丘」といった人気の街でも、丹念に探していけば想定内の家賃で済む掘り出し物件は見つかるもの。今回はあくまでも統計の平均値から「住みやすい街」を選定した。居住地選びにひとつの参考にしていただきたい。