4人家族「絵に描いたような幸せ」から一転…
会社経営に失敗し、多額の借金を抱えた夫。
親にまでお金を無心され、もう離婚したい……。
真由美さん(45)と夫との間には2人の娘が生まれ、絵に描いたような幸せな家庭生活を送っていました。しかし、夫が働いていた会社が倒産したことでその状況は一変します。夫は借金をして自分で事業を始めましたが、うまくいかずに倒産。多額の借金が残りました。夫は勤労意欲はあり、職を転々としながら働き続けましたが返済額にはほど遠いものでした。
金銭面に几帳面で、平凡ながらもきちんとした生活を送りたいという考え方の真由美さんはピアノ教室を開いて、生計を助けました。しかし、ストレスがたまり、メニエール病を発症してしまいます。
夫はしばらくしてまた新しい会社を立ち上げましたが、これも軌道に乗ることはありませんでした。娘2人が中学生になった頃には、夫の収入では生活費を賄(まかな)えないほど生活は困窮するようになり、夫は真由美さんの両親に借金返済の援助を求めるようになります。しかし、夫の会社はまたもや倒産。さらに多額の借金だけが残ってしまいました。
苦しい生活に耐え続けてきた真由美さんでしたが、これ以上夫とかかわると永遠に借金を返すだけの生活に追われることが想像され、娘たちの将来も不安で仕方ありません。この生活から抜け出したい、思い切って離婚をしたいと考えている真由美さんですが、借金と不安定な生活を理由に果たして離婚できるものなのか、不安に思っています。
◆「多額の借金・収入不安定」は離婚理由になるか
夫または妻の一方に借金がある、あるいは収入がないといったことだけでは、裁判上の離婚理由とはなりません。借金であれば、借入れの目的・使途(ギャンブルや遊興費の目的なのか、生活費不足を補うものなのか)、金額、夫婦の収入、財産の状態、家計の状態、配偶者の了承の有無等が考慮されます。
また、収入がないということであれば、収入のない期間、その原因・理由、勤労意欲、配偶者の収入状況等が考慮されます。
そのうえで、相手に対する信頼と愛情を失わせ、婚姻関係を深刻に破綻させて回復の見込みがない場合は、「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」にあたると考えられます。
「離婚請求」を決めるカギは借金と「合わせ技一本」
◆どのような証拠を収集すべきか
このような多額の借金・収入不安定事例では、借金や収入が不安定であることによってどのような不利益があったかがわかる資料が必要であると考えられます。
たとえば、請求書や支払明細書など、借入額や借入目的・使途がわかる資料、所得(課税)証明書や源泉徴収票など、その当時のお互いの収入状況がわかる資料、預貯金通帳など当時の財産状況がわかる資料、家計簿など当時の家計収支がわかる資料、借入れや収入が不安定であることについての互いのやり取りの内容(LINEやメール、録音など)の証拠が挙げられます。
◆事例に対するコメント
この事例と類似の裁判で、裁判所は、「妻と夫の婚姻関係はすでに破綻しており、その回復は到底期待しがたく、そのような破綻を招いた原因の多くは、確たる見通しもなく転々と職を変え、安易に借金に走り、そのあげく、妻の親族らに借金返済の援助を求めるなど、著しくけじめを欠く生活態度に終始し、妻の健康状態、特に、難病といわれる潰瘍性大腸炎のため心身にいたく打撃を受けていた妻に思いやりをまったく欠いた夫の責めに帰すべきものと言わざるを得ない」として、妻の離婚請求を認めました。そのため、真由美さんが裁判を起こした場合、その請求は認められるものと思われます。
このように、真由美さんの事例と類似の裁判で裁判所は妻の離婚請求を認めましたが、単に、職を転々としたり、借金をつくったことを理由に離婚請求を認めたわけではありません。
実際、ほかの判例では、多額の借金があったり、収入が不安定であることを理由とした離婚訴訟で請求が認められなかったケースも多く存在します。
類似の裁判では、妻の病気に対する配慮を欠いたこともひとつの要因と思われます。真由美さんの事例からわかることは、多額の借金や収入不安定のみを理由とした離婚請求が認められる可能性は必ずしも高くはないものの、ほかの事情と合わせて、いわば、「合わせ技一本」のようなかたちで離婚請求が認められることを示唆しているということです。
西村 隆志
西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士