将来の相続税を考慮し、節税に繋がる「生前贈与」の活用が広く知られるようになりました。しかし、やり方を間違えれば、贈与が認められず結果的に多く税金を払うというケースにもなりかねません。本記事では、相続・事業承継を専門とする税理士法人ブライト相続の天満亮税理士、竹下祐史税理士が、相続税と贈与税について説明します。

贈与税を気にすることのない「贈与」とは?

親や祖父母が、子や孫にお金その他の物をあげると、確かにそれは広い意味では「贈与」でしょうが、何でもかんでも贈与税がかかる、というわけではありません。

 

大きく分けて、「贈与税がかかる贈与」と「贈与税がかからない贈与」の2種類があります。贈与税がかからない贈与としては、以下のようなものがあります。

 

【生活費や教育費】

「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」(国税庁HPタックスアンサーより)

 

家族間で扶養する義務があり、その義務を果たすためにかかった費用にまで贈与税を課すのはおかしい、ということですね。気になるのは、「通常必要と認められるもの」という文言です。

 

何をもって通常必要、というのでしょうか。

 

○○円以下なら良い、○○円以上なら悪い、という明確な判断基準はありません。

 

「贈与を受けた者(被扶養者)の需要と贈与をした者(扶養者)の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産」(相基通21の3-6)

 

社会通念上で適当かどうかという、曖昧な基準が適用されることになります。この辺りは、最終的には税務当局が具体的な事案ごとに個別に判断するのでしょう。

 

例えば、親が一人暮らしの子(学生)に対して、月に数万円程度の生活費を与えるというのであれば、社会通念上適当であると思われます。しかし、月に何百万円も与えていたり、子の方が親よりも収入が多いような場合であれば、贈与税がかかる贈与、と判断されてしまう可能性があると思われます。

 

「なお、贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります」(国税庁HPタックスアンサーより)

 

たとえ生活費という名目でもらったとしても、そのお金を使わずに貯金していた場合、実質的にそれは扶養義務者から生活費としてもらったお金とは言えませんので、贈与税がかかる贈与、ということになります。

 

[図表1]
[図表1]

 

教育費は、被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育に限ったものではないようです。

 

入学祝等でもらう金品も、贈与税がかかる贈与ではありません。

 

もちろん、「社交上の必要によるもので贈与をした者と贈与を受けた者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものについては」という条件付きにはなりますが。

 

教育費については、別途、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税(措法第70条の2の2)」が設けられていますので、そちらについては本連載で追って触れたいと思います。

大きな金額の結婚式・披露宴でも贈与税は課せられない

【結婚費用や出産費用】

結婚費用や出産費用も、先ほどご紹介した生活費や教育費と同様の考え方となります。

 

通常必要と認められるものであり、必要な都度、直接その目的のために使ったのであれば、贈与税がかかる贈与ではありません。結婚祝等の金品も、贈与税がかかる贈与ではありません。

 

「社交上の必要によるもので贈与をした者と贈与を受けた者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものについては」という条件付きなのも同様です。

 

子の結婚式・披露宴の費用を親が負担しても、贈与税の対象になりません。地域の慣習などによってはかなり大きな金額を援助する場合もあると思いますが、基本的には贈与税の心配はいらない、ということになります。

 

[図表2]
[図表2]

 

結婚・子育て費用については、別途、「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税(措法第70条の2の3)」が設けられていますので、そちらについても追って触れます。

 

【住宅の使用貸借】

親が所有している賃貸マンションの一室に、子が賃料を負担せずに居住する、というような場合はどうでしょうか。

 

本来であれば支払うべき賃貸料を、支払わずに済んでいるので、賃貸料相当額を毎月贈与してもらっているのと同じ効果があります。

 

ということは、贈与税の原則通りに考えると、賃貸料が年間で110万円を超えるような場合には贈与税が課されそうなものですが、こちらも社会通年上適切であるような場合には、贈与税は課されないものと考えられます。

親子間でも金銭貸付の契約書などを作成すべき理由

広い意味では贈与なのに、何でもかんでも贈与税が課されるわけでもない、というのは紹介してきたとおりです。それとは反対に、もらっている実感がないのに、贈与税が課されるものもあります。

 

【ローンを肩代わりしてもらった】

代表的なものとしては、住宅ローンの肩代わりがあります。

 

例えば、子の住宅ローンを親が肩代わりする、ということです。住宅ローンの返済が滞ってしまうと、その住宅から立ち退かなくてはならなくなるため、資金に余裕のある親が援助をする、ということは珍しくないかもしれません。この場合、親が肩代わりした金額に対して、贈与税が課されてしまうということが想定されます。

 

贈与税を避けるためには、親が子に対して新たにお金を貸した、という扱いにすることが考えられます。親が子の代わりに払いっぱなし、ということであれば子への贈与ですが、あくまでも貸している、とするのです。この場合、親子間であっても金銭貸付の契約書などをきちんと作成しておくべきでしょう。

 

そうしますと贈与ではなく貸付になりますので、確かに贈与税はかからなくなりますが、親にとっては「貸付金」という財産が形成されることになり、親に相続が発生した場合には相続税の対象となりますので、注意が必要です。

 

【債務を免除してもらった】

貸していたお金を無かったものとする、もう返さなくて良い、とすることを、債務免除と言います。

 

債務免除は、その免除したお金相当額を贈与した、ということと同じ扱いになります。贈与税が課される場合があります。

 

50万円を貸していた相手に借金の免除をしてあげることと、新たに50万円をただであげることは、お金を借りる側としては全く同じことだからです。

 

【通常の時価よりも低額で買った】

市場価格よりも著しく低い金額で買い取った場合には、その低くした金額の分だけ贈与があった、と判断される可能性があります。

 

例えば、親が法人を経営している場合で考えてみましょう。

 

その法人の株価が本来は時価500万円であるにもかかわらず、子が親から30万円で買い取ったような場合には、500万円-30万円=470万円分だけ贈与を受けた、となり贈与税が課されることが考えられます。

 

[図表3]
[図表3]

 

【自分が保険料を負担してないのに保険金をもらった】

生命保険金や損害保険金を受け取った場合にも、贈与税が課されることがあります。

 

保険金を自分が受け取る場合、そもそもその保険料は誰が払っていたのか、というのがポイントとなります。

 

自分で保険料を払っていて、結果的に自分で保険金を受け取った、ということであれば、誰からも利益を受けていませんので、贈与税という発想にはなりません。所得税、という別の税金が課されます。受け取った翌年3月15日までに確定申告が必要にはなりますが、一時所得ですので、50万円までは非課税です。

 

それに対して、自分で保険料を払っていないのに保険金を受け取った場合はどうでしょうか。

 

自分で何ら負担していないのにお金だけもらっていますので、保険料を負担してくれた人から贈与を受けた、とうことで、贈与税の対象となります。

 

ただし、保険料を負担してくれた人が亡くなった方であれば、贈与税ではなく、その亡くなった方の相続時に相続税の対象となります。

 

 

天満亮

税理士法人ブライト相続/税理士

 

竹下祐史

税理士法人ブライト相続/税理士

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