若者が集う中央線文化の中心地「高円寺」
「中央線カルチャー」という言葉が生まれるほど、中央線沿線は個性的な街が並ぶ。その代表格が「高円寺」だ。
高円寺は、東京23区西部杉並区の東部に位置し、東は中野区に、西は杉並区阿佐ヶ谷に接する。「高円寺」駅は、中央線快速電車と中央・総武各駅停車の2系統の利用が可能。「新宿」駅へは、快速電車で6分、各駅停車で10分、さらに「秋葉原」や「東京」など都心へダイレクトにリーチできる。
また中野駅から乗り入れる東京メトロ東西線も停車し、「大手町」「日本橋」方面にも乗り換えなしでアクセルできるほか、東京メトロ丸ノ内線「新高円寺」駅には徒歩10分強でアプローチ。都内の多方面にアクセスできる、交通至便な街としても高円寺は人気が高い。
高円寺という名前は、1555年、中野成願寺三世建室宗正によって開山された、曹洞宗の「宿鳳山(しゅくほうざん)高円寺」が由来。江戸時代初期まではこの一帯は小沢村と呼ばれ、鷹狩の地であった。徳川三代目将軍、徳川家光が遊猟の際に当寺を訪れ際にひどく気に入り、小沢村から高円寺村と改称させたと言われている。
高円寺を全国的に有名にしたのは、ディープな若者文化。「高円寺」駅南側を中心に、東京でも指折りの古着街を形成し、休日には古着屋巡りのために遠方からも若者が訪れる。またライブハウスが多く、昔からミュージシャンを志す若者が集う街として有名だ。
「高円寺」駅周辺は大型の商業施設はなく、代わって、商店街が充実。はねじめ正一の小説作品にもなった「高円寺純情商店街」、アーケードに100近くの店が並ぶ「高円寺パル商店街」、パル商店街の先には「新高円寺」駅まで続くルック商店街と、駅周辺にある10の商店街はどれも個性豊かで、どこも活気にあふれている。
また地方出身の単身者が多く住んでいることから、飲食店が充実。1人でもグループでも、どのようなシチュエーションでも店選びに困らないほど、多彩な店が揃っている。
このような若者を中心とした文化でにぎやかな高円寺は、大小さまざまなイベントが行われている。特に有名なのが、今や東京の夏の風物詩にも数えられる「東京高円寺阿波おどり」。踊り手や鳴り物を奏でるお囃子奏者が街を巡り、来場者は100万人と言われている。
若年単身者が多い「高円寺」…人口減少が見込まれるが
では「高円寺」を不動産投資の観点から見ていこう。まず直近の国勢調査(図表1)によると、杉並区の人口は約58万人。人口増加率は2.6%と23区平均を下回るものの、安定的な人口増加を示している。年齢構成(図表2)を見てみると、15歳未満の人口が23区平均を下回っているものの、ほぼ23区平均に近しい人口構造だといっていいだろう。
一方世帯数(図表3)を見てみると、杉並区の単身者世帯率は56.3%、高齢者を除くと43.2%と、いずれも23区平均を上回る。都内でも現役世代の単身者に支持されているエリアだということが明らかだ。
次に住宅事情を見てみよう。杉並区の賃貸住宅における空室率(図表4)は7.8%と、23区平均8.1%と同程度。賃貸住宅の建設年の分布(図表5)も、築70年代の物件が少なく、築80年代の物件が多いという差はあるものの、ほぼ23区平均と同じような分布を示している。
駅周辺に絞って見ていこう。杉並区では1世帯あたりの人数が1.8人に対して、「高円寺」駅周辺では1.5人(図表6)と、区内でも単身者に選ばれるエリアである。交通と生活の利便性はもちろん、ポップカルチャーが根付く街という特徴から、若者世代に支持されていると推測される。
「高円寺」駅周辺のワンルームの平均家賃は、5.96万円。新宿よりの「中野」は7.01万円、「阿佐ヶ谷」は6.09万円となっており、周辺駅と比べて、単身者には住みやすい家賃設定になっている(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ11月6日時点)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。平均取引価格は2,122万円。平均平米数は26.4㎡ということから、現在、高円寺地区では単身者向け物件の取引が盛んのようだ。
杉並区の将来人口の推計を見ていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測では、杉並区では2035年593,666人をピークに人口減少のトレンドに入るとされている(図表8)。2015年を100とすると、2035年で105.3、2040年で104.6となっており、今後20年ほどを見越すのであれば、安定した賃貸経営が実現できる地域だといえそうだ。
一方「高円寺」駅周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていくと不安要素が顔をのぞかせる(図表9)。黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表すが、「高円寺」駅周辺は人口減少が見込まれているのだ。
高円寺は前出の通り、若年の単身者層に支持されている地域だが、今後、日本では少子化が加速度的に進行、つまり若年の単身者世帯も減っていく。それは「高円寺」駅周辺の将来人口にも影響を与えると考えられるのだ。
しかし、ポップカルチャーが深く浸透している高円寺で、今後、街の魅力までもが色あせていくとは考えにくく、今後も安定した単身者ニーズは継続していくだろう。しかし若年人口の減少は避けられない事実である。高円寺での不動産投資では、より確かな物件の選択眼が必要とされるだろう。