好アクセスで住みやすい街「葛西」
大きな傷跡を残した台風19号。鉄道各社で計画運休が決定するなど、上陸前から大々的に報じられてきたが、そのような中、浸水が予想されながらも被害の出なかった地域がある。東京都江戸川区だ。
東に江戸川、西に荒川が流れる江戸川区は海抜が低いことで知られ、区の西部はいわゆる海抜ゼロメートル地帯。区の南部は大半の地域を埋立地が占め、南端で東京湾に面している。このような条件下にあるため、河川が氾濫した際には区のほぼ全域が浸水するとされていた。ハザードマップに記された「ここにいてはダメです」という直球すぎるメッセージも話題になっていた。
しかし台風19号では、これまで進めてきた河川整備が機能したことで被害を免れた。そのことで、少々風向きが変わったことが1点。不動産投資である。これまで「災害リスクの大きいこのエリアでの不動産投資は避けるべき」という声が聞かれたが、目立った被害がなかったことで、「実はありなのでは」という声が聞かれるようになったのだ。
本当に問題はないのか? 今回は不動産投資の観点で、江戸川区のなかの「葛西」に焦点を絞り、地域情報を見ていこう。
江戸川区葛西は、同区の南部地域に広がり、住所としては、東葛西、西葛西、南葛西、北葛西、中葛西の5つに分かれる。広くはかつての下総国葛飾郡の西半分、武蔵国葛飾郡を指す地域(現在の行政区分では、東京都葛飾区、江戸川区、及び、墨田区と江東区の一部)で、葛飾の西にあるから葛西と名がついたといわれている。
ちなみに正倉院に残されている721年の戸籍には、「下総國葛飾郡大嶋」と葛飾の名が登場している。11世紀ごろには、葛飾の西側は葛西、東側は葛東と呼ばれていたという。
明治22年の町村制施行により、江戸川区内は10ヵ村に統合され、新川の南側は葛西村となり、葛西は江戸川区南部を指すようになった。古くは半農半漁の街として栄え、蓮田が並び、のり漁場が多く存在した。
そんな葛西に大きな変化をもたらしたのが、東京メトロ東西線(当時は営団地下鉄東西線)の開通である。JR総武線のバイパス路線として建設され、1964年に「高田馬場」~「九段下」開業。その後、東西に延伸し、1969年には「東陽町」~「西船橋」開通。その際、「葛西」駅も開業した。
2018年度の乗降客数は、約10万8000人/日。開業当初は1万5000人弱/日だったが、1974年には約3万人/日、1978年には約6万人/日と倍増。急激に住宅地化が進み、ベッドタウンとして発展してきた。
住宅地として人気になった大きな理由は、交通の至便性にある。「葛西」駅~「大手町」駅は、18分程度。「大手町」駅では、東京メトロ半蔵門線、千代田線、丸ノ内線、都営地下鉄三田線と接続し、JR「東京」駅と地下通路でつながる。「葛西」は都心のみならず、「池袋」「新宿」「渋谷」など都内の様々な人気エリアに、1回の乗換えでアクセスが可能だ。
道路網も充実している。駅の真下を環状七号線が通り、南北方向の移動をフォロー。湾岸道路を利用すれば、一気に行動範囲は広がる。基本的に平坦な地形が広がるので、自転車も有効な移動手段だ。
「葛西」駅周辺は、スーパーや飲食店が点在する住宅街で、中高層のアパートやマンションが立ち並ぶ。駅から南東方向に徒歩20分ほどのところには、70の専門店が入居する大型商業施設「アリオ葛西」、隣接して、飲食店やスーパーなども入居する「ホームズ葛西店」があり、家族連れを中心に賑わっている。
「葛西臨海公園」や東京ディズニーランド(R)など、人気スポットも車や自転車を利用すれば目と鼻の先。生活の利便性が高く、レジャーにも事欠かさない「葛西」は、「住みたい街ランキング」ではなかなか登場しないが、実は「住みやすい街」として、人気の高いエリアなのだ。
やはり心配なのは「水害」や「地震」の災害リスク
では「葛西」を不動産投資の観点から見ていこう。まず直近の国勢調査(図表1)によると、江戸川区の人口は約68万人と東京23区中第4位の規模。一方で人口増加率は0.3%と23区平均を大きく下回っている。年齢構成(図表2)を見てみると、15歳~64歳は23区平均を下回ってはいるものの、15歳未満が平均より多いことから、ファミリー層から支持されているエリアだということが推測される。
このことは世帯数(図表3)を見ても明らかで、単身者世帯率は23区平均を10%下回る40.6%。高齢者を除くと30.5%と、江戸川区は都内でも単身者が少なく、ファミリー層に支持されていることが明らかである。
次に住宅事情を見てみよう。江戸川区の賃貸住宅における空室率(図表4)は8.4%と、23区平均8.1%と同程度。賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみてみると、宅地化が急激に始まった1970年以降の物件が多く、2000年以降も多数の賃貸物件が供給されたエリアだということがわかる。
駅周辺に絞って見ていこう。江戸川区では1世帯あたりの人数が2.2人に対して、「葛西」駅周辺では1.9人(図表6)と、単身者の割合が増える。交通と生活の利便性から、単身者でも住みやすいと支持されていると推測される。
「葛西」駅周辺のワンルームの平均家賃は、5.25万円。同じ東西線の都内駅周辺と比べると、一番安い。ちなみに他の駅で安い順にピックアップしていくと、「南砂町」が5.72万円、「早稲田」が6.22万円、「東陽町」が6.32万円、「高田馬場」が6.42万円、「門前仲町」が6.5万円と続く。「葛西」はコスト面でも住みやすいといえるだろう(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ10月30日時点)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。平均取引価格は2946万円で、平均平米数は59㎡。現状「葛西」周辺ではファミリー向け物件の取引が盛んなようだ。
江戸川区の将来人口の推計を見ていこう。国立社会保障・人口問題研究所の推測では、江戸川区はすでに人口減少のトレンドに突入しているとされている(図表8)。一方、江戸川区の最新の発表では、2019年10月1日現在、700,296人とされており、人口増加は続いているようだ。しかし今後5年ほどで人口減少は始まるというのが、大方の予想。国立社会保障・人口問題研究所の推計に戻ると、今後20年の人口減少率は7%程度としている。
「葛西」駅周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていく(図表9)。黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表すが、駅の南東エリア、住所でいうと東葛西6~9丁目、中葛西7~8丁目あたりは人口増加が見込まれる。江戸川区全体では人口減少を示す青系色が広がっているが、このエリアは今後も安定的な人口増加が見込めるエリアと推測される。
このように、人口や現在の不動産取引の現状などから見ていくと、「葛西」駅周辺、特に駅南東エリアでは、ニーズを注意深く分析しながらも、ファミリー層をターゲットとした不動産投資を検討できるエリアだといえそうだ。
しかし、やはり心配なのは自然災害である。水害のハザードマップを見ると、大規模な水害が発生した際、江戸川区全体で1階以上の浸水、「葛西」駅周辺は2階以上の浸水、さらに浸水期間は多くが1~2週間程度とされている。
また東京都は町丁目ごとに地震の地域危険度を発表しているが、軟弱な地盤である沖積低地が広がる江戸川区は、一部のエリアで危険度は低いとされているものの、多くの町丁で5段階評価の最低となる1、または2と評価されている。
不動産投資で「葛西」を選ぶのであれば、災害リスクを織り込んだカタチでも収益が図れるのか。より慎重な物件選びが求められるだろう。