人生を再スタートするために離婚したいが……
「あんなダメ亭主とは別れて、人生をやり直しなさいよ」
一昔前のテレビドラマや映画、ことに、どこか泥臭さを残した昭和の時代のドラマには、「全く仕事をせず、昼間から酒を飲んで酔いつぶれている」「もらった給料は全て馬券に変えてしまう」などといった、絵に描いたようなろくでなしの夫に悩まされている、いかにも薄幸そうな若妻がしばしば出てきました。
そんな不幸なヒロインに同情と愛情を寄せた主人公が……というのがよくあるストーリーなのですが、それはさておき、冒頭にあげたのは、近所の世話好きな中年女性などがドラマの中で若妻にかけるお決まりのセリフです。
この言葉にも示されているように、離婚は結婚の終わりですが、同時に人生の新たなスタートでもあります。
しかし、その人生の新たな始まりが「妻が離婚に同意してくれない」「離婚する代わりに全ての財産をよこせと言われた」などといった問題やトラブルのために、スムーズにいかないことがあります。
そのような離婚トラブルを適切に解決して、理想的な形で人生の再スタートを切るためには、どのようなことに気をつけなければならないのでしょうか。またどのような対策手段を知っておくべきなのでしょうか。
今回は、離婚トラブルを賢く乗り切るためのノウハウや注意点などについてみていきましょう。
◆性格の不一致を理由に離婚する場合(Dさんのケース)
Dさんは大学時代から交際していたSさんと20代半ばに結婚し、一男一女をもうけました。結婚してから10数年が過ぎてわかったのは、悲しむべきことに、お互いの相性が最悪であるということでした。
Dさんは細かいことにとらわれない大らかな性格でしたが、Sさんは神経質でささいなことでも気になるタイプでした。そのため、ゴミの捨て方からペットに与えるエサの中身までことごとく意見があわず、日々の生活のなかで衝突しあう場面が少なくありませんでした。
現在、小学6年生の長女の教育方針をめぐっても二人は真っ向から対立。中学は公立で構わないというDさんに対して、Sさんはお嬢さん学校で知られる有名私立に入れたいと言い張り、激しい口論になることもしばしばでした。
「顔が好みだったから結婚したが、やはり大事なのは中身だったか。しかし、この先もこうやって言い争う人生が続くのだろうか。もううんざりだ……」
Dさんは、Sさんとの離婚を真剣に考え始めています。
「あばたもえくぼ」ではありませんが、寝ても覚めても相手のことばかりを考えているような、互いの思いが最高潮になっているときには相手の欠点や難点は目に入りませんし、また入ったとしてもさして問題視しないものです。
そのような盲目的な幸せが、男女が結婚し生活をともにするようになった後も続いてくれれば何も問題はないのでしょうが、愛の女神は気まぐれです。歳月の流れのなかで、純然たる恋人時代のときのような熱烈な恋愛感情がなくなっていくにつれ、夫は妻の、妻は夫の短所が気になり出し、さらには自分と相手の性格的な違いにも受け入れられないものを感じ始めるようになります。
それが我慢のならないレベルに達したときに、このDさんのように「俺たち夫婦は性格が違いすぎる。このまま一緒に一生暮らしていくのは無理だ」と、離婚を検討するようになるのかもしれません。
裁判で離婚が認められる理由は5つのみ
離婚を考えたときに直面する何よりも大きな問題は、どんなに別れたいと思っても、配偶者の側がそれを望まない場合には、離婚を実現することが難しい場合があるということです。特に、「性格の不一致」を理由とする場合には、離婚のハードルが大変高くなります。
まずは、離婚の方法や手続きについて基本的なことを確認しておきましょう。離婚は当事者の合意によって行えますが、夫婦の一方が拒んでいる場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。そして、調停でも離婚の話し合いがまとまらない場合には、裁判で離婚を求めることになります(図表参照)。
この裁判で離婚が認められる判決(離婚判決)を得ることが、実際のところ容易ではないのです。
そもそも裁判所が離婚判決を出せるのは、以下の5つの離婚原因のいずれかが存在する場合だけです。
①配偶者に不貞な行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
逆に言えば、これらの離婚原因のいずれかに該当しない限りは、裁判の形で離婚をすることはできないのです。そして、「性格の不一致」を理由として離婚したい場合には、「⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当することが必要になります。
この「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否については、通常、さまざまな要素をもとに総合的に判断されることになります。
たとえば、「妻が仕事をしておらず、専業主婦なのに全く家事をしない」だけでは⑤の要件は満たされません。それに加えて「浪費癖がある」「子どもの養育に無関心で放置している」などといったマイナスの要素がほかにもあるような場合に、それらを全体的にみて「結婚を続けることが難しいか否か」が評価されることになります。
しかも、「婚姻関係は最大限に保護されなければならず、安易に離婚を認めるべきではない」というのが裁判所の基本的スタンスであるため、そう簡単には「婚姻を継続し難い」とは認めてくれません。
率直なところ、単に「性格が合わない」というだけでは、離婚判決が得られる公算は低いでしょう。