インターネットの普及で、ネット上の男女トラブルが増えています。特にSNSでのやりとりのなかで、問題が発生する場合が多いようです。今回は、SNSのやりとりのなかで「セクハラ」と訴えられた事案について考えていきます。※本連載は、弁護士の稲葉治久氏の著書『男はこうしてバカを見る 男女トラブルの法律学』(幻冬舎MC)の内容を一部抜粋・改編し、よくある男女トラブルと、それに適切に対応するための法的知識をわかりやすく解説していきます。

冗談交じりのメッセージが「セクハラ」の発端に

2019年4月30日に終わりを迎えた平成時代は「インターネットの時代」とも呼ばれています。日本で初めてのインターネットサービスプロバイダがサービスを開始したのは、1992年(平成4年)のことです。1996年には「Yahoo! JAPAN」が日本で初めてのポータルサイトとしてサービスをスタートしています。

 

90年代から2010年代の間にインターネットは急速な勢いで発展・普及し、日本の社会と日本人のライフスタイルを劇的に変化させてきました。

 

インターネットによってもたらされたそうした変化の流れは、男女関係にも大きな影響を及ぼしてきました。電子メール、掲示板等々の気軽に利用できるコミュニケーションツールを利用することで、男女の出会いと交流の機会は大きく広がり、ネットで知りあった相手と恋愛関係を築くことや、あるいは結婚相手を見つける〝ネット婚活カ”も今では当たり前となっています。

 

そのような状況のなかで、ネット上での男女トラブルも加速度的に増えています。特に最近目立つのは、ラインやフェイスブック、ツィッターなどのSNSでのやりとりを巡るトラブルです。

 

SNSに関するトラブルとして、まず、「セクハラトラブル」の具体的な中身と解決策についてみていきます。

 

《Mさんのケース》

 

その日、Mさんは、最近、ネット上で知りあったばかりの女性とSNSでの会話を楽しんでいました。

 

好きな芸能人の話題で盛り上がるなかで、「そういえば、この前、紅白に出ていた中年男性ばかりのグループ、私、あのリーダーの○○なら抱かれてもいいなあ。あの人、歌っているときの声がとてもセクシーなの」と女性が述べたのに対して、Mさんは「えっ、本当! 実は自分の声も、○○に似ているらしいんだ。特にベッドの上ではそうみたいで、一緒に寝た女性からよくそう言われるよ。よかったら、本当かどうか確かめてみる?」と冗談まじりに応じました。

 

すると、それまでは瞬時に返ってきた相手からの返事がしばしなくなりました。「あれ、一体どうしたんだろう? 宅配便でも来たのかな」と思った矢先、目の前に相手のメッセージが現れました。

 

「ひどい! セクハラよ! 裁判を起こして慰謝料を請求してやる!」

 

Mさんは、あわてて、「ごめん、不愉快な思いをさせたのなら謝るよ。そんなつもりはなかったんだ」と返しましたが、相手からはそれ以上、メッセージがありませんでした。Mさんは、どうしたんだろうと不安に思っているところです。

 

Mさんは、SNS上で発した言葉を、相手の女性からセクハラと非難されてしまいました。

 

確かに、問題視された言葉は、相手を性的行為に誘うニュアンスを含んでおり、セクハラとみなすことも可能であるように思えます。

 

では、このケースで訴訟を起こされた場合、Mさんは女性に対して慰謝料を支払わなければならなくなるのでしょうか。

 

まず、一般論として、問題となっている言動がセクハラなのかどうかは、相手の主観によって決まります。つまり、相手がセクハラと感じれば、基本的にセクハラとなります。

 

しかし、だからといって「セクハラ=慰謝料を払わなければならない」となるわけではありません。そもそもセクハラに限った話ではありませんが、ある言動に関して慰謝料が認められるのは、その言動が違法と評価できる場合なのです。

 

たとえば、わいせつな画像やわいせつな文言を、「いやです」「やめてください」などと相手に拒否されているにもかかわらず、やめずに一方的に送り続ければ悪質性の程度が高いため、違法と評価されることになります。

 

裁判で違法なセクハラと認定され、慰謝料を請求されることになった場合、その金額は違法性の程度や相手の受けた精神的損害の度合い等によって変わってきます。通常は数万円、多くても数十万円でしょうが、悪質性が極めて高いとみなされれば、100万円単位になる可能性もあります。

 

楽しいSNSのやりとりが、セクハラに変わる
楽しいSNSのやりとりが、セクハラに変わる

「メール」や「SNS」のやりとりはすべて保存しておく

一方、違法性が否定されるとすれば、それはどのような場合なのでしょうか。一見、わいせつと思えるような言葉だったとしても、性的な内容の会話が相互の間で行われているなかで現れたものだったり、あるいは「きゃー、エッチ!」などと相手がいやがっておらずむしろ楽しんでいるのであれば、お互い暗黙の了解のもとにいわば“大人の言葉遊び”をしているだけなので違法とは言えません。

 

セクハラと問題視されたMさんの言葉も、やはり性的な意味合いを含んだ「抱かれてもいいなあ」という相手女性の言葉に応じて発されたものなのですから、たとえ相手の感情を害する部分はあったとしても、やりとり全体の流れからみれば違法とまでは評価できないでしょう。

 

したがって、仮に相手の女性が裁判で訴えたとしても、Mさんに慰謝料の支払いを命じる判決が出る可能性は低いでしょう。

 

このように、SNS上のセクハラトラブルが裁判で争われた場合には、両者のやりとりの全体的な中身・流れから判断してセクハラと言えるか否かが判断されることになります。そのため、いざというときのために、SNSやメール等のやりとりは全てしっかりと保存しておくことが大切です。

 

日ごろからそうした注意を払っていれば、わいせつな文言が記された部分だけを切り取って「セクハラであることは明らかです」などと相手が主張してきた場合でも、「いや違います、全体の流れをみてください」と反論することが可能になります。

 

男はこうしてバカを見る 男女トラブルの法律学

男はこうしてバカを見る 男女トラブルの法律学

稲葉 治久

幻冬舎

不倫、離婚、セクハラ、痴漢冤罪…… 男女の間には何かとトラブルがつきものです。 昨今マスコミをにぎわせている芸能人、著名人の不倫トラブルに典型的に示されているように、 男女トラブルは訴えられた側に甚大なダメージ…

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