若者のクルマ離れやカーシェアの普及で国内の新車販売数が伸び悩んでいる。そんな中、2015年からの4年間で売上1.6倍を達成、2018年には日本カー・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞するなど、絶好調といえる自動車ブランドが「ボルボ」である。どのようにして無骨なイメージからプレミアムカーブランドへと進化を成し遂げ、大躍進を果たすことに成功したのか。本記事では、ボルボ・カー・ジャパン株式会社代表取締役社長・木村隆之氏が、ブランド再構築のために取り入れた手法を解説する。今回は、自動車メーカーにとって欠かせない「ディーラー」との関係性について見ていく。

うまくいかない店は何か問題があるはず

米国にはメルセデス・ベンツの店舗が370ほどあると思いますが、レクサスは2000年代中盤までに250店舗程度に抑えました。それはレクサス同士が競合することがないようにするためです。州が違えば、互いに競合しないのでディーラーの経営者同士がBS(貸借対照表)やPL(損益計算書)を持ち寄って比較するようになります。

 

広告費がなぜこんなに低いのか、サービス収益がなぜこんなに上がっているのか、単価がなぜこんなに高いのかなど、互いにうまくいっているところを見つけます。構造はほぼ一緒ですからとても参考になるのです。

 

これはボルボでも実施しています。上手くいかない店は何か問題があるはずです。販売規模が同じなのにサービス収益が半分しかないなどは露骨に分かります。

 

何社かに集まってもらい、他のディーラーのBSやPLと見比べてそれを見つけるのです。自分の店の悪い所が浮き彫りになるので非常に効果的です。

 

ディーラーは「値引きして売る嫌な奴ら」⁉

ディーラーとの関係でもう一つ紹介すると、トヨタとトヨタ以外での決定的な違いは何かといえば、ディーラーとの向き合い方です。トヨタの至上命題はディーラーに利益を確保してもらうことです。

 

トヨタ以外は、自分たちが一生懸命作っているクルマを安売りしているのがディーラーだと考えている節があるように見えます。「値引きして売る嫌な奴ら」だと思っているかのようです。この意識の違いが最終的に大きな差になります。

 

それはドイツブランドも同じです。ポルシェやメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンでは、クルマを購入したお客様に工場へ直接取りに来てもらう仕組みがあります。ラインオフしたばかりのクルマを受け取れるので、喜ぶお客様がいるのも事実です。しかし、これもディーラーを経由せずに直接取引したいということの表れかもしれません。

 

しかしトヨタは違います。

 

お客様が最も大事です。お客様の満足度を高めようと思えば、ディーラーにも満足してもらわなければなりません。そのためには、ディーラーが利益を得られなければならないと考えているのです。

 

ディーラーが売ってくれなければ商売になりませんし、リコールがあったときに頭を下げてくれるのもディーラーです。だから、ディーラーの利益を確保しなければなりません。それが中長期的には、メーカーにとっても大きな差となって出てくるのです。

 

ディーラーはたいへんなビジネスです。輸入車ディーラーは、新車が投入されて調子の良いときには利益が出ますが、振るわないときはまったくダメです。しかし、それではディーラーの経営が安定しません。今後は安定的な経営をしてもらい、店舗に投資してもらわなければなりません。あるいは人手不足のなかでいい人材を確保してもらう必要もあります。

 

人と店舗に投資してもらうという、いい循環を作るには、ディーラーに安定的な収益が必要です。そのためにもブランド力やCSが大事なのです。

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    木村 隆之

    幻冬舎

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