若者のクルマ離れやカーシェアの普及で国内の新車販売数が伸び悩んでいる。そんな中、2015年からの4年間で売上1.6倍を達成、2018年には日本カー・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞するなど、絶好調といえる自動車ブランドが「ボルボ」である。どのようにして無骨なイメージからプレミアムカーブランドへと進化を成し遂げ、大躍進を果たすことに成功したのか。本記事では、ボルボ・カー・ジャパン株式会社代表取締役社長・木村隆之氏が、ブランド再構築のために取り入れた手法を解説する。今回は、ボルボが「中古車ビジネス」にも真剣に取り組む理由について見ていく。

多くのディーラーは中古車ビジネスに力を注がない⁉

自動車市場にとって中古車ビジネスは今後ますます重要になっていきます。輸入車では一般的になった認定中古車は、そもそもBMWが始めたすばらしい制度です。レクサスも導入しましたし、ボルボではSELEKTという名称で取り入れています。

 

しかし、多くのディーラーは中古車ビジネスに力を注ぎきれていません。その理由は、ディーラーにとって花形は新車の営業部門だからです。サービスや中古車の部門は日陰のイメージがありました。まずそれを払拭しなければ中古車ビジネスを拡大することはできません。

 

そこでボルボでは、中古車のお客様を新車のお客様と区別しないことを徹底しています。営業スタッフも同様です。新車のお客様と同じように接しなければなりません。ファイナンスやリースの商品も同じにしました。例えば、新車のファイナンスで一番多い構成を占めるのは残価設定型ローンです。ボルボの中古車では残価設定型ローンが選べるだけでなく、その支払い時期を次の車検時まで、というようにフレキシブルに設定できます。

 

これができるのは、ボルボのユニークな部分でもあります。ボルボでは新車のお客様と中古車のお客様にほとんど違いがないのです。例えば、100人のお客様がローンの審査を受けた場合、あるディーラーネットワークでは6割しか通過しません。4割のお客様はローンが利用できないのです。

 

しかしボルボのお客様の場合、新車では95%のお客様が審査を通過しますし、中古車でもほぼ変わりません。また、ローンの返済が滞る焦げ付きもほとんどないのです。

 

●マーケット支配率=ボルボディーラーが販売した中古車台数÷全国で販売されたボルボ中古車総台数※2019年は3月末累計値 ※自社調べ
[図表1]ボルボ中古車 マーケット支配率の推移 ●マーケット支配率=ボルボディーラーが販売した中古車台数÷全国で販売されたボルボ中古車総台数※2019年は3月末累計値
※自社調べ

中古車ビジネスで大規模な展示場が不要

中古車ビジネスでは今、大規模な展示場は時代遅れです。軽自動車からミニバンまで扱っているスタイルの中古車店は、ほぼ撤退を余儀なくされています。なぜなら、一人で軽自動車からミニバンまでをすべて欲しいと思うお客様はいないからです。

 

小規模でもSUV専門店であるとか、ワンボックスばかり扱っているとか、特化している方がお客様にはうれしいですし、そういう店舗が生き残れるのです。

 

また、お客様は来店前に90%の人がネットで調べてきます。その意味でも大きな展示場など不要です。ネット上ですべてのボルボが見られる仕組みを作れば十分なのです。

 

そのとき必要なものは何でしょうか。

 

中古車がどこにあるのか、場所は関係ありません。どこにあっても、一定水準をクリアした品質であることが重要です。しっかり整備して、タイヤが摩耗していれば交換してある、オイルも交換して、どこで買っても安心な状況を作ることです。

 

お客様は、気に入った車両を見つけたら取り寄せればいいのです。品質が同じであれば、ネットだけで購入の決断ができます。それがボルボの全国お取り寄せ可能、SELEKTなのです。

 

[図表2]「SELEKT+お取り寄せ」はゲームチェンジャー

「全国の在庫はみんなの在庫」という意識が広がる

実はレクサスも同じ仕組みを持っていますが、かつては積極的に宣伝をしていませんでした。それは、中古車ビジネスに強いディーラーが嫌がったからです。全国どこでも注文ができるようになれば、自社の在庫をよそのディーラーに持っていかれてしまう可能性があります。自分たちの利幅を持っていかれてしまうという気持ちがあったのです。

 

これは全体最適に逆行する思考です。中古車ビジネスに強いディーラーにとっても、中古車は早く捌けた方が絶対いいはずです。売れなければ、中古車の価値はどんどん下がってしまいます。

 

ボルボでも導入した当初は不満が出ました。しかし、今反対する人はいません。ディーラー間の中古車の譲り合いは、本当に友好的にできています。全国の在庫はみんなの在庫という意識が広がりました。

 

ほかのディーラーに在庫を出すときに品質が悪いと恥ずかしいから、SELEKT基準をしっかり守ります。そうやって中古車ビジネスが上手く回りはじめたのです。結果、ボルボの中古車価格は高い水準で維持できるようになりました。中古車ビジネスをうまく回転させるためには、中古車価格の水準を維持することも重要です。

 

ボルボが中古車にこだわるのは、理由があります。中古車が売れるかどうかは収益に直結するからです。中古車が売れなければ、オークションなどに卸すことになり、ディーラーは利益を確保できません。それが巡り巡って全体に悪影響を及ぼします。

 

ボルボでは中古車部門でも全国会議を開催しています。全国の中古車ディーラーが東京に集まり、情報を共有しているのです。

他ブランドが「ボルボ保険」に追随できないワケ

自動車保険も工夫しています。ボルボ保険に加入していただくと、トラブルがあった場合に、年に1度修理に適用することができます。例えばタイヤがパンクして修理をしても、ボルボ保険の無事故等級は変わりません。

 

今年、修理に適用しても、来年になればまた補償を受けることができます。これをインテリガード10と呼んでいます。ほかのブランドも同様のサービスを実施していますが、その範囲が限定的です。ボルボでは10種類以上の補償が対象ですが、ほかのブランドでは、2、3種類程度しかないのです。

 

ほかのブランドでは難しいにもかかわらず、ボルボで提供できる背景にはこれまでの実績があります。このようなサービスを付帯するには長期にわたって保険料と支出のバランスが取れた運用が必要ですが、ボルボではバランスが崩れるリスクが低いために実現できたのです。

 

このサービスを開始してからすでに4年が経過しましたが、ほかのブランドは追随してきません。追随しないのではなく、できないと考えたほうが自然でしょう。

 

保険を含めて「金融商品は差別化ができない」というのが常識ですが、お客様が違えばそれも可能であることがボルボ保険で証明されたといえるでしょう。

 

[図表3]ボルボ保険に付帯されている補償の内容

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    木村 隆之

    幻冬舎

    経営は「データ」「アイデア」「ストーリー」だ!4年間で売上1.6倍!大躍進の鍵を日本法人社長が自ら明かす。ボルボ・カー・ジャパンを再生させた敏腕社長の経営ノウハウを詰め込んだ一冊。

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