ボルボのディーラーに顧客満足を植え付けた「木村塾」とは?

若者のクルマ離れやカーシェアの普及で国内の新車販売数が伸び悩んでいる。そんな中、2015年からの4年間で売上1.6倍を達成、2018年には日本カー・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞するなど、絶好調といえる自動車ブランドが「ボルボ」である。どのようにして無骨なイメージからプレミアムカーブランドへと進化を成し遂げ、大躍進を果たすことに成功したのか。本記事では、ボルボ・カー・ジャパン株式会社代表取締役社長・木村隆之氏が、ブランド再構築のために取り入れた手法を解説する。今回は、ディーラーのオーナーに対し、ボルボ・カー・ジャパンが実施している、「次世代経営者」育成プログラムについて見ていく。

承継すべき「顧客満足度の向上」につながる経営とは?

ボルボ100%出資の日本法人ができてから35年近く経過し、ディーラーが代替わりする時期になっています。ディーラーのオーナーが自分の息子や娘に事業承継をする、そんな時期に到達しているのです。

 

次世代の経営者をどう育成するか、サポートするかは、ボルボ・カー・ジャパンにとっても非常に大きな課題です。現在、ディーラーは約45社ありますが、そのほぼ半分にあたる22社から後継者を集めて、次世代経営者育成プログラムを実施しました。

 

ボルボ・カー・ジャパンのマネージャークラスの幹部候補も7名が参加しました。2015年に半年間かけてじっくり勉強し、最近では木村塾と呼ばれています。

 

代替わりをするときに事業を引き継ぐ経営者は、経営の軸を持つ必要があります。それは自然にできるものではありません。しっかりと学んでおく必要があるのです。ビジネスの定義に始まり、従業員満足が基礎にあり、顧客満足度の向上につながる経営を学ばなければならないのです。

 

それがいかに収益に直結しているかを理解することも重要です。最近は人手不足が深刻になっていますから、生産性を向上させることも課題です。

 

日本人の場合、優秀なビジネスパーソンでも、MBAのエッセンスはあまり学んでいません。ディーラーの若手経営者の中には海外に留学している人もいますが、語学留学プラスα程度で、MBAまで学んでいる人は少ないのです。

 

しかし、財務、経理、マーケティング、人材マネジメントなどの分野で定石を知っておかないと、経営判断のレベルが変わってしまいます。

 

木村塾では、その部分を徹底的に教えました。

 

また、欧米のビジネススクールに受け入れてもらえる前提は、クリティカルシンキング(批判的思考)です。これもまたビジネスに欠かせない知識ですから、木村塾に取り入れました。

 

参加者には本を読む習慣のない人も多くいました。そこで5冊ほどの課題図書を設定して、感想を書いてもらう取り組みもしました。今月の1冊を指定して感想を書いてもらい、それに対して私がコメントをします。

 

加えて別の人が書いた感想も読むようにシステムを構築しそれを勧めました。それにより、読んだ本は一冊でも“学び”は雪だるま式に増えていきます。

 

社会人になってしまうと学びの機会は少なくなってしまいます。それをどうするかは非常に大きなテーマです。その意味で木村塾は大いに役立ったと考えています。現在でも半年に一度、フォローアップ講習をしています。代替わりする際には、何を変えるかをしっかり自分の中に持たなければなりません。

 

次世代の経営者が自分で会社を変えることが必要なのです。

不真面目な経営者がいるディーラーは契約を打ち切る

今では木村塾で学んだメンバーが少しずつ社長になり始め、ほとんどのディーラーで方向性が揃ってきました。その基本はES(従業員満足度)を上げてCSを上げることです。

 

第2回でブランドロイヤリティについて説明しましたが、ブランドロイヤリティを上げる、つまりCSを上げるためにはまずESを上げることが欠かせません(関連記事『ボルボ・カー・ジャパン社長が語る…「指名買い」が増えたワケ』参照)。実際に、ESが低かったディーラー経営者が木村塾を受講してすぐさま人事制度改革などのES向上に取り組み、それからディーラーの褒賞プログラムに毎年入賞するようになったという例もあります。ブランド価値の向上は、まず従業員の満足度を上げることから始まるのです。

 

年に一度実施するディーラー大会では、J.D.Power SSI輸入車ナンバーワンの座から落ちた昨年の結果を踏まえて「今年は取り返す」とディーラー代表が宣言するなど、士気も高まっています。ディーラー会の会長も木村塾の卒業生ですから、ディーラーとの関係が非常に密になっています。

 

どこの自動車会社でもそうですが、インポーターにとってディーラーはお客様です。コミュニケーションには非常に気を遣うものですが、ボルボの場合は木村塾の塾生が大半ですから、その点で関係が非常にうまくいっているのです。

 

最近は卒業生からの依頼を受けて木村塾はどんどん拡大しています。経営者だけではなく、拠点長などにも教育をしているのです。ディーラーの店舗を合計すると100拠点ほどになりますが、50人ほどの拠点長は同じ研修を受けています。

 

拠点長向けの研修は、経営者が受講した内容ほどではありませんが、知っておくべきことを4カ月ほどかけて研修をしています。月に1度、一泊二日での実施です。

 

このような研修はビジネスを変えるパワーになります。ビジネススキルを上げるのはもちろんですが、同じ釜の飯を食った仲間ができますので研修後も交流が続きます。経営者には従業員に相談できないことが多くあります。孤独な経営者同士で相談できるのは非常に心強いものです。

 

残念なことに木村塾には落第者もいます。彼らは遊び癖がついてしまっていて真面目に仕事をしていませんでした。木村塾へ参加する際も同様で、予習をまったくしてきません。

 

講義中には居眠りをして、一切発言はしません。次世代を担う経営者がそのような状態ですから、ディーラーの成績も不振が続いていました。

 

私が社長に就任するまでボルボは外国人社長で、ディーラーの入れ替えはほぼ行っていませんでした。

 

外国人社長の任期は基本3年間ですから、任期の途中でディーラーとの契約を解除すると、一時的に販売が落ち込みます。新しいディーラーがすぐに立ち上がるわけではないからです。だから解除できなかったのです。

 

私は思い切って、契約を打ち切りました。なぜなら、そのような経営者がいるディーラーは社員のためになりませんし、お客様のためにもなりません。この4年間で9社の契約を解除しましたが、新たに契約したのは1社だけです。

 

契約を解除したディーラーの地域は、周辺で頑張っている他社に担当してもらうなどさまざまな対応をしました。現在ではどの地域でも従来以上の成績となっています。

 

[図表]経営者に求められる4つの資質
[図表]経営者に求められる4つの資質

ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長

1965年生まれ。1987年、大阪大学工学部卒業。同年、トヨタ自動車株式会社へ入社。海外の商品企画を担当し、トヨタに勤めた20年のうち16年間は海外営業を中心に活躍。2003年にはノースカロライナ大学でMBA(経営学修士)を取得。後にレクサス国内営業部に移籍。2007年、株式会社ファーストリテイリングに入社。ユニクロの営業副本部長を務める。2008年、日産自動車株式会社入社。翌年、インドネシア日産で代表取締役社長を務める。その後、アジア・パシフィック日産自動車会社、タイ日産自動車会社の代表取締役社長を務め、2014年にボルボ・カー・ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。社員にもわかりやすい方針と定評がある長期計画を遂行している。

著者紹介

連載日本法人社長が明かす…最高の顧客が集まる「ボルボ」のブランド戦略とは?

最高の顧客が集まるブランド戦略 ボルボはいかにして「無骨な外車」からプレミアムカーへ進化したのか

最高の顧客が集まるブランド戦略 ボルボはいかにして「無骨な外車」からプレミアムカーへ進化したのか

木村 隆之

幻冬舎

経営は「データ」「アイデア」「ストーリー」だ!4年間で売上1.6倍!大躍進の鍵を日本法人社長が自ら明かす。ボルボ・カー・ジャパンを再生させた敏腕社長の経営ノウハウを詰め込んだ一冊。

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