サブカルの街にビジネスマンと学生が増加
中野区は、東京23区の西部に位置し、東で豊島区、新宿区、渋谷区、西で杉並区、北で練馬区に接する。
中野は武蔵野台地の真ん中に位置してことから、その名が付いたと言われている。初めて歴史にその名が登場したのは、和歌山県熊野那智大社に伝わる貞治元年(1362)の「武蔵国願文」という古文書。ここに「中野郷」という地名が記され、ここに住む僧が熊野那智大社に参詣におもむいたとされている。
関東大震災以降、急激に宅地化が進んだ地域で、昭和40年ごろには田畑はほとんど消えた。人口密集地で、人口密度は20,479.15人/㎢と全国2位(1位は豊島区)。道路基盤が脆弱で、緊急車両の通行が困難な幅狭な道が網目のように張り巡らされていた。近年は、徐々にではあるが道路拡張も進み、耐震化住宅も増えている。
このような中野区の中心地となっているのが、「中野」駅周辺である。JR中央線(快速)、JR中央・総武線、東京メトロ東西線が乗り入れる。中央線を利用すれば、「新宿」まで約5分、「東京」には約20分、東西線利用で「大手町」に約20分と、交通の便が良い。中央・総武線を利用すれば、東京東部、千葉方面にもダイレクトに行ける。東西線を利用すれば、中央・総武線や東西線は、「中野」始発の電車も多く、座っての通勤・通学もかなう。
駅周辺は商業集積地となっており、北口には224mのアーケードが続く「中野サンモール商店街」、南口には「南口本通りアーケード街」など商店街が多数ある。
そして、中野のイメージを決定づけているのが、中野サンモール商店街のアーケードを抜けると現れる「中野ブロードウェイ」(正式総称コープ・ブロードウェイ・センター)。1966年に誕生した複合ビルで、低層階はショッピングセンター、その上は集合住宅となっている。「サブカルチャーの聖地」と称され、「まんだらけ」を中心にマンガやアニメなどのアイテムをそろえる店舗が出店。一方で海外でも知られている中古高級時計店が入居し、昨今は外国人観光客からも支持される、観光スポットになっている。
さらにサンモール、ブロードウェイの東側には飲食店が密集。1,000円で満喫できる「せんべろ居酒屋」が多数あるほか、多彩なジャンルの飲食店が点在し、グルメなイメージも浸透。メディアでもたびたび取り上げられる有名店を目指し訪れる人も多い。
このような中野の印象を変えたのが、「中野四季の都市(まち)」。「中野」駅北口の旧警察大学校跡地を活用した再開発で、オフィスビル「中野セントラルパーク」には、キリンなどの企業が入居。早稲田大学、明治大学、帝京平成大学が中野キャンパスを設け、「中野四季の森公園」は広場主体の公園で区民の憩いの場となっている。
北口再開発のインパクトは大きく、通勤者、通学者が劇的に増加、「中野」駅利用者も、2012年には約13万人/日だったが、2018年には約16万人/日と、3万人も増加している。
今後、色々と物議を醸しているが、中野区のシンボルでもある複合施設「中野サンプラザ」の再整備計画が控えている。どのような施設に生まれ変わるか、まださだかではないが、さらに中野の魅力が高まることは間違いないだろう。
2軒に1軒は「現役世代の単身者」
さまざまなイメージが混在する中野だが、不動産投資の観点で見ると、どのようなエリアなのか、分析をしていこう。直近の国勢調査(図表1)によると、中野区の人口増加率4.3%。東京特別区平均を上回る、安定した人口増加を見せている。
年齢別の人口構成(図表2)によると、15~64歳の人口が東京特別区の平均を上回る。さらに世帯数や単身者世帯率(図表3)を見ると、中野区は単身者世帯が多く、さらに単身者世帯から65歳以上の高齢者層を除いた割合が50%強、つまり2世帯に1世帯は現役世代の単身者という結果に。
次に住宅事情を見てみよう。中野区の賃貸住宅における空室率(図表4)は11.3%と、東京特別区の平均8.1%を上回る。賃貸住宅の建設年の分布(図表5)をみてみると、比較的中野区は築年数の古い物件が多いことがわかる。新宿から近く、また都心へのアクセスも良好なエリアとして、1980年~にアパート・マンションが増加。現在築20~40年の物件が多くなり、空室率をあげている可能性が高い。
駅周辺に絞って見ていこう。中野区では1世帯あたりの人数が1.67人に対して、「中野」駅周辺ではさらに下がり、1.58人(図表6)。利便性の高い駅周辺は、さらに単身者から支持されていることがわかる。
「中野」駅周辺のワンルームの平均家賃は、6.39万円。同じようにターミナル駅から5分ほどの駅と比較すると、京王線「笹塚」駅周辺は7.84万円、小田急小田原線「代々木上原」駅周辺で10.06万円、東急田園都市線「三軒茶屋」駅周辺は7.09万円、東急東横線「中目黒」駅周辺は7.09万円と、「中野」駅周辺の割安感が際立つ。利便性の高さと家賃の安さが、単身者から支持される理由だと推測される(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。1平米当たりの平均取引価格は95万円と、中野区平均より15万円ほど高い。中野区の中でも「中野」駅周辺は賃貸ニーズも高く、不動産価格も引き上げているものと推測される。
中野の将来人口の推計を見ていこう。中野区は東京特別区の中でも20年後、人口が減少する区と予測されているが、細かく見ていくと様相は異なる。2020年に328,881人と推測されているが、2030年には328,688人、2040年に328,065年と、ほぼ横ばいといっていい(図表8)。
「中野」駅周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていく(図表9)。黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表すが、駅周辺は青系色が広がっている。しかし将来人口の推移から考えると、人口減少のエリアとされるが、ほぼ現状維持というのが正解だといえるかもしれない。
「中野」駅周辺は、単身者ニーズが高く、人口の流出入が激しいエリアだと推測される。交通、生活の利便性の高さから考えると、その傾向は今後も変わらないだろう。築年数の古い物件が多いエリアでもあるが、「中野」駅北口に代表されるように、エリア全体が更新時期に近づいている。今後、賃貸物件の建て替えが進み魅力的な物件が増えていけば、人口減少という予測も増加に転ずる可能性もある。不動産投資の観点からみると、「中野」は将来的にも魅力あふれるマーケットだといえそうだ。