30年以内にM7の直下型地震の確率は70%だが…
台風19号で多摩川が氾濫。二子玉川や武蔵小杉といった人気エリアで、浸水被害が報告された。不動産投資において、「災害リスク」は常に念頭におくべきといわれているが、まさか東京近郊で水害に見舞われるとは思ってもいなかった不動産オーナーもいただろう。
不動産投資では、さまざまな災害を想定しなければならないが、その危険性が高まっているのが、地震である。首都直下型のM7クラスの地震が今後30年以内に起こる確率は70%。それが30年後かもしれないし、明日かもしれない。地震リスクは、常に背中合わせと言える状況だ。
不動産投資では、より地震リスクの小さい地域を選ぶという考え方があるが、東京において、地震に強いエリアはどこなのだろうか。参考にすべきは、東京都が公表している地震の地域危険度である。
東京都では、地震の揺れによる「建物倒壊危険度(建物倒壊の危険性)」「火災危険度(火災の発生による延焼の危険性)」「総合危険度(2指標に災害時活動困難度を加味して総合化したもの)の危険性を町丁目ごとに分析。平成30年に公表された第8回目の調査では、都内の市街化区域の5,177町丁目について、5つのランクに分けて相対的に評価をしている。
その調査によると、東京都23区で最も地震リスクが高いと評価されたのは、「荒川区町屋4丁目」(図表1)。東京メトロ千代田線「町屋」駅、都電荒川線「町屋駅前」駅から徒歩5~10分程度のエリアで、交通至便なエリアだが、川によって運搬された砕屑物(礫、砂、泥)が積もった沖積低地で、地盤は弱い。また木造の建物が密集しているため、火災による延焼も想定される。
危険度ランキングで上位を占めている地域は、軟弱な地盤、木造住宅密集地という共通点がある。これらの地域は、リスクを考慮して不動産投資を考えなければならないだろう。
一方、東京23区で地震リスクが小さいと評価されたのは、総合順位が同率で「4767位」となった地域で、333あった。そのなかで今回、「地盤」に注目して、さらに絞り込みを図った。
東京都23区の地盤は、大きく「台地」「谷底低地」「沖積低地」に分類されるが、「沖積低地」は前出の通り地盤は弱い。次に周辺の台地に比べると相対的に地震動による被害が発生すると想定される「谷底低地」も除外した。残る「台地」は「台地1」と「台地2」と分類されるが、後者は表層に軟弱な層(未固結の粘土層等)が存在する地域で、台地の中では相対的に被害が発生しやすいと想定されるということから除外した。
さらに地域の大部分を自衛隊の駐屯地や公共施設が占めるなど、不動産投資向きではないエリアも除いた。その結果残ったのが図表2。目黒区は「池尻大橋」付近、千代田区はお茶の水・駿河台付近、練馬区は光が丘や氷川台付近、世田谷区は環状8号線沿いの千歳台付近、板橋区は「東武練馬」駅の北側のエリア。これらの地域は地盤が強く、火災による延焼リスクも低い、つまり地震リスクが低いエリアと評価された。
今回はその中で「目黒区大橋2丁目」をピックアップし、周辺地域の不動産投資の可能性を探ってみよう。
交通&生活の利便性が高い「目黒区大橋」
目黒区大橋は、同区の北部に位置する。頭上を首都高速3号線、地下を田園都市線が走る玉川通りに面する交通の要所である。
「大橋」という名前の由来は、江戸時代までさかのぼる。当時、この一帯は上目黒と呼ばれる地域の一部だった。付近を流れる目黒川は川幅が広く、大きくしっかりとした橋を架ける必要があったという。そこで文化年間(19世紀初頭)ごろ、上目黒村の中村勘右衛門により、長さ7間×幅9尺、おおよそ13mという当時としては巨大な橋が架けられた。現在、国道246号線が目黒川をまたぐ際の橋が、当時の大橋部分だという。
創架当初から近隣では「大橋」と呼ばれていたが、正式に命名されたのは昭和44年。新町割案をめぐり住民投票が行われ、「青葉台四丁目・六丁目」「南駒場」をおさえ、「大橋」が選ばれた。
最寄り駅は東急電鉄田園都市線「池尻大橋」駅で、2019年10月現在、急行は停まらないが、「渋谷」まで1駅3分。「二子玉川」駅のほか、小田急線「祖師谷大蔵「成城学園前」、京王線「調布」駅などに向かうバス便も豊富で、交通至便なエリアである。
周辺は住宅街だが、地域のシンボルである大橋ジャンクションと一体となって整備差された高層マンション「クロスエアタワー」「プリズムタワー」には、図書館や区役所の出張所などの公共施設や、スーパーなどが入居。また玉川通りを挟んだ東山地区には、生鮮食品店や飲食店、金融機関などが点在する池尻大橋商店会があり、最寄り品はひと通り揃う。
目黒区大橋は、交通、生活、どちらの利便性も高く、賃貸ニーズも高いエリアだと推測される。
単身者ニーズの高い「池尻大橋」駅周辺の今後は?
目黒区の人口動態を見ていこう。国勢調査によると、人口増加率は3.5%(図表3)、単身者世帯の割合も51.0%(図表4)と、東京都23区の平均値に近い。65歳以上の割合が東京都23区では21.5%に対して目黒区は19.9%と平均を下回っていることから、比較的若い世代に選ばれる地域だといえる。
次に住宅事情を見ていく。目黒区の空室率(図表5)は7.3%と、東京都23区平均を下回る。賃貸住宅の築年数の分布(図表6)を見てみると、1980年代に建てられた物件が最も多く、東京都23区平均と比べると、築年数の古い物件が多く点在する地域であることがわかる。空室率が低いことを見ると、物件の築年数に関わらず入居者が集まる、賃貸ニーズの旺盛なエリアだと推測される。
続いて、大橋地区の最寄りである「池尻大橋」駅周辺について見ていこう。駅周辺の平均世帯人数(図表7)は1.87と、単身者ニーズの高い地域だといえるだろう。
さらに、直近の中古マンションの取引状況から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみよう(図表8)。「池尻大橋」駅周辺の中古マンションの平均取引価格は約3,500万円で、1平米当たりの平均取引価格は、87.5万円。これは目黒区平均110.4万円を下回る。「渋谷」に至近である立地から、メインで取引される物件が単身者用であることから、必然的に平均取引価格が安くなっていると推測される。
将来人口推移(図表9)を見ていこう。東京特別区の人口は2030年、13,882,538人でピークアウトしていくが、目黒区は2040年に301,037万人でピークを迎える。平均と比較して10年も遅く、不動産投資の観点から見ると有力な候補地となるだろう。
駅周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていく。黄色~橙で10%増、緑~黄緑0~10%、青系色で減少を表すが、「池尻大橋」駅周辺(図表10)は安定的な人口増加を示している。
◆まとめ
人口動態や不動産マーケットの状況、将来人口の推計から、目黒区大橋、最寄り駅でいえば「池尻大橋」駅周辺は、単身者ニーズを捉えた安定的な賃貸経営を目指せる地域である。
さらに東京23区内では地震リスクの最も少ない地域のひとつであり、その点においても、安心して賃貸経営に集中できる、オーナーにとってうれしい環境であるといえるだろう。