普及が望まれていた「定期所有権」であったが…
「定期所有権」という造語がありました。
これは定期借地権と所有権を組み合わせたもので、定期借地権の応用とされたものです。この「定期所有権」とは、定期借地期間50年分の地代を当初の権利金に含めて一括前払いする、そのかわりに賃借権より強い権利である地上権を登記するというものです。
地上権は[物権]として単独で売買することができるため、地主の承諾が必要な借地権[債権]より権利が強いことになります。しかも、通常の定期借地権である賃借権は登記をしないので、地上権として登記をするというだけで、借地人からするとかなりしっかりした権利保全が可能となるのです。
このように「50年地代一括前払い」型定期借地権は、定期借地には違いないものの、一括の代金授受で所有権に近い利用権を得られるため、「定期所有権」と名付けられました。
当然、期限が到来すると土地を返還しなければならないのは、所有権とは大きく異なりますが、その分、所有権の5割程度(≒権利金+地代50年分の対価)ぐらいが適当な価格設定となり、利用権とその対価とのバランスで合理性があるとして、普及が望まれていたのです。
ただ、その「50年地代一括前払い金」に対する課税負担が大きすぎるのが難点でした。一般的な借地権を設定する場合、超長期でその土地を使用できる権利が生じることになるため多額の権利金の授受がなされています。これは定期借地権設定時においても同様です。
権利金は、返還義務がないため、礼金のような収入という扱いになり、個人の土地所有者が権利金を受取ると所得税の課税がなされるのです。「50年地代一括前払い金」も従前は権利金・礼金と同じ扱いとなっており、その税率は所得税と住民税合計で最高55%(課税区分は不動産所得で総合課税)となってしまい、権利金を受取る土地所有者の手取り額が激減してしまったのです。これでは土地所有者が「定期所有権」として活用するインセンティブがなくなってしまいます。
権利金に対して、保証金という形でまとまった金額を受取るということも考えられましたが、デメリットも少なくありません。保証金は預り金となり、課税は回避できるものの、定期借地契約終了後(50年後)には、保証金も返還が必要です。
長期にわたってその債務を管理していかねばならないのです。借地人からすると、長期の預入れとなるために、土地所有者が破産する場合など、多額の保証金が返還されない可能性についても考慮しておかねばなりません。また50年後にインフレになっているようであれば、保証金は目減りしてしまうことにもなるのです。
地代について「毎年の損益計算」の枠組みで計上可能に
このように、定期借地の普及において、従前の権利金方式や保証金方式は阻害要因となってしまっていたのですが、2005年に転機となる判断がありました。定期借地においては、土地使用の権利がいずれ消滅していくものであるから、普通借地と同等の取扱では合理性がありません。
そこで権利金ではなく、「地代を50年分一括で前払いするもの」であると整理することで、一回の授受ではなく、毎年の年次の授受として、会計処理していいこととなったのです。
この適用においては「一定の様式に準拠した契約」を締結するなど、条件はあるのですが、土地所有者は収受する地代について、毎年の損益計算の枠組みで計上できるため、税負担を抑えながら、キャッシュフロー上は一回でまとまった権利金の受け取りが可能になったわけです。
同時にこの認定は借地権者からみても有効でした。従前は、支払った権利金は取得簿価として計上することになっていたのですが、毎年の支払地代を費用として計上できることになったためです。土地はそもそも減価償却できないものですが、前払地代を毎年費用化できることは土地に対して減価償却類似の会計処理をできることになったのです。
これにより、お寺や大使館のような非課税法人ではなくても、低未利用地の活用について、定期借地権の設定がぐっと現実化したわけです。
「リースホールド住宅」(定期借地権付戸建分譲)事業では、このフレームをもっと活用することを提起しながら、駐車場でもない、コンビニでもない、住宅用地としての活用を目指します。