自筆証書遺言のようなリスクが存在しない公正証書遺言
前回、自筆証書遺言の書き方については、法律で非常に厳格なルールが定められていると説明しました。
ただ、仮にルールに従って遺言書を作成することができたとしても、遺言書の内容が他の相続人、たとえば仲の良くない兄弟姉妹にとって不利益なものであれば、被相続人自身が間違いなく書いたと証明できるわけではないので、「偽造したのではないか」などと不当な言いがかりをつけられるおそれがあります。
一方、公正証書遺言は、公証人が作成してくれるので、自筆証書遺言にみられるようなリスクやデメリットはありません。
すなわち、間違った書き方をして遺言書が無効になるおそれはありませんし、中立かつ公正な立場にある公証人が作成しているのですから、他の相続人から偽造等を疑われることもありません。
そのような理由から、筆者が相続対策をサポートするときには、公正証書遺言にすることを強くお勧めしています。
公正証書遺言の具体的な手続きの仕方について説明しておきましょう。まず、遺言者は、原則として公証役場に赴くことが必要となりますが、高齢で体力が弱まっていたり、あるいは病気等のため出向くことが難しいような場合には、公証人の出張を求めることができます。
また、遺言者の真意を確保するために、証人二人の立ち会いが求められているので、証人を探して同行させることも必要となります。
遺言者は証人の面前で、公証人に対して遺言の内容を口頭で伝えます。公証人はそれを、遺言書にまとめていきます。公証人は、裁判官や検察官等の法律実務に携わってきた法律のプロなので、法的に問題と思われるところがあれば、指摘してくれたり、アドバイスしてくれたりします。
できあがった遺言書の原本は公証役場に保管され、正本と謄本が遺言者に交付されます。作成を依頼する際には、次の資料が最低限、必要となるので準備しておきましょう。
①遺言者本人の印鑑登録証明書
②遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本
③財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票
④財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
⑤証人の名前、住所、生年月日および職業をメモしたもの
それほど高くはない作成費用
また、作成費用はさほど高くありません。簡単に説明すると、遺言の目的となる財産の価額に対応する形で、次のような基準で手数料が定められています。
財産の相続もしくは遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出して、それを先に提示した基準にあてはめて、その価額に対応する手数料額を求めます。最後に、それらの手数料額を合算して遺言書全体の手数料を導き出します。
なお、全体の財産が1億円以下のときには、遺言加算として先のように算出された手数料額に1万1000円が加算されるなど、ケース・バイ・ケースで作成費用は異なる可能性があります。