納税資金対策としても活用される生命保険だが・・・
本連載の締めくくりとして、今後の税制改正の動向に関連して気になる点に触れておきたいと思います。
従来、相続税対策としては生命保険金を利用した節税方法が多用されてきましたが、この手法については今後、警戒が必要となるかもしれません。まず、生命保険金を利用して、そもそもどのような形で相続税対策を行うのかを確認しておきましょう。
被相続人が生命保険に加入した場合、その死によって取得することになった生命保険金の一定額は非課税とされます。これを利用することで相続税を減らすことが可能となります。
たとえば3人の子どもが総額9500万円の財産を相続したと仮定しましょう。基礎控除額(2013年当時)は「5000万円+(1000万円×3)」=8000万円であることから、「9500万円-8000万円」=1500万円について相続税が課されることになります。
しかし、この相続財産の中に、被相続人の死亡によって取得した生命保険金が含まれているとしたら、最大で「500万円×3」=1500万円を非課税財産として引くことが可能となります。すると「1500万円-1500万円」=0円となり、つまり最終的に相続税がかからなくなるかもしれないのです。
また、生命保険金は、相続税対策としてだけでなく、被相続人の死亡によってまとまった金銭が得られる点で納税資金対策としても有効です。
実際、都市農家等では、本家を継いだ長兄に対しては家や預貯金等を相続させ、家を出て行ったそれ以外の兄弟姉妹には、たとえば数千万円の保険金が渡るような形にしておくことはよく行われています。
今後の税制改正には十分な注意を
しかし、近時、このように生命保険の一定額を非課税とすることに対しては、疑問視する意見が強まっています。
そのため、その要件を厳格化しようという動きもあり、実際、税制改正案では、この非課税枠を「生計を一にする者に限る」とする案も提出されていました。このように、制度の対象となる者を「生計を一にするもの」に限定する動きは、小規模宅地等の特例でもすでに見られているものです。
先の税制改正では、最終的にこの案は削除されていましたが、今後のさらなる改正の結果、このような厳格化がなされる可能性は非常に高いでしょう。財務省は、どうやら生命保険がいろいろな法人・個人の節税対策に利用されている現状をあまり好ましく思っていないようだからです。
そうなれば、生計を一にしない相続人との関係では、生命保険が相続税対策としては使えなくなるおそれがあります。
したがって、今後、生命保険の非課税枠が従来通りの形で維持されるのかどうかに関しては、十分な注意を払っておく必要があります。