今年6月に米国のフェイスブックがデジタル通貨リブラの構想を公表しましたが、批判は収まったとはいえません。公表直後の7月、米国議会ではリブラ構想に対し厳しい批判が繰り広げられましたが、先日もドイツのショルツ財務相や、フランスのルメール経済・財務相が欧州ではリブラを認めない旨の発言をしています。しかし、デジタル通貨批判一辺倒に変化の兆しも見られます。
国際決済銀行:デジタル通貨について幅広い議論を展開
国際決済銀行(BIS)は2019年9月16日に、グローバルな「ステーブルコイン」(法定通貨に価値が裏づけされたデジタル通貨)について会議を開催しています。
会議のアジェンダを見ると、グローバルなステーブルコインの発行を目指す機関として、リブラ協会やJPMコインのJPモルガン、Fnality Internationalがプレゼンテーションに参加、その目的などについて説明するとされています。
また、法的な課題であるマネーロンダリングやテロ資金に利用されることを防ぐ方法、個人情報の保護なども話し合われた模様です。
どこに注目すべきか:リブラ、ステーブルコイン、基軸通貨体制
今年6月に米国のフェイスブックがデジタル通貨リブラの構想を公表しましたが、批判は収まったとはいえません。公表直後の7月、米国議会ではリブラ構想に対し厳しい批判が繰り広げられましたが、先日もドイツのショルツ財務相や、フランスのルメール経済・財務相が欧州ではリブラを認めない旨の発言をしています。しかし、デジタル通貨批判一辺倒に変化の兆しも見られます。
まず、ステーブルコインについて確認します。ステーブルコインは、法定通貨に価値をペッグしている点で、以前は仮想通貨、現在では暗号資産と呼ばれるビットコインなどとは異なります。リブラはドルや円などのバスケット通貨と連動する仕組みだからです。リブラのバスケット通貨に対する価値は安定することが想定されます。
一方、ビットコインは法定通貨の裏づけが無く、投機が主な保有目的であることから価値の変動が大きく、通貨としては不適切です(図表参照)。
一方、価値の保全や、特にリブラの場合は潜在的ユーザーであるフェイスブックの利用者の多さからデジタル通貨としての潜在能力が高いがゆえに、実用化された場合の不安について、国家主権(通貨発行差益の損失)の問題から、監視体制、セキュリティ、個人情報保護などが一気に噴出しました。リブラの構想に、銀行がはいっていないことも印象を悪くしたように思われます。
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ただ、批判は収まってはいないものの、デジタル通貨に前向きな動きも見られます。その一つのきっかけは、8月のジャクソンホールにおける英国中央銀行、カーニー総裁によるデジタル基軸通貨体制の提唱です。長期的な構想なので注目度が低い面はありますが、現在の米ドル基軸通貨体制は、戦後米国が強大な国であったから機能したのであって、今後も機能するか疑問があり、米国の代わりが中国になるのではなく、デジタル通貨を、その候補として提唱しています。
別のデジタル通貨の動きを加速させる要因として、中国の中央銀行によるデジタル通貨発行(CBDC)計画が挙げられます。日銀の資料によると、中国人民銀行は16年1月に将来的に中央銀行がデジタル通貨を発行する計画を公表しています。
もっとも、中国は14年には研究を開始していた模様です。中国は暗号資産の取引所を閉鎖するなど、かつての仮想通貨(暗号資産)からは手を引く一方で、デジタル通貨については準備を進めていたことになります。もっとも、中国の背中を押したのは、先のリブラ構想では人民元がバスケット通貨に採用されない可能性が高い中、デジタル通貨を急いだ可能性も考えられます。中国のデジタル通貨(CBDC)がどのような姿なのか、全容はわかりませんが、ウォレットを端末にダウンロードし、デジタルキャッシュを商業銀行の口座から移すイメージで、いわゆるトークン型(中央銀行の帳簿を経由しない)が想定されているようです。
時間はかかるかも知れませんが、デジタル通貨を取り巻く環境に、何かが変わりつつあるように思われます。
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『リブラ、ステーブルコイン…デジタル通貨に見える変化の兆し』を参照)。
(2019年9月18日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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