日本の富裕層が「国際的な贈与」での節税を考えなくなったワケ

「国際的な贈与」とはどういうことでしょう。本記事では「海外に住んでいる人たち」が、「海外にある財産」を贈与したり受け取ったりすることによって行う節税の仕組みをご説明します。ただし、結論から申し上げますと、「国際的な贈与」による節税は2019年9月時点では非常に難しくなってきているのが現状です。これを順を追ってご説明いたします。

改正前は「5年ルール」と呼ばれる規制があったが…

まず大前提としまして、贈与者(あげる側)も受贈者(受け取る側)も日本に住んでいる場合、日本国内にある財産も、国外にある財産も全てが贈与税の対象となります。

 

一方、贈与者と受贈者が海外に住んでいたり、日本国籍がなかったりした場合には、一定の要件を満たせば国内財産のみが贈与税の対象となり、国外財産は贈与税の対象としないことができます。

 

「国際的な贈与」による節税というのはすなわち、この「一定の要件」を満たして国外財産を贈与税の課税対象にしないことを狙う仕組みです。

 

現在の「要件」については後程詳しくご説明しますが、2017年の税制改正前は通称「5年ルール」と呼ばれる規制があり、2017年3月31日以前の贈与であれば、贈与者と受贈者がともに5年を超えて日本の非居住者(国内に住所がない者)であるときは、国内財産にしか課税されず、国外財産には贈与税がかかりませんでした。

 

この「非居住者(国内に住所がない者)」には明確な定義がありませんが、一般的には一年の半分以上を海外で暮らせば「非居住者」になると解釈されていました。そこで、年間183日以上を海外で暮らし、それを5年間続けていれば、国外財産をいくら贈与しても贈与税を払わなくてすむという節税を行う人がいました

 

日本の富裕層の方たち、特に一代で財を成した不動産業者やパチンコ業者、IT長者の一部の人たちは、このルールを利用して節税するために、財産を受け取らせる子供や家族を連れて香港やシンガポールに5年間限定で移住していたようです。

 

ところが2017年の税制改正により、この手法を用いた節税のための要件が非常に厳しくなりました。

国内財産と国外財産の明確な区分とは?

2017年度の税制改正以降の現行の課税関係をルールをご説明します。このルールは2017年4月1日以降の贈与に適用されています。

 

まずは下の表をご覧ください。課税される財産の範囲(国内財産と国外財産)は、贈与をした時点での贈与者と受贈者の住所等により細かく定められています。

 

この表の中で、オレンジ・赤は「国内財産のみ課税」、白(オレンジ・赤以外)は「国内財産及び国外財産の全てに課税」を意味しています。

 

要件が非常に細かく定められており、表の下の※まで読むと非常にわかりづらくなりますが、最低限おさえていただきたいポイントは以下の二点です(細かく調べる必要のない方は、※の部分は読み飛ばしてください)。

 

①2017年の税制改正によって、国外財産の課税対象外しは非常にハードルが高くなりました。

 

②特に富裕層の節税対策のための拠り所であった「5年ルール」が「10年」となり、贈与者・受贈者ともに10年間海外で暮らさないと、国外財産を贈与税の対象から除外することができなくなりました(表の赤部分)。

 

[図表]
[図表]

 

※1:国内に住所及び在留資格(※6)があって、贈与前15年以内において、国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である受贈者

※2:国内に住所及び在留資格(※6)があって、贈与前15年以内において、国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である贈与者

※3:国内に住所がなく、贈与前10年以内に国内に住所を有していたことがあるが、贈与前15年以内において、国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である贈与者(この期間引き続き日本国籍を有していなかった贈与者に限定)

※4:国内に住所がなく、贈与前10年以内に国内に住所を有していたこともない贈与者

※5:ここに該当し、かつ、贈与者が外国籍の場合は経過措置が認められており、2017年4月1日~2022年3月31日の期間であれば国内財産のみの課税となります。

※6:この在留資格とは、出入国管理及び難民認定法別表1の上欄の在留資格を言います(詳細な説明は割愛いたします)。

 

ちなみに国内財産と国外財産の区分は、財産の種類毎に所在場所等によって明確に定められています。主な財産については次のとおりです。

 

不動産・・・不動産の所在

預貯金・・・その受け入れをした営業所または事業所の所在

株式、社債等・・・発行法人の本店または主たる事務所の所在

生命保険契約などの保険金・・・契約を締結した保険会社の本店または主たる事務所の所在

 

少し分かりづらいのが金融機関の預貯金や有価証券ですが、具体的には以下のように考えます。

 

外国銀行の在日支店にある預金・・・国内財産

国内銀行の海外支店にある預金・・・国外財産

東証上場の外国会社株式・・・国外財産

国内で購入した外国債・・・国外財産

 

その他の種類の財産につきましては国税庁のHPをご確認ください(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4138.htm)。

 

国際的な贈与による節税のハードルが非常に高くなっていることがお分かりいただけたかと思います。

 

また、税務署による税務調査の観点からも、最近は海外財産の課税強化の傾向にあり、海外との取引や海外送金の履歴があると調査に入られる可能性が高くなっていると感じます。

 

このような背景を考えますと、海外財産のご購入や海外への送金等を行われる場合には、国内取引を行う場合よりもより慎重に税務の処理を行うことをおススメします。

税理士法人ブライト相続 税理士・公認会計士

東京都国立市出身。2006年、監査法人トーマツ入社。上場企業の財務諸表監査、内部統制監査、上場支援、M&Aアドバイザリー業務等に従事。2012年、税理士法人レガシィ入社。200件以上の相続税申告、生前の相続対策、事業承継対策、家族信託・遺言作成コンサルティングなどの資産税業務に従事。2019年に税理士法人ブライト相続を開業。

著者紹介

税理士法人ブライト相続 税理士

東京都江東区出身。2004年、金井公認会計士事務所入所。中小企業者の法人税、所得税及び消費税申告業務を中心に、資産税業務、月次経理業務、給与計算業務その他幅広く従事。2012年、税理士法人レガシィ入社。200件超の相続税申告、相続税還付、遺言その他相続対策コンサルティング業務、相続セミナー講師、税制改正プロジェクト等に幅広く従事した後、2019年税理士法人ブライト相続開業。

著者紹介

連載相続専門税理士が教える!今すぐできる相続税対策~「生前贈与」の安全な進め方

本連載は、「贈与のススメ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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