「中小企業のIT化」の意味を履き違えてはいけない
多くの経営者が、自社にIT化が必要だと感じていることでしょう。しかし、IT化は最終目的ではなく、経営課題を解決する手段に過ぎないのです。
「中小企業にはIT化が必要」というのは、「中小企業にはIT化で解決できる課題が多く残されている」という意味であることを忘れてはなりません。
正しいIT化のために必要なのは、
① 自社の抱える課題を把握する
② IT化によって解決すべき課題なのか検討する
③ 具体的な手段を選択する
というステップです。いずれかの段階をおろそかにしてしまうと、IT化に期待するような効果は得られないでしょう。
① 現状の課題を把握する
ここからは架空のA社を例に、正しいIT化に必要なステップを紹介します。
A社では、経理担当者Bの残業が多いことが問題になっている。
原因を調査したところ、取引の伝票や領収書を会計ソフトに入力することに、多大な時間を要していることがわかった。Bの仕事振りや能力に問題はなく、ただ業務量が過大であると考えられる。
さて、残業が多いという問題が発生したわけですが、これだけでは具体的な課題であるとはいえません。いくらでも要因が考えられるためです。
残業時間が長い ⇒ 特定業務に時間がかかっている ⇒ 業務量が多い
と原因をより深く掘っていくことで、解決すべき課題が見えてきます。課題が間違っていては、良い結果が得られるわけがありません。根本的原因の判別は、IT化に限らず問題発生時には当然行うべきことでしょう。
② IT化によって解決すべき課題なのか検討する
課題について検討した結果、A社に経理担当者を増員する余裕はなく、現在の業務フローを改善することで業務時間を短縮するような余地もない。IT化による業務の効率化によって課題の解決を目指す。
前項で残業が多い原因は入力業務にあると判明し、これを解決するための手段として「IT化」を検討しています。もちろん、それが最適解なら導入すべきです。
一方で、「問題解決策=IT化だけ」というわけではないのも、念頭にいれておいてください。IT化は1つの選択肢ですから、企業にとってより良い手段があるのであれば、IT化にこだわる必要はありません。IT化が目的となっている場合、このステップを怠り、効率の悪い投資を行ってしまうかもしれません。
「ソフトを導入して終わり」ではない
③ 具体的な手段を選択する
手入力のしやすい会計ソフトと、入力を一部自動化できるクラウド会計ソフトを比較し、クラウド会計ソフトの採用を決めた。取引をできるだけネットバンキングを通して行うようにしたことで、入力の手間は大きく削減された。
このステップに至り、ようやく具体的なソフトの検討となります。
上記例では会計ソフト・クラウド会計ソフトと一まとめにしていますが、実際にはそれぞれ多くのソフトが存在しており、どれが自社に合ったソフトなのかを判断するのは難しいでしょう。
しかし、類似ソフトでも、設定できる項目や操作のしやすさ、後々の拡張性など様々な特徴を持っていますから、比較検討し、本当に必要な機能を持っているものを採用しなければ、あとから「あの導入は失敗だった」となりかねません。
また、ソフトを導入して終わりではなく、無理のない形でソフトに合った業務へと改善を行うことで、IT化の相乗効果が生まれることでしょう。
IT業者や知り合いの社長に勧められるなどして、いきなりこのステップから始め、「ソフト導入ありき」というケースもあるかと思いますが、良いソフトと聞いて「自社でも機能するだろう」と考えるのは危険です。まずは業務に当てはめて検討する必要があります。
◆まとめ◆
IT化と一言でいっても、企業によってあるべき姿は様々です。
ただ話題のソフト、評判のソフトを導入するのではなく、しっかり段階を踏んで検討を行うことが大切です。本当に必要なソフトを導入するなど、自社に合った形でのIT化を進めることで、業務効率が向上し、売上に結びついていくことでしょう。自社内で判断するのが難しい際には、専門家への相談も検討してみてください。
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