税務調査での指摘が多い「名義預金」の申告漏れ
相続税の対象となる財産は、基本的には被相続人名義の財産です。しかし、配偶者や子供・孫などの名義で預金されていても、それが形式的なものであって、実質的には被相続人のものであると判断される場合は、相続財産として申告する必要があります。これを「名義預金」といい、税務調査の対象になりやすい財産のひとつです。
よく相続対策やペイオフ対策などで家族の名義を借りて預金口座を増やす場合がありますが、その行為が贈与でない限り、税務調査で名義預金と判断される可能性が高いといえます。なお、この名義預金の考え方は、保険商品や有価証券などについても同じ扱いとなります。
◆名義預金と判定されないために
名義預金の判定に際してのポイントは、その原資が被相続人から贈与されたものであるかどうかということです。贈与ではないと判断される場合には、被相続人の相続財産とみなされます。
贈与というのは贈与する人の「あげます」という意思表示と、受ける人の「もらいます」という意思表示によって初めて成立しますので、一方だけの意思表示では認められないのです。税務調査で確認されることの多い名義預金の判定基準は下記のとおりです。
① 名義人に相応の収入があるかどうか?
名義人に相応の収入があれば、それなりの貯蓄があっても問題ありませんが、収入のない名義人に多額の預金残高があれば、その資金源泉はどこにあるのかといった問題が生じます。
② 贈与をした客観的な事実があるか?
名義人に相応の収入がなくても、贈与により財産を移転していれば、その預金は名義人の財産となります。
そのために、証拠として贈与契約書を作成することは大切です。かつ、公証役場で確定日付をとっておけば、贈与の証拠として確実なものとなります。
また、現金贈与の場合は、贈与する人の預金口座から贈与を受ける人の預金口座に振込みを行い、客観的な贈与の事実を残すことも肝心です。たとえば、贈与契約書を作成した上で、親の預金口座から子の預金口座に振込むことによって、現金が移動した事実を預金通帳上に残します。
さらに、贈与金額を111万円として、贈与税を1,000円納付するとともに、申告書を税務署へ提出することによって、贈与した事実を残すという方法もあります。
名義変更の「安易さ」が、預貯金の申告漏れを促す
③ 口座開設の印鑑は別のものか?
家族名義の預金の印鑑のすべてが同一印鑑であり、しかも、それを被相続人が自らの預金通帳に使用しているものと同一である場合には、名義預金と指摘される可能性が高くなります。
④ その通帳は誰が管理しているのか?
預金通帳や証書等を誰が管理していたかが名義預金の重要な判定材料となります。たとえば、被相続人がすべて自分で管理しており、その名義人が、通帳の存在自体を知らないという場合には、贈与があったはずもなく、単なる名義借りとみなされる可能性が高いでしょう。
贈与された財産は、当然のことながら贈与を受けた人が管理してください。ここでいう管理とは、贈与を受けた人が、その贈与を受けた財産をいつでも自由に使用できる状態にあるということです。
たとえば、親が子名義の預金口座に現金を振り込んで現金贈与を行っていたとしても、子がその贈与を知らず、通帳や印鑑を親が管理したままというケースでは、贈与とは認められないことがあります。贈与した人の「名義預金」とみなされ、贈与した人の相続財産として相続税が課されることになります。
このようなケースで名義預金とみなされないためには、新たに預金口座を開設する時の預金口座申込書を、贈与を受ける人の自筆で記入・署名し、贈与を受けた人が使用する印鑑で捺印することが大切です。もちろん通帳や印鑑は贈与を受けた人が管理する必要があります。
◆まとめ◆
相続税の調査で見つかる申告漏れ財産のうち、約4割は「現金・預貯金等」であり、そのなかでも相続人名義の預貯金が相続財産から漏れているケースが多いです。
預貯金の申告漏れが多いのは、預貯金は生前に名義を安易に変更することができるため、相続財産を減らすための対策として、家族名義の相続財産がないか、調査官は相続人の預貯金の動きも含め入念にチェック(通常相続発生前、約5年~10年)するからです。
このように名義預金は税務調査の重点項目です。税務調査で名義預金として指摘されないよう、そしてうっかり高額な税金が課されないよう、事前の対策を行いましょう。
ひかりアドバイザーグループ
ひかり税理士法人