個人所有の賃貸用建物を「法人所有」に切り替えることで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。今回は、ひとつ事例をご紹介します。

「法人化」で節税と権利関係の調整が可能に

今回は、個人所有の賃貸用建物を法人所有に切り替えた事例をご紹介しましょう。

 

85歳のAさんは、5年前に夫が亡くなって3件のアパートを相続しました。このうち2件は土地も含めて所有権が複雑でした。物件①はAさんと子1人で共有、物件②はAさんと子2人で3分の1ずつ共有と、権利の組み合わせがそれぞれ異なっていたのです。

 

おそらく、夫の相続を担当した税理士が調整して、このような形にしたのでしょう。その時点では、いろいろなことを考慮した結果、この形がもっともよい判断だったのであろうと思います。

 

しかし、相続したあとが大変でした。毎年の確定申告では、物件①の家賃収入はAさんと子1人で半分ずつ、物件②は3人で按分して支払うなど、とても手間がかかっていたのです。

 

そんな状況を改善したいと、Aさんは筆者のところへ相談にいらっしゃいました。Aさんはこの複雑な権利関係に辟易していましたし、実際に相続税がどうなるかも心配していたのです。

 

そこで筆者はAさんに、賃貸用建物の法人化をお勧めしました。今持っている賃貸用建物を法人化することで権利関係を1つに集約し、そこから家賃収入を子に分配していくのです。これを聞いたAさんは「この方法なら権利がわかりやすいし、相続も心配ない」と乗り気だったので、早速法人を作り、賃貸用建物を購入しました。

 

ローンは30年に設定し、現在は家賃が法人に入っているので、給与として相続人が受け取っています。もちろん「土地の無償返還に関する届出」も行い、年に1回は固定資産税の2.5倍で地代を支払うよう設定しました。

 

その数年後、Aさんは亡くなりました。法人化しておいたことで相続税はゼロ。家賃収入もすでにわかりやすく分配されていたため、相続人同士で争うようなこともありませんでした。

 

これは、法人化によって、節税と権利関係の調整をうまく活用したよい案件でした。

相続税対策成功のカギを握る「ストーリー」とは?

Aさんが相続税対策に乗り出したのは、すべて子どもたちのためでした。賃貸用建物を法人化したのも、「不動産の権利関係を整理し、子どもたちのために相続をスムーズに行いたい」という思いからです。

 

このように、相続にはその家族ごとの〝ストーリー〞があります。

 

この法人化に限ったことではないのですが、相続税対策には大なり小なりストーリーがあります。ストーリーとは、相続において「何が問題となっているのか」「どのように進めていきたいか」「最終的にどうなりたいか」といった課題や目標、希望です。

 

節税が第一の目的だったとしても、必ずその裏には何かしらのストーリーが隠されているはずです。実は相続税対策を成功させるポイントは、このストーリーをどこまで強調していけるかというところにもあると筆者は考えています。

 

ただ単に「相続でかかるお金を節約したいから法人を作りました」「節税のために建物を売ります」では、税務署職員も生身の人間ですから、すんなりと納得しようと考えないでしょう。

 

しかし、「子どもたちが遺産分割でもめないように、複雑な権利を集約しておきたい」とか、「複雑で管理の難しい不動産を整理しておきたい」という課題や目標、希望は、当然のこととして誰もがやっておきたいものですから、納得しやすいのです。

 

筆者は、こういったストーリーを見つけ出すことも、税理士の役目だと思っています。それが、相続税対策が成功する1つの秘訣であると信じているからです。

 

ただ単に電卓をはじいて計算するだけではなく、案件ごとにもっとも合理的で、効率的で、皆が幸せになれるストーリーを見つけ出せるかどうか。そのためには、実務やスキルだけではない〝想像力〞が必要なのです。

本連載は、2013年11月27日刊行の書籍『大増税時代に大損しない相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大増税時代に大損しない 相続税対策

大増税時代に大損しない 相続税対策

北村 英寿

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策を成功させるためには、実行に移してからの最終的な「出口戦略」まで考える必要があります。 「出口戦略」とは、相続税対策のために購入した賃貸不動産の最終的な顛末を考えることです。 相続発生後は、基本的にそ…

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