「横浜」「桜木町」「関内」…それぞれの姿
大手住宅情報サイトの『住みたい街(駅)ランキング』でトップの常連と言えるのが「横浜」だが、この話題が出ると必ずと言っていいほど「横浜はどこを指すのか?」という問題が出てくる。いわゆる「横浜」駅は、誰もが想像する「みなとまち・横浜」のイメージではないので、ランキング自体を疑問視するというものだ。
この問題に関しては、「横浜」と回答した半数以上が神奈川県在住であることから、回答者は駅周辺の環境を知ったうえで答えていると推測され、「横浜」=住みたい街というのは、正当な結果だと言えるだろう(神奈川県民が横浜を崇拝している結果、とも捉えることができるが……)。
今回、「住みたい=投資したい」と並列で語ることができるのか、「横浜」を舞台に検討してみた。また上述のように、「横浜」駅周辺と世間的な横浜のイメージには相違がある、ということから、隣の「桜木町」と「関内」も加えて、考察していく。
横浜市は、人口3,748,322人(2019年9月現在)と、日本で一番人口の多い市であり、東京都に次いで人口の多い神奈川県の県庁所在地である。その中心である「横浜」駅は、横浜市西区に位置し、JR、東京急行電鉄(東急)/横浜高速鉄道、京浜急行電鉄(京急)、相模鉄道(相鉄)、横浜市交通局(横浜市営地下鉄)の計6社局が乗り入れ、一駅に乗り入れる鉄道事業者は日本最多である大ターミナル駅である。
「東京」駅には東海道線、「新宿」駅には湘南新宿ライン、「渋谷」駅には東急東横線で30分弱と、東京都心へのアクセスも良好。都心への通勤・通学者にとっても、至便なエリアだといえる。
開業は、遡ること1872年。日本初の鉄道が新橋~横浜間で営業が開始された。しかしこのときの「横浜」駅は現「桜木町」駅に相当し、関東大震災後の1928年、第三代駅舎が現在の地に造られた。それと前後するように、東急東横線や京急本線、相鉄本線などが乗り入れ、1976年には市営地下鉄、2004年にはみなとみらい線が開通。現在も工事は進行中で、「横浜」駅は常にどこかで工事を行っていることから「日本のサグラダ・ファミリア」と揶揄されることもある。
「横浜」駅周辺は商業・オフィスビルが林立した、日本でも有数の繁華街。「ルミネ横浜店」、「相鉄ジョイナス」、「横浜ポルタ」と駅直結の商業施設をはじめ、西口には「横浜髙島屋」や、「横浜岡田屋モアーズ」などの大型商業施設、地区唯一の高級外資系ホテル「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」が展開。県庁所在地にふさわしい街区を形成している。
一方東口には、「そごう横浜店」が入居する「横浜新都市ビル」や、「マルイシティ横浜店」が入居する「横浜スカイビル」といった大型ビルが建つほか、隣接するヨコハマポートサイド地区には商業施設「横浜ベイクォーター」が展開。みなとみらい地区への玄関口としての機能も併せもつ。
「横浜」駅の隣が「桜木町」駅。横浜市中区に位置し、JR根岸線のほか、横浜市営地下鉄3号線(ブルーライン)が乗り入れる。さらに以前は、東急電鉄東横線の終着駅でもあったが、2004年に横浜高速鉄道みなとみらい線が開業し相互直通運転が始まると廃止された。
前述の通り、1872年に「横浜」駅として開業。「桜木町」という名称になったのは、1915年のこと(「横浜」駅の第二代駅舎の誕生により。なおこのときの「横浜」駅は、現横浜市営地下鉄・高島町駅の近くにあった)。
以前は、みなとみらい地区への玄関口として栄えていたが、みなとみらい線が開通するとその地位は低下。しかし駅下に商業施設「CIAL桜木町」が誕生したほか、「クロスゲート」や「ヒューリックみなとみらい」など、大型複合ビルと隣接。JRでリーチする人にとっては、今なお、みなとみらい地区の最寄り駅として賑わっている。
また駅の南西に広がるのは、昨今せんべろ(1000円でべろべろに酔える)で人気の野毛地区。全国的にもディープスポットとして知られており、「桜木町」は近未来と昭和ノスタルジーが交錯する街として、近年人気が高まっている。
さらに「桜木町」駅の隣が「関内」駅。横浜市中区に位置し、JR根岸線のほか、横浜市営地下鉄3号線(ブルーライン)が乗り入れる。
ペリーが来航し、寒村だった「横浜村」が開港されたのが、1854年。現県庁のあたりに関所のようなものを設けられ、その関門の内側である横浜側を「関内」と呼んだのが名前の由来である。
いわゆる横浜発祥の地であり、駅北側は横浜の行政の中心地として、神奈川県庁や横浜市役所、横浜税関など、行政機関が集積。レンガ造りの建物が多く残されており、いわゆる「ノスタルジックな横浜」は、このエリア。横浜中華街や山下公園など、横浜を代表する観光名所のほか、ハイソな店が並ぶ元町地区や、外国人遺留地として人気の山手地区にもリーチできる。
「関内」駅の南側は、かつての商業の中心として発展した伊勢佐木町地区。1丁目と2丁目は全面歩行者天国の「イセザキモール」、3丁目~7丁目は「伊勢佐木町商店街」と呼ばれ、近年、ミュージシャンのゆずがアマチュア時代にストリートライブを行っていた場所として名を馳せた。しかし「横浜」駅やみなとみらい地区の発展に伴い、相対的な地位は低下。課題となっている。
不動産投資も「みなとみらい」が牽引する!?
三つの地域を分析していこう。まず人口増加率(図表1)。「横浜」駅のある横浜市西区は3.86%増に対し、「桜木町」駅、「関内」駅のある横浜市中区は1.56%。横浜市全体の人口増加率は1.0%となっており、西区は横浜市の人口増加を牽引する存在でもある。増加の一因になっているのが、開発が加速しているみなとみらい地区。開発の進展具合は、今後の横浜市の成長を左右するだろう。また世帯について(図表2)比べると、西区のほうが中区よりも3%ほど単身者比率が高い。東京都心へのアクセスがよく、大規模な繁華街を構成する「横浜」駅のほうが、単身者に好まれる傾向にあると推測される。
住宅事情を見ていこう(図表3)。二つの区を比較すると西区のほうが、2%ほど空室率が高い。横浜市全体では6.36%であり、それと比較しても西区は空室率の高いエリアだと言える。これは国内でも随一の繁華街であり、好アクセスが魅力の「横浜」駅周辺は、単身者の賃貸ニーズが高いエリア(=賃貸需要が高く、物件供給も多い)であることに起因すると推測される。さらに後述するが、「横浜」駅周辺は築年数の古い物件が多く、築古物件を中心に空室が発生していることも要因だと考えられる。
駅周辺に絞って分析していこう。まず人口や世帯について(図表4*)。3駅周辺とも、単身者ニーズが高く、1世帯当たりの人数は2人を下回る。一方、みなとみらい地区は1世帯当たりの人数が2.03人と、2人を上回る。この地区に建つ物件の多くがファミリー向け物件であり、現在、家族層に支持されていることがうかがえる。
*「横浜」駅周辺にみなとみらい地区は含まず
さらに、直近の中古マンションの取引状況から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみよう(図表5*)。3駅とも平均取引平米数が35㎡前後と大きな差はないが、平均取引価格は「桜木町」が91.9万円に対し、「横浜」が66.9万円と大きな差が見られた。その要因として考えられるのが、物件の築年数。「桜木町」周辺で取引された物件は2000年代に建てられたものが多く、平均築年数は13年。一方、「横浜」周辺では2000年代に建てられた物件が目立つ一方で、昭和50~60年代に建てられた物件も多い。平均築年数は21年となり、この差が価格差に大きな影響を与えていると考えられる。
*「横浜」駅周辺にみなとみらい地区は含まず
一方で今回、直近の中古マンションの取引状況には、みなとみらい地区の物件は見当たらなかった。この地区の物件は築浅で、取引数も限られていることが要因と考えがれる。今後、この地区の物件の取引きが増えたときに、不動産市場にどのような影響を与えるか、注意深く見ていく必要があるだろう。
次に将来人口推移を見ていく。実は横浜市全体(図表6)では、2020年に人口はピークアウト。2030年に3,668,329人、2040年に3,529,740人と推移。2015年を100とすると、2040年には94.8となる計算だ。
人口減少は、横浜市でも郊外の金沢区(2040年は76.2*)栄区(2040年は78.5*)、瀬谷区(2040年は83.1*)などが中心。みなとみらい地区擁する西区は、2040年は105.6*と順調に推移。一方中区は、2040年は99.5*と若干の人口減少が見られる。
*2015年時点での人口を100とする
駅周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていく。黄色~橙で10%増、緑~黄緑0~10%、青系色で減少を表すが、「横浜」駅周辺(図表8)、「桜木町」駅周辺(図表9)は、増加傾向である一方で、「関内」駅周辺では、駅南側の伊勢佐木町地区、坂が多い山手地区で、人口減少が目立つ。今後の「関内」駅周辺での不動産投資では、エリアと物件の選定が重要になるだろう。
◆まとめ
今回、住みたい街として人気の「横浜」を中心に、不動産投資の観点で分析してきた。現在の横浜は「みなとみらい地区」が成長を牽引しているが、今後もその傾向は続くと推測される。
しかしこのエリアは、新築物件が多く、中古マンションの取引は少ない。今後中古不動産の取引が活発になったとき、どのような影響を及ぼすか、注意深く見ていく必要があるだろう。
またみなとみらい地区に近い「横浜」「桜木町」は、安定した人口増加、賃貸需要が見込まれ、不動産投資の観点でも魅力的だと言えそうだ。一方、現在人口増加が見られる地区からは遠い「関内」は、今後、エリア選定、物件選びは注意深く進めていく必要があるだろう。