戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、建物の解体のなかでもネックとなる「アスベスト」について解説していきます。

いまでも「アスベスト」は身近に存在する

※記事中には「アスベスト」と「石綿」という表現が登場しますが、同じ意味となります。アスベストとはオランダ語で、近年はアスベストの表現が多く使われるようになっていますが、各種法令や発表資料では石綿と表現されることがあり、本文中でも両方の表現が使用されています。

 

アスベストと聞いて、思い浮かべることは何でしょうか。中皮種(ちゅうひしゅ)や塵肺(じんぱい)といった病気を連想したり、アスベスト原料やアスベストを使用した資材を製造していたメーカーの従業員や周辺住民が被害を受けた問題を思い出したりと、危ないものであるという認識が広がってきているのではないでしょうか。実際にアスベストの危険性は古くから指摘されており、現在の日本でも規制基準を超える割合でアスベストが使用されている製品の使用は禁止されています。

 

それでも世の中にはあらゆる場所にアスベストが使用された製品や塗料が残ってしまっている現実があります。アスベストが使用されていた時期には、アスベストの性質である耐熱性・絶縁性・保温性から、断熱材・絶縁材に非常に多く使用されてきました。またアスベスト含有の塗料は塗装職人からその扱いやすさと値段の安さから重宝されており、多くの建物の塗装として利用されてきた過去があります。あまりに扱いやすい素材であったこともあり、使用が禁止される直前には駆け込み需要で多くの在庫を抱えて、禁止後もしばらくはアスベスト含有塗料が使用されてしまったという話もよく聞きます。

 

実は日本でアスベスト含有製品が使用される前に、世界では、アスベストによる肺がんのリスクが指摘されていました。ドイツではその指摘が1938年になされ、1973年には、当時世界最大のアスベストメーカーが製造者責任を認定。1985年にかけて3万件に上る訴訟が起きる事態となり、連邦倒産法11章(日本の民事再生法に相当)を申請し倒産しました。アスベスト使用のリスクは顕在化していましたが、利便性が先行し広く使用がされてしまった実態があります。

「アスベスト」を必要以上に怖がることはない?

筆者は、本記事以降もアスベストのことを理解してもらえるよう解説を行っていきます。アスベストについて正しい理解をしないと、いたずらに身構えることになり、正しい行動ができません。身近に利用されているアスベストは製品として使用されることで周囲に害を与えることは少ない性質があります。それを製造する時や解体する時に注意が必要な材料であるなど、基本的な理解があれば慌てる必要がありませんし、冷静に身近にあるアスベストを把握することで自分は何をすべきか、ということが見えてきます。

 

それではなぜ今、アスベストをクローズアップするのでしょうか。それはアスベストの関連法規が変わったことで解体に関する費用が大きく膨らむ可能性が出てきたからに他ありません。

 

アスベストに関連する法律は、日本よりも使用開始および普及が早かった諸外国・国際機関で危険性の指摘や法規制などが先行し、日本では実際の健康被害を受けて段階的に規制基準が厳格化されてきました。

 

以下にアスベストに関連する法規や国からの通達を年表にまとめていますが、古くは1960年のじん肺法の制定から始まり、労働者保護からアスベスト含有建材の使用が段階的に禁止されてきました。

 

石綿関連の法規の変遷

なぜ「アスベスト」で解体コストが上がるのか

アスベストの詳しい性質についてはまた別の機会に説明しますが、アスベストはホコリ状態で空気中を浮遊する場面が起きると、呼吸によって人体に取込まれるリスクが発生します。

 

では、アスベストが使用された製品がホコリを巻き上げるのはいつかと考えれば、製造(=建築)される時と解体される時になります。日本でも既に基準値以上のアスベスト含有製品の使用は禁止されていることから、これから製造されることはありません。つまりアスベストの問題は解体時のアスベスト飛散に対してどう対処していくのか、という点に集約されていると言えます。

不動産の解体費用の構成要素

 

以前(関連記事:『建物の「解体費用」まで意識した不動産投資ができているか?』)紹介した解体費用を項目別に分解したチャートにおいて、アスベスト対策としては解体前の「調査」、処分項目として「廃棄・法令対応」が必要となります。

 

どこにアスベストが使用されているかを、あらかじめ調査を通じて把握し、届け出をしなければなりません。しかし実際は事前にこうした調査がされているケースは少なく、解体に際して調査を行う必要が出てきているのです。

 

そして、アスベストが使用されているとなれば、そのアスベストの使用状況に応じた分別処理が必要となります。アスベストは環境省の定める廃棄物処理法の中でも、「爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物」に相当する特別管理産業廃棄物として、通常の廃棄物よりも厳しい規制を満たした処理業社に廃棄を委託する必要があります。危険性の高い廃棄物であることから、基本的には分別除去するにも廃棄するにも、通常とは違った費用が必要となってしまうのです。

 

次回以降、なぜ昔から存在するアスベストが今になって問題となってしまっているのか、そしてアスベストについての正しい知識を紹介していきます。

 

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