戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、最近になりアスベスト対応が厳格化された解体工事の実情を紹介します。

昨今のアスベスト関連の法規を振り返る

※記事中には「アスベスト」と「石綿」という表現が登場しますが、同じ意味となります。アスベストとはオランダ語で、近年はアスベストの表現が多く使われるようになっていますが、各種法令や発表資料では石綿と表現されることがあり、本文中でも両方の表現が使用されています。

 

過去の石綿関連法規のなかで、近年の動きとしては2006年に「大防法」「労働安全衛生法施行令」「石綿障害予防規則」「廃棄物処理法」が改正され、使用材料の重量に対して0.1%を超えるアスベストの使用が全面禁止され、使用済みアスベストの処理に関しての規制も同時に強化されました。

 

その後、2008年に事前調査結果の掲示が義務付けとなり、2013年に解体工事における事前調査及び説明が義務化され、アスベスト処理の作業基準が制定され、関連法規としては2014年を最後に石綿障害予防規則の一部を改正する省令として、より細かな指針が示されてきました。

 

石綿関連の法規の変遷

2017年ごろから、アスベスト関連の工事が増加

石綿関連法規は2008年や最新でも2014年など、随分と前から規制強化が実施されてきましたが、現実の解体現場においては大きな変化が見られない時期が存在しました。

 

2010年代前半、筆者らは首都圏を筆頭に小学校・中学校などの耐震補強工事を多く受注していました。既存校舎に耐震鉄骨ブレスを設置したり、壁に耐震スリットを設置したりなどの工事が多く存在していたのです。

 

こうした学校改修工事は夏休みなどの期間を利用して行われることから、耐震工事以外にも住宅塗装塗り替えと同じように、塗装の塗り替え工事が行われることも多かったのですが、2010年代前半にはアスベスト関連工事は、あまり多く発注されていませんでした。

 

学校施設は昭和時代に建設された校舎が多く、塗装・建材・断熱材などアスベストが使用されている可能性が比較的高い建物であるにも関わらずです。

 

それが2017年頃からアスベスト対策工事が発注され始め、2018年、そして今年の2019年の夏休み期間の学校関連工事はアスベスト除去に関連した工事が大量に発注されています。このようなアスベスト関連工事の発注動向の急激な変化に驚きを隠せません。

 

もちろん近年改修工事が行われている学校建物と、2010年代前半の学校建物に構造や建材の違いはないと言っていいレベルにも関わらず、アスベスト関連工事の発注量が雲泥の差となっているのです。

法規制に遅れて、アスベスト対応が厳密化されたワケ

法改正が行われてから時間をおいて実際の解体・改修工事現場でアスベスト処理が厳密化された背景には、対象となるアスベスト調査の細かな指針や、実際にアスベストをどのように除去したらいいかなどの細かな指針はなく、対策をどう進めたらいいかが理解されなかったことが挙げられます。

 

よく考えてみれば、アスベストと聞けば多くの人が聞いたことがあると答える程、言葉としての認知度は高く、同時に「危険」というイメージも広く認知されているのがアスベストです。一方で、どんな場所にアスベストが利用されてきたのか、そして今でも身の回りにたくさん存在している事実、アスベストは何が危険なのかについての認知は極めて低い状態だと言えます。

 

アスベストの特徴として、安定状態(建材の一部として利用されている状態)では危険性は極めて低く、製造時や解体時に飛沫飛散する時が危険であることが挙げられます。

 

石綿関連法規の規制強化の流れは「人の安全確保」、「使用禁止」そして「適正処分」が基本方針です。アスベスト含有製品を取り扱うメーカーが販売を停止することでコントロールできた使用禁止は規制と共に即実施されました。次に人の安全確保についてもアスベスト除去を危険度のレベル分けをすることで、それぞれのレベルに応じた安全対策を徹底するべく指針がいち早く指定され、現場の体感でも規制と共に割と早い段階から実施がされてきました。

 

しかしながら、適正処分については、2013年の大防法、2014年の石綿障害予防規則の改正で作業指針が出されていたものの、細かな部分で指針があいまいで、抜け穴がたくさん存在する状態であったことから、その実施が徹底されてこなかったと推察されます。

 

うがった見方をすると、アスベスト除去は場合によっては非常に高額な対策費用が必要となることから、多くの対象建造物を所有する地方自治体にとって致命的な法規制となり得ることもあって、数年間の猶予期間を設けたのではないかと考えています。

 

しかし、2016年5月に国立研究開発法人建築研究所から石綿粉じん飛散防止処理技術指針が発表され、この新たな指針の中では「アスベストの飛散防止の観点からの改修または解体工事における塗材除去の適切な実施方法」を多くの検証を元に、より具体的な作業指針として示しています。

 

より具体的な指針が発表されたことで、発注者や工事会社も何をすべきかが明確になり、2017年以降にアスベスト対応が急速に広がるきっかけとなったのです。

 

サイレントキラー(静かな時限爆弾)と呼ばれるアスベストに対しては、改修・解体工事を行う現場全体が危険の除去に動かない限り安全は担保されません。下請専門として建設現場に入る身としては、自衛だけでは従業員を守ることが難しく、こうした法による規制強化は助かります。

 

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