本記事では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の著書『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)より一部を抜粋し、延べ2200件以上の家賃滞納者の明け渡し告訴手続きを受託してきた著者が実際扱った「家賃滞納」事例を取り上げ、普通の人が貧困に陥らないための予防策やトラブル解決方法を探っていきます。

現状、法律は「賃借人保護」に偏った裁きをする

堂々と開き直り、家賃滞納を常習としている人もいます。

 

今やネットで情報が溢れ、検索すれば「どうしたら一日でも長く居座れるか」という知恵も簡単に得ることができます。賃貸物件が数少なかった頃に作った法律が未だ受け継がれているので、賃借人保護に偏った裁きをするのもその原因の一つです。

 

それを逆手にとった悪質賃借人は一定数いて、彼らは家賃を払わずして住み続けるのです。滞納したままとにかくぎりぎりまで居座り、また転居して滞納する。それを繰り返している人も多くいます。

 

ところが、悪質な賃借人の情報はクレジットカードの信用情報のように共有されないので、別の不動産屋に行き、違う家賃保証会社の保証を受ければ、また新たな部屋が借りられてしまいます。

 

そのせいか悪質な滞納者は、確実に増えています。しかも謝罪の言葉を口にするどころか、「払えません、それが何か?」と、完全に開き直っている滞納者もとても多いのです。退去日時の約束をしていても、平気で「引越し代金がないから」と言い訳をして、そのまま住み続ける人もいます。

 

そもそも、家賃を払わない人を即追い出す、ということは日本の法律では許されていません。「家主=金持ち、賃借人=貧乏」といった大昔の認識のもと、賃借人の権利が保護され、家主側の権利は、いつも後回しにされてしまうのです。

借り入れの返済は「家賃収入で賄える」はずだったが…

けれどもすべての家主が金持ちだというのは大きな誤解です。

 

一昔前までは、賃貸物件を建てさえすれば、さして努力しなくても入居者はすぐに決まりました。ところが不動産投資をする人も増え、大幅に物件数が増えた今はそう甘くはありません。数ある物件の中から、自分の物件を選んでもらわなければならない時代になったのです。

 

そんな状況の中で、「年金代わりに家賃収入を」という営業トークに煽られてたくさん賃貸オーナーが生まれました。「不労所得を得ましょう」と、賃貸経営を軽く考えている投資家もいます。ところが現実には入居者を集めることに苦慮して、思ったほど賃貸収入が得られず、大変な思いをしている家主が続出しているのです。

 

そういう家主は物件を建てる際に、多額の借り入れをしているケースがほとんどですが、建築側の営業トークによれば、その返済は「家賃収入で賄える」(しかもそれでもお釣りが出る)はずでした。ただし、それはあくまでも、常に空室がなく、さらに入居者から毎月きちんと家賃が支払われることが前提なのですが、そのリスクを想像しなかったという家主は驚くほど多いのです。

 

同じ1億円でも、株に投資することにはかなり慎重になるはずなのに、賃貸物件への投資となると、なぜか急に甘く考えてしまう人が多い。そう感じているのは、私だけではないはずです。

 

そういう家主にとって、家賃滞納は一大事です。払えないのなら退去してもらいたいのですが、ことはそう簡単ではありません。前述のように、賃借人の権利が守られているからです。そうなると滞納額は増える一方。最終的には法的手続きに着手してでも、出て行ってもらわねばならないことになります。

 

ところが当然ながら、法的手続きにもそれなりの費用がかかります。それでようやく滞納者を追い出すことができたとしても、滞納分の回収は残念ながらほとんどできません。「支払え」という判決は下しても、裁判所は相手からお金をもぎ取ってはくれないのです。

 

滞納分の回収ができない…増加する「家主側」の破産

だったら財産を差し押さえればいいと考えるかもしれませんが、家賃滞納するような人の銀行口座に預金残高が潤沢にあるということは、ほとんどありません。むしろ他にも借金があり、自転車操業になっているケースが大半を占めるのです。差し押さえされては困るほどの蓄えがある人は、そもそも家賃滞納などしないでしょう。失うものがないからこそ、家賃滞納ができると言ってもよいのではないでしょうか。

 

つまり、手間と費用をかけて差し押さえの手続きをしたとしても、滞納賃料の回収はあまり望めないということです。

 

家賃がきちんと支払われてこその賃貸経営です。家賃滞納されてしまうと、家主はその分の負担を背負わざるを得なくなります。そして司法が極端に賃借人保護に偏っているために、家賃を払わない賃借人を勝手に追い出せない、簡単に追い出せない、滞納分の回収ができづらい、そのようなリスクも背負うのです。

 

そのせいで家主側の破産も増えています。物件を手放したいけど、売却代金でローン残額の完済ができないため追い金が必要で、その費用を捻出できないために売却もできない、そんな苦悩を抱える家主はたくさんいます。

 

賃貸経営だって、立派な投資です。株への投資と同様に、十分な知識や経験を積んだ上で慎重に行わなければ、高いリスクを背負うということを忘れてはいけないのです。

 

相続税対策として賃貸経営に乗り出す人も激増し、物件数はさらに増える一方です。需要と供給のバランスは完全に崩れてきています。この先多くの家主が、かなり深刻な空室問題を抱えることになる事態は避けられないかもしれません。

 

そうなると、本来では賃貸物件を借りるだけの経済的基盤がない相手に、滞納のリスクを覚悟してでも貸さざるを得ない家主側の事情も出てくるはずです。そんな家主にとってありがたい存在こそが、まさに家賃保証会社なのです。

 

借りる側には「連帯保証人を確保せずに済む」というメリットを、そして家主側には「万一のときに家賃を代位弁済してくれる」という安心感を与える家賃保証会社は、これからの賃貸業界でなくてはならない存在であることは間違いありません。

 

ただし、一方でそれは家賃滞納を生む元凶にもなる、諸刃の剣なのです。

 

太田垣章子

章(あや)司法書士事務所代表

 

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