本記事では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の著書『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)より一部を抜粋し、延べ2200件以上の家賃滞納者の明け渡し告訴手続きを受託してきた著者が実際扱った「家賃滞納」事例を取り上げ、普通の人が貧困に陥らないための予防策やトラブル解決方法を探っていきます。

消費者金融が大手メガバンクの傘下に

日本では、小さな頃からの「お金」に対する教育がなされていません。「お金のことをむやみに口にするのははしたない」というイメージが根強く、お金に関する知識を得る機会に恵まれません。

 

家賃を滞納する人たちを見ていると、そもそもお金をコントロールするという意識をもてない人が圧倒的に多いと感じます。

 

今の生活を続けていれば家賃が払えなくなりそうな状況に陥っていても、じゃあ、生活レベルを落とそう、あるいはもっと安い部屋に移ろうといった逆算の発想がもてないのです。

 

また、最近は「お金を借りる」ことに対してのハードルがかなり低くなっています。

 

かつては、お金を借りるためには誰かに頭を下げるか、もしくは人目を避けて裏路地にある質屋に行って自分の大切な物と引き換えにするか、つまり何らかの痛みを伴う必要がありました。

 

ところが1970年代後半から消費者金融が急速に普及し始め、気がつけばゴールデンタイムに、前向きなイメージのテレビCMが堂々と流されるようになっています。消費者金融=怖いというイメージはすでに払拭されていると言ってもいいでしょう。さらに進化した消費者金融は大手メガバンクの傘下に入り、消費者はより気軽に無担保でお金を借りられてしまうようになりました。

 

窓口に行かずとも、ATMでも簡単にお金が借りられる時代になり、銀行で自分の預金からお金を引き出すのと大して変わらない感覚で、気軽に借金ができるのです。その結果、安易な借り入れを積み重ね、金銭トラブルに見舞われる人が量産されたのです。

 

日本の裁判所で、一日に消費者金融を含めた金銭がらみの裁判が、いったい何件なされているのかご存じですか?

 

払われていないお金を請求するもの、逆に、払い過ぎた利息を取り戻す請求をするもの。どちらにしてもお金の貸し借りに起因する訴訟は、東京簡易裁判所だけでも一日100件以上が開廷されています。これを全国の裁判所で計算すると、気が遠くなるような数になるでしょう。

 

それでも「お金の教育」に注意を払う人は決して多くありません。きちんと「お金の教育」をしていけば、そのようなトラブルの数は減らせるはずです。でも現実には、元凶を放置したまま、増え続ける訴訟の対応に振り回されているだけなのです。

「安い部屋」を探すのが難しくなってきたワケ

前回述べたように、毎月の最大固定支出となる家賃は、月収入の4分の1以下を目安にした方が安全です(関連記事『「家賃は月収3分の1」で人生転落⁉ 家賃保証会社の功罪』参照)。その一方で、賃金もあまり上がっていないため、多くの人が問題なく支払える家賃は決して高くないのに、実際には家賃の金額は上昇傾向にあるのです。

 

その要因としては、建物の建替えでしょう。昭和40年代に建った木造アパートが老朽化のため建替えられ、高収益を生む建物に移行しています。空室となるのが怖い家主が、人気物件となることを目指して高スペックの建物を建築しているのです。

 

その結果、安い部屋を探すのが難しくなってしまいました。6畳一間で共同便所の物件も、最近ではほとんど見かけません。新築される物件は、オートロック、宅配ボックス、温水洗浄便座、インターネット環境等が完備されているような物件ばかり。そうでないとネット検索にもかからないからです。

 

その結果家賃は高騰し、やむなく身の丈以上の部屋を借りるしかない、という状況になっている可能性もあるのです。

 

身の丈を超えた家賃は当然ながら、家計を圧迫します。いざ生活を始めれば、「もう少し家賃が安ければ生活は楽なのに」と後悔するようになるでしょう。

 

早い段階で安い部屋に移転できればいいのですが、引越しするとなればまた費用がかかりますし、ことはそう簡単にはいきません。

 

そうなると、もはや生活レベルを落とす以外に方法はありませんが、それができなければ、家賃が払えなくなるのは時間の問題なのです。

 

 

太田垣章子

章(あや)司法書士事務所代表

 

家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

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